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03 ぼくのレガリア、躍進のはじまり

 牢獄の壁に血を捧げて現れたのは地獄の底に続くかのような不気味な暗い階段だった。中から幽霊は飛び出して来ないし、腐臭が立ち上ってきたりもしない。指先の灯りで奥を照らすも深すぎて先が分からない。

 牢獄の片隅に放置されていた壺を転がしてみると、カンコンと音を立て転がり落ちていき、かなり下の方で何かにぶつかって割れて止まった音がした。

 なるほど?

 とりあえず行き止まりはあるわけだ。


 行ってみる……か?

 ここまで来て行かなかったら一生夢に出てきそうだ。気になる。

 ヤバそうだったら戻ればいいや。


 忍び足で階段を降りる。

 階段は狭く作りが雑で、壁も段々もでこぼこしていた。人が通れればOKという感じだ。

 思うに、これは緊急時の脱出経路なのではないだろうか。こういうのゲームで見た事ある。城でクーデターが起きた時、王族が城を密かに脱出するために通る秘密通路だ。

 そう考えればすごくそれっぽい。俺は王族なのにこの通路の存在を知らなかったが、王族らしい教育を受けた事なんて一度もないし。親父や姉上はコレがあると知っていたのだろうか? 知っていても忘れていそうだが。


 階段を降りきると、そこは三歩で端まで行ける天井の低い小さな部屋になっていた。部屋の床に割れた壺が散乱していて、部屋の中央の一段高くなった台の上で女の子が眠りについていた。

 一目見て分かった。


 美少女じゃん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 年齢は15ぐらいだろうか? ストレートロングの銀髪は指先の灯に照らされ銀色の新雪のように煌めいている。一房を手ですくいあげればさらさらと滑らかに流れて落ちた。なんだこの触り心地? これが髪なら俺の髪はパッサパサのパスタかなんかだ。

 顔は天使のように整っていて、目を閉じ眠っている柔らかで安らいだ表情は聖母そのもの。なんでも許してくれそうな包み込まれる優しさがにじみ出ている。

 神官のローブに似た黒地に金の紋様が入った薄い衣は丈が短く太ももまでしかない。このえっちな太ももで聖職者は無理だから神官ではないな。

 大きく盛り上がった胸元で腕組みしているその姿は何かに祈りを捧げているようだ。


「も、もしもし?」


 絶対起きないぐらいの小声で話しかけるが、起きない。

 絶対に起きないぐらいそっと肩を揺すっても、起きない。

 起きませんねぇ……

 し、仕方ない。起こそうとしても起きなかったんだもんな。

 お、おはようのキスしちゃうもんね。


 白雪姫も王子様のキスで起きたんだから第十八王子のキスでも起きるだろ。

 これは人命救助だから。人工呼吸みたいなもんだから。

 どなたか存じませんがこんなカビ臭い狭苦しい部屋にいたら体に悪いですよ。


 唇を唇に近づける。

 そして急に目を覚ました女の子と目が合った。


「ウワーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ! ごめんなさい下心だったんです!!!」


 バッタの三倍のジャンプで後ろに下がって両手を上げる。全身から嫌な汗がどっと噴き出した。バレたーッ! 起きてるじゃん! 詐欺だ!

 いや違うんすよ。ただあわよくば寝ている隙にキスしちゃおうと思っただけなんですよ。王位継承権十八位のクソザコ王子に美少女と懇ろになる機会なんて一生無さそうだしこのファーストキスの思い出を胸に残りの余生を生きていこうみたいないや正直そんなややこしい事全然考えてなかったし可愛いしキスしちゃおぐらいにしか思って無かったんです。

 だから許して。許されないか。許す理由ねぇわ。シンプルにキモかった。


「性欲に正直すぎて申し訳ない。この通りだ、どうか許して頂きたい」


 女の子の前に跪いて誠心誠意謝ると、起き上がった女の子は不思議そうに首を傾げ、鏡合わせに俺の前に跪いて言った。


「よくわかりませんが、おはようございます王様! 『国家の王権(レガリア)』、これより御身にお仕えします!」

「は?」


 彼女は耳をくすぐる澄んだ声で凛と宣誓した。

 なんだって?










