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Fish  作者: 真田奏
9/14

妊婦だっしゅ!

 少しも横へ揺らぐことなく、強く、まっすぐ下へと降り注いでいるシャープなラインの雨。外の景色は濠雨のせいで光もろとも削り取られてしまったかのようにかき消されていた。ここ数日、うだるような暑さが続いていたので、普段の私なら涼しいってこともあって雨は大歓迎なのだけど、今はベランダの手すりや窓を叩くこの雨音がいちいち私の脳みそをうるさくノックしてくるセールスマンみたいに思えてスゲェ邪魔臭かった。なんか、今私の下腹部に走る、鈍く、気ダルい痛みをさらに促進しているようにも感じてしまう。

 体を伸ばすのもきつい。リビングのソファにジッと丸まり、ただ意味もなく、重たくなったまぶたで、狭まってしまった視界で、窓にひっつく形の崩れた水滴の数を呆然と数える私。

 下腹部に貼っておいたカイロも冷たくなってきたので、新しいのと変えたかったのだけどそんな元気も沸いてこない。始まって二日目よりは少し体も動かせるので、だいぶマシになってきたけど私の場合は腰痛も同時にくるので、とても動けない。

(腹減った)

 三日、何も食べてない。意識がもうろうとしていたので、確信じゃないのだけれど隆行さんは帰って来てないみたい。

「あーもう! 痛い痛い痛い痛いー」誰もいないし、叫んでみても痛みがなくなるわけじゃないのに、動けないストレスもあって私はリビングいっぱいに奇声を張り上げる。

 三回ビートルズが鳴った。一回目はマンネリからだったので、話を聞くまでもなく「ウセロ!」と言って携帯をキッチンの方向に投げた捨てた。その後に鳴った二回目のビートルズの時は、携帯を投げてしまったことへの後悔と自己嫌悪の嵐に責められながらもキッチンのテーブル下へ転がった携帯の所までナメクジみたいに這って行った。

 キッチンにあるテーブルには椅子が一つしかない。それは赤いパイプ椅子で無駄に大きい。雪樹と私がこの家に来た時三つセットで買った物。買った本人が消えて一つなくなり、私も自分の部屋かリビングにしか寄り付かないのでまた一つ消える。結局今は隆行さんしか座らない。だから一つだけ。

 私は椅子の足を掴むと乱暴に横へ引っ張り倒し、テーブルの下へ潜り込み、うるさくビートルズを鳴り響かせ続ける携帯を掴んだ。

うずくまって取った携帯の向こう側には光彦がいた。新しい病院に入院したということだった。何か言いたそうな感じだったのだけど、痛みで生気の欠けらもない私が「あぁ」とか「そう」とか気のない返事を繰り返していたので、「またかける」と言って切ってしまった。

三回目のビートルズは二回目の光彦から間をおかずに、すぐかかってきた。その携帯の向こう側にはとても無茶な相手がいた。

「生理」とだけ電話の相手に答える私。

「何を整理?」

と聞き返され私は無言。

「あれ? アンタも重いタイプなわけ?」

「かなり」私は細い声で言った。

 この女は私の生理の重さなんて知らない。生理これが私にきた時にはもう出て行った後。

「もしかしてそれ腰とかにもきてる?」

「もう切る。ウセロ」口も動かしたくない。

「うげ、マジで? そこまで似る?」

 面倒くさそうな雪樹の声。

 私は「面倒くさいならかけてくるな!」と言う元気もなかった。元気がないから何もできない! と誰かに声を大にして言いたかった。

 その後、雪樹が続けてなにかを喋っていることくらいは分かったけど、頭がボーしていて話の内容なんかはまったくと言っていいほど理解していなかった。唯一理解できたのは頬に伝わる冷たい床の感触と、ドンドンと太鼓のような鼓動を立て暴れる下腹部の疼きだけで、私の意識は眠りか気絶か分からないけれども、徐々に淡く薄まるように消えていった。「ゲホ」と人のむせる音で目を覚ますまでは。

