第10話 中央領へ
あれから更なる調整を進めたのち、先発隊はイフィールとラルド、ウーガナ。
そして未利、メリルさんとなった。
そして後発隊が、姫ちゃん、僕、なあちゃん、ハイネルさん、ディークさん、エアロとなった。
城内 儀式場
そして、各々が準備をすすめていく。
予定通り、先発組を見送った後、後発組の出発の日がやってきた。
時刻は昼よりちょっと前、僕達は転移魔方陣を刻む専用の場所に集まっていた。
アルガラさんやカルガラさんの力を借りて、僕達はこれから魔法で中央領に飛ぶ。
遠くへ飛ぶ方法は、ツバキ君がやったように自前の魔法で飛ぶ方法と、湧水の塔でやったような転移台を使う方法がある。
今回僕達がやるのは、そのどちらでもない魔方陣を使った方法だ。
この世界で魔法を使うとなると、一般的に自分の体にある魔力と補助具となる品物を使って行うのが一般的だ。だけど、大きな魔法を行使する場合は魔法陣を用いるらしい。
といっても、攻防戦で行った大規模な殲滅魔法か転移魔法ぐらいかしかできないらしいが。
魔方陣で行う魔法は、大昔から伝わっている方法で、種類が二つしかないため、それ以外の魔法を行うのは不可能なのだ。
そういうわけで、転移用の魔方陣の上に立った僕達。
それを、陣の外から眺めるのは、魔法を行使するアルガラとカルガラ、見守り要員の雪奈先生と、この城の主コヨミ姫、護衛のグラッソだ。(ユミン達はすでに自前のエルバーンと共に中央領へ旅立っていっている)
見送り組の中にいるコヨミが、心配そうな顔をして言葉をかけてきた。
「皆、無事に帰ってきてね。もし私達の力が必要なら、遠慮なく言って」
その言葉に代表して答えるのは、姫乃だ。
「はい! 必ず。終わったら、皆で帰ってきます!」
「皆で」帰る。
前の世界では、一人で元の世界に帰る事になった姫ちゃんとっては特別な言葉なのだろう。
自分がしっかりしないと、と思っているのかもしれない。
肩の力が入ってるのが少しわかる。
そんな姫ちゃんの緊張をほぐそうと思ってだろう。
エアロやディークさん、なあちゃんが声をかける。
「姫様に心配をかけたくはありませんしね」
「エアロ先輩も、やる気満々だな」
「なあも! なあも頑張るの」
そんなみんなの姿をみて、姫ちゃんは顔をほころばせた。
ハイネルさんはおとなしく見守るにとどめたみたいだ。
三者三様の応援セリフに、もうちょっと色を付けたいところだけど。僕としてはどんな言葉がいいかな。
「僕も、姫ちゃんがきちんと帰宅できるようにがんばらないとねー。途中で迷子になったら大変だー」
「知らない所に行くんだもんね。道に迷わないようにしないと」
「あはは、まじめな返しきましたー」
他愛ないやりとりだったけど、それが少しでも姫ちゃんの緊張をほぐせていればいいと思う。
未利がここにいたら「天然生物か」とか言いそう。
姫ちゃんの様子にはちょっと注意しておかないといけない。
前の世界の事を知ってからもっと自分が頑張らなくちゃ、って思っているふしがあるから、無理をしないか心配だ。
ともあれ、そうこうしている内に挨拶がすんだ。
コヨミ姫が、アルガラとカルガラに視線を向ける。
「では、お願いします」
この双子の大魔導士もけっこうな力(魔力と権力)があるらしいけど、魔方陣を作動させなければならないため、中央領に行くのは無理だ。自分で自分を転移させることはできないらしい。
雪菜先生の力があればできない事はないけど……。
二人は結界を張ってこの城を守らなければならないから、見送る側にしかなれない。
その代わり見た目の似た二人の老人は、
「雪奈の教え子達よ。気を付けるのだ」
「弟子の弟子は、弟子も同じ。生きて必ず帰ってくるがよい」
という言葉を餞別にくれた。
魔力がそそぎこまれた魔方陣が、淡く光り始める。
時間と共にその光がだんだん強くなってきた。
最後にコヨミ姫が祈りの言葉を口にする。
「貴方達の新たな旅路に幸があらん事を」
光はどんどん強くなって、周囲の光景がぬりつぶされていった。