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04.『4ヶ月が経過』

読む自己で。

 優しいなんて言われると思わなかった私は少しだけ固まった。


「悲しませたくないという理由から未琴ちゃんの家に住んであげようとしたり、いまだってわたしが急に誘ったのに嫌な顔ひとつせずに付き合ってくれてるからさ」


 麻倉先輩はまたあの素敵な笑みを浮かべ灰色の瞳でこちらを見ていた。

 とはいえ、平柳さんからすれば迷惑だっただろうし、よくわからない流れでも断ることではないから麻倉先輩に付き合っただけだ、褒められることではない。


「でも、ちょっと深く、難しく考えすぎちゃうところがあるみたいだね」


 碓かにそうかもしれない。

 こちらがいくら考えたところで相手の思考なんて読めないのに、勝手にひとりが好きだとか迷惑だとか考えて行動するところがある。

 そういうところを直していきたいとは思うが、人間はやっぱり怒られたり冷たく対応されたくない生き物だろう。だから自衛のためにこうしているわけで。


「ね、芽衣ちゃんは未琴ちゃんのことどう思ってる? 嫌い? 好き? それとも興味ないのかな?」


 興味がないわけではない。が、嫌いとか好きとか言えるほど近づけてはいないと思うので、わからないと答えておいた。

 私たちはまだひとつも友達らしいことができていない。どうせ一緒にいるなら、友達でいるなら私はらしいことをしたいと考えている。

 けれど、平柳さんにとっては本があればいいみたいに感じてしまうのだ。で、あまり強気な姿勢にもなれなくて困っている、と言うのが正しいだろうか。


「会いたいって思わない?」

「私は仲良くしたいと思っていますけど、向こうにとっては多分違いますから」


 自分も本は好きだけど、あそこまで愛すことはできない。

 見出したり、怒ったり、悲しんだり、楽しんだり、あそこまで感情移入することができないから。

 中学校で読書の時間が設けられていたからとか、広美さんや瀞人さんが帰ってくるまでの時間を埋めるとか――本を読む理由なんてただの時間つぶしのためでしかない。


「芽衣ちゃんの答えを聞かせてよ」

「……会いたいですけど、言ったところで意味ないじゃないですか」


 いまの親密度なら夏休みに会うことだってないだろう。

 というか積極的に自分が外へ出ようと考えていないし、まず有りえない。


「あのさ、実はいるんだよね未琴ちゃん」


 彼女が指差した方を見てみると、まさかのまさか、平柳さんが座って本を読んでいた。向こうが気づかなかったのは読書パワーだが、どうして私も気づかなかったんだろう。


「ごめんねっ、芽衣ちゃんを連れてきてって頼まれててさ」

「だ、だからってどうしてここなんですか?」

「ここがお気に入りの場所だから、かな」


 まあ碓かに静かで大変落ち着く場所ではあった。

 それこそ読書をするには店員さんの心情はどうであれ、最適な場所と言える。


「お金はわたしが払っておくから行ってあげて?」

「え、そんなの悪いですよ。それと平柳さんは読書中全然気づかないので……」

「あのね? 未琴ちゃんは右耳が弱いから囁やけばいけるよっ。それじゃあね!」


 伝票を持って彼女はレジへと行ってしまった。

 ……仕方ないので平柳さんの後ろに移動する。

 相変わらず集中して読んでいるため気づかない。


「ひ、平柳さーん」


 申し訳ないと思いつつも右耳に吐息がかかるように計算し名前を呼んでみた。


「ひゃぅ!?」


 と、本を放り投げバッと耳を抑える平柳さん。

 こちらを見る彼女の顔は真っ赤になっていて、おまけに涙目になっていて、かなり申し訳なくなった。


「ごめんなさい、失礼します」


 罪悪感がやばかった。あと、悲鳴がなんかえっちかった。

 麻倉先輩が会計を済ましてくれていたのでスムーズに退店でき、無心で帰路に就く。


「ま、待ちなさいっ」

「あぅ……」


 腕を掴まれて私の足はすぐ止まる結果に。


「ふ、普通に声をかけてくれたらいいでしょうっ?」

「えー、でも平柳さんって読書中、全く反応しないからさー」


 もうあの喫茶店に行けなくなった云々とぶつぶつ呟いていたが、ひとつ息をついてから瑠璃色の瞳でこちらを捉える。


「……自由とは言ったけれど、声くらいかけてくれてもいいじゃない」

「帰るってちゃんと言ったよ? だけど聞こえてなかったみたいだからメモ用紙に書いたんだよ」

「……あ、あなたがしたことは残酷なことなのよ? せ、責任を取りなさい!」

「えぇ……」


 こっちだって寂しさがヤバかったし、全く引き止めてくれなくて悲しかったし、いろいろと事情があるんだけどなあ。


「それでなにをすればいいの?」

「あ……分から、ないわ……」


 そうしたら私はもっとわからなくなってしまう。

 己が動くと微妙な結果になるので、とにかく彼女が考えつくのを待つしかない。


「と、友達になりなさい」

「えぇ、もう友達じゃなかったの?」

「あっ、そ、そうよね……えと、必ず1日に1回は会いに来なさい!」

「命令形……」


 でもあれか、こういう形なら行くしかなくなるというわけか。

 麻倉先輩に指摘されたように難しく考えて距離を作る必要もなくなるわけだ。