 外からリビングを通り、私のうずくまるキッチンのテーブル下にまで光が届いている。雨が上がっていた。床に頬を擦り付けたままの状態で目だけを動かすと、床は窓辺から差し込んだ光が張り付いてしまったかのように明るく照らされているのに、私の顔の部分だけには暗く影が落ちていた。

「うえぇ」つーんと生ゴミの臭い。私はそんなとてもありがたくない香りの中で、もの凄く心地良くない目覚めをしていた。気持ち悪い。気がつくと目の前に人の足。真っ黒な。

「親指の爪でパカッとな。この方が綺麗だ」

 焦げた鍋の底みたいに黒い顔したジジイが、キッチンの椅子に座っていた。臭いの元締め。テーブルの下からなのでよく見えないけど、髭が生えている。綿飴みたいな白いモクモクした髭。顔一面にある。

(何あれ? ニュータイプのサンタ?)貧素な想像力に我ながらビックリした。でも、私の脳みそはそれくらいにしか作動しなかったのだ。起きぬけで、しかも生理痛強化週間。しかたない。

 何かを切る音がした。

「ナイフで切った方が綺麗だっての。スプーンですくってさ」

 あっ?

「隆行さん?!」私は思わず大きな声を出す。

「起きた?」

 スプーンを持った手と一緒に隆行さんの顔がぴょっこんとテーブルの下を覗く。ジジイの真向かいに座っていたらしい。私は生理痛そっちのけで、急ぎテーブルの下から這い出てリビングまで行き、窓から外を見てみた。どうやら夜ではないらしい。なのに隆行さんがいる。これはビックリ。めったにない。

「ナニナニ? 隆行さん。今日なにかあるの?」

 と隆行さんに駆け寄る私。

「上に何か着ろ。ほら、携帯落ちたぞ」

「気にしないで」

と私は落ちた携帯を拾う。

「お前が気にしろ」隆行さんは眉間にしわを寄せる。

「ねえ? さっきからさ、ナニ食ってるの?」

「栗」

 赤い袋がいっぱい、テーブルの上に乗っていた。天津甘栗。

「てんず……かんくり?」私は袋の一つを手に取る。

「そう思うなら、そう読んでろ」と隆行さんはそっけなく。栗を食べるのに夢中のよう。

 隆行さんの髪が短くなっていた。スポーツ選手によく見かけるようなハリネズミみたいな短髪。髭は荒くて、無精髭ってやつになっていた。髪切ったのなら髭も剃れば良いのに。

「私も食べて良い?」

「良い。でも自分で剥けよ? それが栗のルール」

(そんなもんか?)

 と一個栗を手にした私。

一分後。

「うあぁー」私は栗を壁に投げつけた。信じられない。食べ物のくせに何様だコイツは。剥けやしない。

「隆行、娘にどういう教育してんだ。食べ物を粗末にして」

 とジジイは爪跡や噛み潰した後で、グチャグチャになってしまっている、私が投げつけた栗を拾い、なんとそのままパクッと食ってしまった。

「鶏とかさ、放し飼いの方がブロイラーのよりも美味いじゃん。だからこいつも、放し飼いなわけ」

 と隆行さんはナイフで栗を真っ二つにして、スプーンと一緒に私にくれた。栗のルールはどこにいってしまったんだろう?

「いくつだ?」ジジイが聞いてきた。

「十三。ていうかお前、誰だよ。臭い」栗を食いつつ鼻を摘む私。

「いやなデカさだ」とジジイは私をジーと見た。

「凄いよコイツ。餌をいっぱいやって大きくなるってのは分かるけど、何もやらなくても大きくなるからね」

 バンっと私の背中を叩いて隆行さんは言った。私は痺れる背中を手で抑えたまま、その場で大きく飛び跳ねる。ひ、ひどい。背中に紅葉。も、漏れちゃうかと思った。何かが。

変だった。さっきから二人の会話を聞いていると、このジジイはとても私のことをよくご存知でいらっしゃるみたい。

「隆行さん。私、このジジイ知ってる?」

と私は自分を指差す。

「レール下のトンネルにいたろ。昔。憶えてねえの?」

 と隆行さんはひたすら栗をパクつく。

トンネル? 昔? うーん。

「ホームレス? このおじい様」

 昔と、トンネルと、隆行さんといえばホームレス。あとジジイの黒ずんだランニングや、ギザギザに破れて、白髪がその隙間からはみ出してしまっているホークスの帽子を見て私はそう思った。