 話を聞くと、彼女は「国家の王権(レガリア)」という名前で、真の王に仕える王権(レガリア)だという。

 王権(レガリア)。最近遺跡から発掘され、大陸に戦乱を巻き起こしているなんかスゲーアイテムだ。太古の昔、最初の王に神が授けた神話的アーティファクトであり、真の王の証であり、所有者に絶大な力をもたらすという。


 神が与えたという怪しげな話の真偽はどうあれめっちゃ強いアイテムなのは間違いない。数年前まで大陸には百近い国家があったのに、今は王権(レガリア)を持つ国が地図を整頓しまくり残り十国を割った。頭の悪い殲滅併呑速度だ。

 王権(レガリア)の神話とその神話が現代に蘇ったという噂は市井にも知れ渡っている。劣悪な統治をしているウチの国(ザヴィアー王国)では王権(レガリア)を持つ正当な王が治める国に亡命する者も少なくない。

 先日も「王権(レガリア)を持たねば王に非ず」と叫んだ市民が親父に処刑されていた。声を上げれば殺されると分かっていただろうに、それでも我慢できないほどだったという事だ。やるせない。叫ぶのは舞台女優への声援だけで十分だ。


「それで、貴女は自分がその王権(レガリア)だと? 人間にしか見えませんが」

「私は王の国政を補佐する宰相型の王権(レガリア)ですので」


 ストレートに疑問をぶつけると、彼女は畏まって一礼し、控え目に答えた。


「宰相型」

「五つの王権(レガリア)には五つの形状があるのです。王冠だとか、王剣だとか。私は宰相――――つまり人型です」

「なるほど?」


 

 俺は生返事しながら彼女の丈の短い神官ローブ? のスカートから覗く太ももを気付かれないようにチラ見した。

 宰相なのにえっちじゃん。

 なんで? 嬉しくなっちゃうよ?

 宰相という生き物はみんな老齢のおっさんかお爺さんだと思っていた。親父の宰相は白髪の小太りじいさんだし、親父に代わって雑に国政を仕切って贅沢を極めてるぞ。彼女とは正反対だ。


「貴女は私が王権(レガリア)を担う王だと仰ると?」

「はい、ザヴィアー様」

「申し訳ない。ザヴィアー様と呼ぶのはおやめ頂けますか」


 家族と一緒にされたようで鳥肌が立つ。

 俺が苦しみを声にすると、彼女は可愛らしく首を傾げた。


「ではギルバード様と。それから私に敬語は不要です」

「……敬語をやめたら馴れ馴れしいと軽蔑しませんか?」

「いいえ、とんでもない! 王をどうして蔑ろにしましょうか。私の事はどうぞ物として扱って下さい。私はギルバード様が持つただの王権(レガリア)なのですから」

「え、無理」


 相手が物だろうがロボットだろうが触手だろうが幽霊だろうが魔物だろうが、見た目が可愛い女の子なら好きになっちゃうのが業の深い男の子の性癖ってものだ。

 美少女を物扱いするのは生理的に無理ですね。俺は相手が美少女なら例えそれが俺を殺しに来た悪魔でも美少女扱いするぞ。舐めんな。


「無理ですか。私に何か不足が……?」

「いやむしろ可愛さが足りすぎてるので」

「ああ、王権(レガリア)が汚れて不細工ではそれを持つ王の格まで疑われますから。ギルバード様に相応しく在れれば良いのですが」


 彼女は不安そうに俯いた。

 大丈夫だ安心してくれ。むしろ俺が隣に立って見劣りするんで。

 彼女の……ん? そういえばまだ名前聞いてなかったな。


「君の名前は?」

「『国家の王権(レガリア)』です」

「それはアレだろ。種族名というか称号だろ」


 俺の「第十八王子」みたいなものだ。肩書であって名前ではない。

 問うと彼女は腕組みしてうんうん悩み始めた。可愛い。


「名前ですか。名前、名前~……えっと、よろしければギルバード様が付けて下さいませんか?」

「俺が?」

「ギルバード様に名前を頂ければこれほど光栄な事はありません」

「めっちゃ持ち上げるじゃん。じゃあ、そうだな。トリシャでどうだ?」

「! 拝名しました。これより私の名前はトリシャです。どうぞトリシャの事はトリシャとお呼び下さい」


 トリシャは嬉しそうにニコーっと笑った。

 トリシャはこの世界の女神の名前だ。気に入ってくれたなら何より。


「まあ、なんだ。とりあえず上に行こうか? ここは狭い」


 手を伸ばせば触れ合える距離で話しているとドキドキしてしまう。

 俺達は長い階段を上りながら、お互いの事について話した。


 トリシャは自分の事を王権(レガリア)だと言う。選ばれし王の到来によって覚醒する前の事は何も覚えていないそうだ。

 今大陸を戦乱の渦に叩き込んでいる大国たちの王権(レガリア)も遺跡から不意に発見されたというから、王城の秘密の地下室に王権(レガリア)があったというのもおかしくはない。