「それって夏休みも?」

「あ、当たり前でしょう」

「ふふふ、寂しがり屋なんだね」

「本は純粋に好きだけれど、……ひとりは寂しいのよ……」


 そうかな? こっちに気づかないくらい集中していると思うけど……。


「あ、あと、ああいうことはやめなさい」

「あははっ、麻倉先輩から聞いたんだー! えっちくて良かったよ?」

「ばっ――向坂さんってアホよね……」

「えっ!?」


 なんで急に私は罵倒されているんだろうか。


「と、とにかくっ、毎日会いに来るのよ? 約束よ? 破ったら……あなたの大切な物をもらうわよ?」

「た、大切なものって?」

「……大切な物は大切な物よ」


 だからそれを聞いているのに……本を読んでいるのにあれなのかな……。


「んんっ! ……帰りましょう」

「そうだね」


 が、結局別れ道に着くまで彼女の様子はぎこちないままだった。




「――というわけで、あまりハメ外しすぎるなよー」


 そう締められて夏休み前最後のHRが終了し、解散の流れとなった。

 課題こそあれ、それ以外で縛られることはないので私にとっては自由の始まりではある。が、本当に平柳さん以外の友達ができなかったなと、内心で溜め息をついた。なんだかんだいっても悲しい事実でもあるからだ。

 最後の最後まであの空間が大好き娘さんのせいで行くことになっていたため、私は自然と図書室へと歩きだした。


「って、さすがに今日まで図書室はやっていないよね」


 それでも大して問題はない。

 あの空間には一応扉もあるのでそちらを開ければいいのだ。ガラガラと引き戸を引いて中へ。


「ふふ、こんにちは」

「うぇ!?」


 私があからさまに驚くと「な、なによ?」と彼女は不服そうな顔をした。


「だ、だって本を読んでいる最中に反応するなんてっ!?」

「し、失礼ね……反応くらいするわよ、生きてるんだもの」


 そりゃそうだけどと内心で吐く。

 これまでは耳元に顔を近づけても反応しなかったくらいの鈍い子だったんだ。私が変なポーズを取って驚いてしまうのも無理はないと考えてほしい。


「あ、あなたは夏休みに用事とかあったりするの?」

「私? 広美さんとゆっくりするだけかなあ」

「お母さんよね? どうしてわざわざ名前で……」

「これは昔からの癖なんだ。べつに仲が悪いとかではないよ?」


 彼女は「確かにね」と少し遠い目をした。

 あのときは申し訳ないことをしました、すみませんでしたと謝った。


「……友達、できたの?」

「ううん、平柳さんだけー」


 あの私に何度も伝えてきた子、図書委員の人、麻倉先輩、3人は友達とは言えないだろう。ましてや麻倉先輩は年上だし、あれから関わりないし。

 だから私には彼女だけが唯一と言えるが、彼女にとってはそうではない。自分のことを心配してくれる人間がたくさんいる。

 なのにどうして彼女は私にこだわる? お弁当の蓋の上にお弁当を作ってあげたから? それとも悪口を言ったりはしないからだろうか。それかもしくは、友達がいない子を支えて自尊心を満たしているとか? ……ただの本好きにしか見えないけども。


「向坂さん?」


 ほぼ4ヶ月が経過した形になるが、その内、関わったのはたった2週間にも満たないかもしれない。普通なら4ヶ月も経過すれば名前で呼び合うとかしそうではある。でもそれが私たちには当てはまっていない。

 この子からすれば私は大して必要のない存在だと思う。決して卑屈になっているとかそういうのではなくて、客観的に見ればそれは明らかだ。

 なるほど、つまり私が弱々しい存在だからこそ彼女も気になってしまうということなのだろう。そうわかれば対策なんていくらでもできる、まず私が言わなければならないのは、


「向坂さ――」

「やっぱり嘘ついた、友達はたくさんできたんだ! それはもう夏休みを全部使わないと済まないくらいにはね。いっぱい誘われててさあ、どうしたらいいのかなって迷っちゃって迷っちゃって」


 べつに他人を傷つける嘘ではないのなら平気で言う人間だ。自分は傷つかないし平柳さんにも無駄なことはさせない。なんていいことなんだろうか。


「……約束、破るの?」

「言い方は悪くなるけど所詮、口約束でしょ?」


 ……本当に言い方が悪くなりすぎた。

 平柳さんとの約束はなにも守れていないから未だに名前で呼んでくれないのかもしれない。が、まあそれならそれで迷惑をかけなくて済むわけだし、なにも悪いことばかりではないはずだ。


「そう、ならあなたの大切な物をもらうだけよ」

「なにを?」

「ふふ、髪かしら」


 言われた瞬間にビクリと固まる。

 広美さんを真似してずっと伸ばしてきた髪。

 いまではお腹くらいまでの長さになっていて、時々、梳くくらいはあっても切るなんて一切考えていなかった。

 髪をもらうということは切るということだろう。どこまで切るのかはわからないが、私の髪が短くなってしまう、と。


「だ、駄目だよ、許せるわけないじゃん! それに他人の髪を無許可で切るのは犯罪だしっ」


 切らせるわけがない。

 絶対に守ってみせるぞ。

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