 まさに独断と偏見。訴えてやる! ってシャレになってない。

「ホームレスじゃないよ。仙人」ジジイは小汚い顔を膨らませる。私の偏見は当たったらしい。

「ハハン。ナニが仙人。ドブ仙人か?」隆行さんは苦笑したように口元をわずかに微笑させる。

「ジジイ。私に会ったことあるわけ?」

「一、二度。まだお前がミジンコくらいに小さかった頃。それから比べるとホントに大きくなった」

ジジイは目が隠れてしまうくらいに、顔のしわをクシャクシャにして笑った。ちょっとかわいかった。

「じいさん、四時。いいのか? 帰らなくて」

 と隆行さんはピチャピチャと栗のカスがついた指を舐めた。

「お! いかん。売り切れちまう」ジジイは椅子から飛び降りた。

「そんじゃ、また連絡する」

とジジイは玄関脇にある冷蔵庫の横っ腹に手をかけて、体を支えながら、ワニの口みたいに破れてしまっている靴を履いた。

「うーす頼むわ。結構、時間的にキツイからさ」

敬礼ポーズで隆行さんは笑った。ジジイもドアを閉めると、カンカンカンと階段を下りて行く。

「この椅子、まだあったんだ?」

ジジイがさっきまで座っていた椅子に私は座る。雪樹の椅子。背もたれに煙草で焦がした丸いハゲがある。もっとも座っていたところなんて数えるくらいにしか見たことなかったけど。

「ジジイの座るとこがなかったから、書斎から持ってきた」

「へえー書斎に置いてたの? 捨てたのかと思ってた」

「ナニその顔? 未練たらしい男とでも思ったか?」

 隆行さんは立ち上がって、私の頭をクシャクシャと撫でるとリビングに行き、ソファに座った。

「思ってない思ってない。あんな女に未練持つような奴はこの世界にはいないでしょ?」

 と隆行さんの横に座る私。

「お前がいるじゃん?」隆行さんは笑って私を指差した。

「冗談。雪樹だけは勘弁して」私はあきれる。

「それよりお前さ、どうして裸なわけ? 健康法かなんか? 言っとくけど風邪ひくだけだぞ。昼の情報番組に騙されるなよ」

「裸じゃないじゃん。ランジェリー装備完了で戦闘準備はオールグリーン?」私は両手を広げる。

「弱そう。下着って踊り子の装備じゃん? 戦闘力0」

「そうでもない。意外に効く。教師とかエリート官僚には」

 とファイティングポーズをとる私の太ももをずっと見つめる隆行さん。マジ? 元医者にも効いてる?

「ふむ、予想通り、おもいっきり痕が残ったな」

 と隆行さんは栗を食っていたスプーンでパシパシと私の太ももを叩く。まったく効果なかったみたい。

「予想通りってひどくない?」

「しょうがない。電話があったのが夜勤明けだぞ。しかも散々と家で飲んでた後だぞ。バイ菌が入らなかっただけましだ。感謝しろ。俺に感謝しろうよ!」私の髪を引っ張る隆行さん。

(マジで適当にやってたんだな)

「ちょっとひどいよー。もう少し丁寧にさぁー」

「ひどい? 確かにひどかったなぁーこの部屋。よくこんなに綺麗になったもんだ。いくらかかったんだろうな。リホームに」

 と隆行さんはリビング全体を見渡すように首を回した。

(やば)

「窓ガラスは枠だけで、天井は煙でまっ黒だしなー年末、一生懸命にワックスがけした床もパア。どうだろこれ? なあ? 真樹?」

私の肩に手を回して意地悪く隆行さんは言ってきたので、私も隆行さんの肩に手を回して「まあ隆行さん、生きてると色んなイベントがあるもんですよ。気にしないで」と言った。

「足出せ真樹」

「足? いいよ」

 私は足でも踏んでくるのかと思って素直に足を出した。これくらいですむなら安い。

「ギャア!」

 隆行さんは私の注意を足にそらしておいて、鼻を指で弾いた。痛い痛い! なんて卑怯な真似をまったく。

「憶えたな? もうするなよ。今度やったら切り取っちまうぞ」

(犬か私は)

