第17話 悲願の成就とお仕事の話
ひとしきり再会の時間を味わった後、さっそく本題に入る。
セルスティーさんがいた部屋を見回すと、部屋の中央を陣取る大机の前に色々な機材が載せられていた。
周囲の床の上には、大量のかご。
その中にはまた大量の機械部品。
部屋の奥にある黒板らしきものには、メモがびっしりと貼り付けてあった。
冷静でありつつもほんのりと優しがにじんむ日常モードから、仕事モードに切り替えたセルスティーさんが口を開く。
「それで、さっそくで悪いけど、貴方達にはやって欲しい事が山ほどあるわ」
ボア研究所で働くセルスティーたち職員は、空間魔力保有量の計測を進めていたらしい。
各地で集めたデータを元に、地底から湧きだした闇の魔力が風の流れで各地に散布されてしまうという現状をつきとめた。
そして、その魔力を吸着して再び地底に返す為に、湧水の塔の研究も並行して行ってるという所だ。
それが……。
「私が発動させたから、計画が切り替わったんですね」
遅れてやってきたレミーとメリルさんが合流。
自室の部屋でトラブルがあったとかで、それに対処していたらしい。
素早く話の筋を読んだ彼女は、新たにこの場にに加わった。
セルスティーさんの計画は、一部変更。
湧水の塔を使ったものから、未利が魔法を完成させたサテライトを利用した方法へシフトしたらしい。
サテライトが出現した当時の事を思い出しながら、姫乃が発言する。
シュナイデル城攻防戦の最後に、町の上空に顕現した衛星。
この世界には不釣り合いなその鋼鉄の塊は、とても自己主張が強くて目立っていた。
今もシュナイデの町の上空で、ぷかぷか浮かんでいるはずだった。
エアロがため息交じりにコメントすると、なあちゃんも後に続いていった。
「空にあんなものが浮かぶなんで、あの時は本当にびっくりしました」
「そうなの、お空に大きなのがでてきて、見た時に皆わーってなってたの!」
専門家も頭を悩ませるものだったというのに、なぜか未利が完成させてしまったサテライト。
本人は、どうしはどうしてそんな事ができたのか分からないらしい。
外部協力者であるヴィンセントがいうには、彼女の中に眠るとある人物の記憶を読み取った影響だという話だが。
それが誰なのかは明かされていない。
彼女の中に眠るのは、アーク・ライズの住人であるから、そこの世界の人間かと思ったががどうやら違うようだし。
とにかく、話は続いていく。
新たにやってきた人物を見て「だから」とセルスティーが続ける。
「私達の計画を進めるためのピースがそろった。だから、そんなサテライトを作った彼女に、協力して欲しいの」
作った本人に、まだまだまだやらねばならない事がある、とそういう事だろう。
セルスティーの言葉を受けて、未利は頷いた。
「分かりました。私にできる事であれば」
「サテライトは私達の悲願だったの。だけど完成しないと思ってた。だから、湧水の塔を使った計画に妥協したのだけど……貴方が協力してくれるのだったら、あれをもっとよくできるかもしれない。当初の予定より多くの人を救えるかもしれないわ」
「力になれているなら何よりです」
ここで、元の人格だったら、照れるとか戸惑うとかするんだろうけど、とくに思う事なないみたいな反応だ。
そこまで淡泊だと戸惑うのが普通だよね。
セルスティーさんが若干困惑したような視線をこちらに向けてくる。
うん、その気持ちは僕達全員も分かる。
とりあえず、それから細かい予定について話した後、計画の方の話はまとまった。
あとは、僕達の方。
「貴方達には、この町でもデータとりをお願いしたいわ。少し心配な事があるから」
と、新しい仕事を依頼してくる。
もちろん。湧水の塔までにやった仕事の分のお金は、後で支払うと言って。
真面目さんだ。
セルスティーさんの依頼を聞いた姫ちゃんは、ためらいなくうなずいた。
また、彼女と一緒に働けるのが嬉しいのだろう。
「もちろんです。またよろしくお願いします」
姫ちゃんらしく、快くお返事。
うん、彼女らしい。
僕達も、特に反対する理由がないにで右に同じくだ。
でも心配な事とは何だろう。
セルスティーに尋ねてみる。
「何かひっかかる事でもあったみたいだねー。計測器に不安があるとかー?」
「いいえそちらの方ではないわ。今はまだ……。確証が得られたら話す事にしましょう」
しかし、その内容については教えてもらえないらしい。
そういえば、セルスティーさんはこういう人だった。
悪い事とは思わないし、むしろ慎重になるのは良い事だと思う。