第11話 セイン・ホクトノイン
中央領 ディテシア聖堂教会 転移の間
転移の魔法によって辺りに光が満ちた。
眩しいほどのその光が薄れた後、僕達は別の場所に立っていた。
そこは広い空間だったけれど、シュナイデル城の中で見た光景と違って、少し豪奢な内装になっている。
「予定通りの時間ですね」
そんな僕達に声をかけてきたのは、一人の男性だった。
繊細そうな印象を受ける姿だ。
華奢な体格で、運動は苦手そう。
歳は、二十代くらい。
そんな男性は杖をついて、瞼を閉じている。
もしかして、目が見えないのだろうか。
「ようこそディテシア聖堂教の本部へ。お疲れ様でした……といっても、転移魔法陣での移動ですから、すぐでしょうけれど」
敵意を感じさせない柔らかな声で応じた少年は、自らをセイン・ホクトノインと名乗った。
それに応じて、僕達も順番に自己紹介。
まずは、僕達のリーダーである姫ちゃんから。
「は、初めまして、特務隊のメンバーであるヒメノ・ユイシメと言います」
もちろん、この世界流で名前から名乗る。
その次に僕、なあちゃんと挨拶していって、最後に護衛役であるエアロとハイネルさん、ディークさんの事を姫ちゃんの口から述べていく。
「私達の護衛として今回の任務にあたるハイネル・カリバンと、ディーク・カリバン、そしてエアロ・フラクテルです」
彼らは頭を下げて、静かに挨拶。
セインは彼等にも声をかけた。
「お疲れ様です。これからよろしくお願いしますね」
なかなか気さくな人らしい。
聖堂教 本部 応接間
応接間に通された僕達は、出迎えた男性セイン・ホクトノイン……大司教代理と話しをする。
そう、大司教代理。
正式な大司教は、出迎えにはこなかったらしい。
体調が悪いとかなんとか。
怪しい。
コヨミ姫から見せられた資料では、湧水の塔でであった人物の顔が書かれていたけど、仕事しないで一体何をしているのだろう。
「どうぞ、おかけになってください」
うながされて、僕達だけソファーに座る。
ハイネルさん達は、近くに立ったまま。
自分達だけ座るっていうのは気になるけど、それがこの世界のマナーらしいから仕方がない。
特務隊の方が、普通の兵士よりはるかに地位が上なのだ。(兵士が兵士を護衛してる形になるけど、僕達は一応城にやってきたお客様でもあるわけで、ここらへんは事情がややこしい)
目の前、体面のソファーに座ったセインは、一応善人に見える。
見た目通りとは限らないけれど、敵意は感じられなかった。
僕達の年齢を知って、馬鹿にする事はないし、まじめに会話にも応じてくれるようだ。
「では、今回の訪問は前もってコヨミ姫から聞いていた通りの要件でよろしいですね」
「はい」
代表して受け答えする姫ちゃんが緊張しながらも頷く。
ここで僕達がする事は、漆黒の刃と聖堂教とのつながりを調べて、反撃する事だ。
しかし、それを正直に言うわけにはいかないので、別の名目がある。
それは、サテライトの説明だ。
未利が打ち上げた衛星で世界規律(世界のルールのようなもの)が変わってしまったため、当事者である僕達からその説明を行うというものだ。
すでにサテライトの影響は各地で出始めているらしいから、今回の件がなくても説明は必要な事だった。
その他には……。
「調合士セルスティー・ラナーの補助もありましたね」
そうだ。
湧水の塔で分断されてしまったため途中になっていたが、僕達はもともと彼女の手伝いをしていた。
その手伝いをこなすためにも、来ているのだ。
「この地に滞在している間、部屋はこちらで用意させてもらいます。何かあったら、遠慮なくおっしゃってください」
代表して姫ちゃんが頭を下げる。
「ありがとうございます。えっと……ホクトノイン代理司教」
「セインでよいですよ。それが難しければセインさんで」
「分かりました。セインさん」