 別に私がやったわけじゃないのに。刺されたのも私のせいじゃないのに。鼻痛い。世の中って難しい。ああ痛い。

 私は部屋に戻り、ベッドの上にほっぽっていたクラッシュデニムを穿き、虹色のタンクトップを着て、またリビングに戻った。

「雪樹ちゃんから電話あった?」隆行さんは私がリビングに戻るなりそう聞いてきた。さっきから雪樹のことを聞きたがっていたのは十分、分かっていたけど、私は意地悪く自分からは言わなかった。

「どうしてそう思うの?」さらに意地悪く私は笑った。

「うあームカツク。何だよその顔」隆行さんは私の後ろに回ると肩を強く揉んだ。

「痛い。肩なんてこってないって。痛たたた、あったよ。電話ありましたぁー」

 たいして痛くはなかったけど、娘としてコミュニケーションじみた対応をしてみた。たまには良い。こんな明るい内から隆行さんと話すなんてめったにないことだし。面白いイベント。でも何で電話があったことが分かったんだろうと携帯の着信履歴を確認してみたら昨日から今日にかけ、連続して雪樹からの電話が入っていた。なーる。これを覗いたわけね隆行さん。

「でっ、用は?」

「さあ? 隆行は何だと思う?」と私がいつもより少しだけ低い声で言うと「似てねーよ」と隆行さんは私の頭を叩いた。

「そう? この間も間違われたばかりなんだけれども」

 三人で暮らしていた頃は、よく隆行さんの前で雪樹の真似をした。その頃は似てるって喜んでたけど、今は嫌みたい。

「聞きたいことがあったみたいだったけど、すぐ切ったよ」

「何だそりゃ? 何しにかけてきたんだよ、雪樹ちゃん?」

と隆行さんはソファに束ねてある雑誌類の中から新聞を抜き取ってまたソファに座り直した。

「これ読め」隆行さんは私に新聞を渡した。

「ん? いいでヤンスよ」

 私はそう言って新聞を手に取った。

『――失業率の悪化に……日本各地から失業者の悲鳴が聞こえるなか、雇用対策の柱としては、失業給付の期間延長、失業中の教育訓練の充実などが盛んに唱えられている。だが、多くの大企業が一万人規模のリストラに躍起となり、また中高年が教育訓練後に再就職を希望したとしても、求人の年齢制限のため試験さえ受けられない現状の中で……』

 別にどこを読むとかは決まっていない。私の自由で良い。もちろん意味も分かってない。何で隆行さんが自分で読まないのかは知らない。聞いたこともない。昔から読まされている。目が悪いとかではないらしい。本とかはよく読んでいる。ただ、あんまり漢字が少ないところを読んだり、ふざけて四コマ漫画とかを読んだりすると生活費を削られちゃうので私はちゃんと読む。

「あんまり間違えなくなったな?」

「でしょ。じゃあ、ちょーだい!」

と私は両手を差し出す。

「痛い!」デコピンされた。

「さっき『天津甘栗』を『てんつ』って言ってたろ。バカ娘」隆行さんは怒鳴った。

「もう間違えないよぉ! だからだから、現状維持ー」

 と首を激しく横にシェイクする私。髪が踊るくらい。

「現状維持とか、ホントにどうでもいい言葉はよく知ってるな?」

 と隆行さんは苦笑いを浮かべると、ジーンズの後ポケットからクシャクシャに顔の歪んだ諭吉を何人か出して私にくれた。そこには先月よりも諭吉が一人多くいた。

 ――チャイムが鳴った。

「鳴ったぞ真樹」隆行さんはソファに寝っ転がっていた私の足を叩く。

「そうだね。鳴ったねェー」

 私は諭吉を数えるのにニンマリでそれどころじゃなかったのだけど、隆行さんが「お前は餓死しろ」と一枚残らず私の諭吉を取り上げてしまったので、

「ムカツクー一度くれた諭吉を」とブツクサ言いながら玄関に行きドアを開けた。

「誰だコラ! 生きて帰れると思うなよ!」

 ガチャ、すぐに閉めた。

 ドアを激しく叩く音がする。

 ドアのマル穴から確認のためもう一度見てみると、魚を真正面からみたような顔で、向こう側からもニヤニヤと穴を覗いている。

(あーあ開けたらいきなり刺されないだろうな?)