 だがこうして隣を歩いているととても世界を変革する絶大な力を持ったアーティファクトには見えない。聖女か天使か絶世の美少女か。階段を上るだけの動作に気品がにじみ出て俺よりも王族らしい。言葉遣いも畏まっていて俺に対する敬意に溢れ、礼儀正しい忠臣といった印象だ。


 自分を物扱いしてくれと言ったぐらいだし、まさかなんでも言う事してくれたりする? えっちな命令したら失望しました実家に帰りますとか言われないかな。

 どこまで許されるか分からない。これだけの美少女に嫌われたら死んでも死にきれない。慎重に行こう。


 現在の俺の状況を話して聞かせると、トリシャは憤慨した。


「信じられません! 奸臣と愚王の巣窟ではないですか! 皆殺しにしましょう!」


 腕をぶんぶか振り回して興奮している。

 物騒ーッ! けっこう好戦的だね君。


「殺すとかは置いといて、正直やり返してはやりたいな。俺じゃなかったらもう百回ブチ切れてるぞ」


 そして百回返り討ちにあって粛清されている。

 どんな仕打ちを受けても継承権と権力は絶対。王位継承権三十位の雑魚が声を上げたところで囲んで叩かれ死だ。


 だが王権(レガリア)が味方なら話は別。

 トリシャが本当に神話に謳われ大陸に覇を唱える王権(レガリア)の一翼だというなら、この息の詰まる苦境もなんとかしてのけるに違いない。

 よしんばなんとかできなくてもこれだけの美少女が慕ってくれたらそれだけで人生黒字大勝利。もう勝ちしか見えない。最高だな!


「牢を出たら考えてみるか。頼りにしてるぞ」

「ええ、トリシャは国家の王権(レガリア)。お任せ下さい!」


 トリシャは胸に手を当て自信満々に言った。


【復讐リスト】


国王・アーサー=キングス=ザヴィアー十三世

王妃・ソエモノ=ザヴィアー

側室・ドクフ

側室・ムダヅッカイ

側室・ホウトゥ

側室・ヤリタイ=ホーダイ

側室・カオダケー

側室・イ=ロジカケ

第一王子・ソクオチ=ザヴィアー

第二王子・マケマシター=ザヴィアー

第三王子・ボロマッケ=ザヴィアー

第四王子・ヤナーヤツ=ザヴィアー

第五王子・ゴウモン=ザヴィアー

第六王子・ウラギーリ=ザヴィアー

第七王子・アークニン=ザヴィアー

第八王子・ワルイヤッツ=ザヴィアー

第九王子・イヤガラッセ=ザヴィアー

第十王子・サツジンキィ=ザヴィアー

第十一王子・ダマシウチ=ザヴィアー

第十二王子・ドロボゥ=ザヴィアー

第十三王子・ズルッコ=ザヴィアー

第十四王子・ネトッチャル=ザヴィアー

第十五王子・ナンモデキネ=ザヴィアー

第十六王子・アシヒッパルゥ=ザヴィアー

第十七王子・ゼンブダイナシン=ザヴィアー

第一王女・アクヤック=ザヴィアー

第二王女・タカビシャー=ザヴィアー

第三王女・ワガマーマ=ザヴィアー

第四王女・フーリン=ザヴィアー

第五王女・ウワキィ=ザヴィアー

第六王女・ショウワール=ザヴィアー

第七王女・イヤミッタラシー=ザヴィアー

第八王女・モーダメ=ザヴィアー

第九王女・ゼンブダメ=ザヴィアー

第十王女・ウソバッカ=ザヴィアー

第十一王女・チンパン=ザヴィアー

第十二王女・アノヨイキ=ザヴィアー

宰相・バイコク=ド

国務大臣・ムノゥ=ワルモノ

財政大臣・ワイ=ロー

交易大臣・チャク=フック

司法大臣・トリアエズ=シケー

文化大臣・ラクシテ=サボル

将軍・クー=デター

その他・妾と愛人と汚職官僚100余名

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復讐リスト長すぎるww トリアエズ=シケー すき
[良い点] 将軍は一周回って正気なのでは? そう思わざるを得ない酷い(褒め言葉)名前の羅列
[良い点] チャック=フックが一番語感好き
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