 渋々ドアを開ける。

「キャハハハ。真樹ちゃーん」

 手をグウパアグウパアしながら冬実が立っていた。まただるだるの、真っ赤なロンTを着て。

 ウェェ、吐き気がしてきた。いつまで経っても、こいつにだけは慣れない。

「ハイ、こんにちは。ハイ、さようなら」

と私が強引にドアを閉めようとしたら冬実は閉まりそうになるドアの隙間に強引に腕を入れてきた。

(あっクソこいつ。上等じゃん。折ったろ。ヒヒヒ)

 そう思って私はドアを強引に閉めようと、左足を踏ん張ってグイグイとドアノブを引っ張った。

「あん?」

 だんだんと大きな雲が太陽を隠していく中、そこから産まれた出来立てほやほやの影の中に溶け込んでしまいそうなくらい虚ろにつっ立っている人影があった。

初めは冬実かと思った。でも違った。

再び雲に隠れていた太陽が顔を出し、陽がその人影の回りを徐々に縁取りしていくと、見覚えのある金髪の枝毛が立っていた。今にも頭が地面へと落っこちそうなくらいにうつむいて。

 こういう時、普通親なら「上がってもらえば?」とか言うのだと思うんだけど、騒がしいと様子を見に来た隆行さんは私の肩を叩いて、「あのさ。ここ狭いから、こいつに報復したいなら、外でやってくれる? 階段下りてさ、まっすぐ行ったら洋館風のラブホがあるから、そこ曲がってよ。ちっこい公園があるし。ね、そこでモメて」と言った。

「パパひどーいィ」私は猫なで声で振り返った。

「東南アジアにでも売りとばされてこい!」

 と隆行さんに言われた後、色んな音がした。背中を隆行さんに前蹴りされた音。締め出されたドアの音。そして、冬実におもいっきり足を踏まれた音。

 


 冬実、私、桜子の順で歩いている。雨上がりなのか、今から降り始めようとしているのか分からないけど、私は歩いていて、湿気が腕や足を動かすたびにまるで納豆のように糸を引きながら体へとからみついてくるみたいでうっとうしく感じていた。

看板の電飾が全部割れている大人のオモチャ屋。深夜にしか開いているところを見たことがない焼肉屋さん。そんなビジョンだけで臭ってきそうな建物の間の雑路を私達は行く。

(スッゲェー無駄じゃん。この時間)

 何の用か知らないけど冬実と桜子がからんでいるのだから、どうせどうでもいい用事に決まっている。

「おい生ゴミ。なんか話あるのか?」私は前を歩く冬実の肩を掴んだ。さっさとすませて帰りたかったのだ。

「私じゃないよーん。サッちんだよ」と冬実は振り返り私の右胸に肘打ち。

「痛いぃ! お、お前! 乳はやめろ、乳は!」

私は痛みでうずくまった。

 これはかなり頭にきた。いい加減許せん。私は立ち上がるとみせかけ、低い姿勢で冬実の足首めがけて払うような蹴りを撃つ。

「ヒャッホウ!」 

冬実はそれを縄跳びのように足を交互に上げ、素早くかわす。

(あーあ。ヤッパこいつ殺るには掴まなくちゃダメか)

 反応の早さ。冬実のはそんなもんじゃない。私の場合は病的なほど相手の目の動きや仕草が気になってしまい、その良い面がバトルに活かされているのだけれど、こいつの場合何を基準に反応しているのかさっぱり分からない。まるでこっちが動く前にもう行動がばれているみたいに思えてしまう。だからこいつと殺り合うのはやだ。力の強いやつとか、男の方が単純に殺れてよい。冬実と殺り合うと、まるで磁石の同じ極同士が反発するようにお互い弾きあって決着がつかないし、殺りづらい。

「当たらないねェー真樹ちゃん。もっとこっちおいでよ。チューしてあげる」

 冬実は口をハート型に尖がらせていた。まるでその顔は人食い花に見えた。

「うるさいよ。近づいたとこをブスっと殺る気だろ。ワンパターンなんだよお前は」

「おい桜子。お前は何しに来たんだよ。あれだぞ? 私は吉野家の昼時よりも忙しい女なんだぞ。早く用件を言う前に帰れ!」

 と、自分の後ろをショボショボついて来る桜子に激しく言い寄る私。でも桜子は冴えない顔で私に言い返すわけでもなく、ただうつむいたまま。

「この枝毛女、ホントウゼぇー。お前のせいで諭吉は取り上げられるわ、腹は減ってくるわ、生理は止まるわって、まだ止まってない! もう更年期か私は!」

 と私は桜子の足元から頭のテッペンまでをゆっくりと睨みつける。ホントに腹が立って腹が立って、そして腹が減ってきた。

「不思議だな。お前の顔見てるとなんかお腹が空いてくるんだよね。うーん、よし! 公園なんか行ったって腹膨れないんだし、マックいこう! マック! ビックマックおごれ? チキンナゲットも」

「へ?」桜子は虚ろだった目を少しだけハッキリとさせて私を見た。

「チキン、チキン、チキン野郎ー」

 後ろで冬実がクルクル回りながら叫んでいた。

「おい、人間おごってるうちが華だぞ? おごられるようになったらおしまいだ。釣りとか料理にハマり始めた田舎暮らしのミュージシャンみたいなもんだぞ?」と意味ありげに意味のないことを言う私。

「お、おごるよ。おおおおごる」ビビリ桜子。

「おし、食うナリ」と駅前のマックに行こうと思った。でも、駅前の大きなビルの前には人がいっぱい集っていてとても歩きづらくなっていた。みんな一斉に上を向いていて、ビルのオーロラビジョンを見ていた。私も近くにあったバリカーの上に飛び乗り何が映っているのかを見てみる。どうもニュースらしい。何か珍しいことが起きたみたいだったけど私にとってはただのウザイ人の波。結局私は昼ジャストだったということもあって、客が多そうな駅前のマックを避け、駅の北口側にあるデパ地下のマックに行った。

 インドカレー屋さんと、お好み焼き屋さんの店が新しく入っていたので、思わずウインド越しにメニューを覗いてしまったけど、カレー屋さんにはおすすめランチで大嫌いな豚肉の角煮カレーが、お好み焼き屋さんには同じく、ジャンボ豚玉がおすすめになっていたのでクッキリと踏ん切りがついてマックのレジに並ぶ。

 私のささやかな願いが通じたのか、レジが一列増えて三列になっていた。人の流れがスムーズになっている。前々からこのマックに来る度にかなり待たされて、イライラしていたので、このレジのスムーズな流れは良い。

「ビックマックとチキンナゲット。あとアイスウーロン茶ね」私はレジの、やけに頬っぺたの赤い女に言った。

「はあ。あの、セットでは」

 と店員。よけいなお世話だと思った。多分、単品だとレジを打つのが面倒くさいのだろう。

「単品で」私は強く言った。だって私はポテト不要論者なのだ。あんなもの喉が詰まるだけでたいして美味くもないただの辛い油棒。

「じゃ、壁沿いの所に座ってるから」

 注文が終わると私はそう桜子に言って、壁と向かい合うようにセットされているカウンター席に座った。

「ん? 冬実、注文しなかったわけ?」

「いらなーい」私はせっかく桜子のおごりなんだからもったいないと冬実にも何か注文させようとしたのだけど、もう桜子は私の注文した物をトレイに乗せ、運んできている途中だった。

(ああ、そうだ。こいつの腹、ガキが入っているのだ)

 冬実がよく着ている感じの、サイズが大きなスエットを桜子は着ていて、下は太い線の二本入った赤いジャージを穿いていた。私は初め、桜子が妊娠していたなんてことすっかり忘れていたのだけど、ハンバーガーを乗せたトレイを持ちながら後に大きく体を傾け、歩いてくる桜子の姿を見てようやく思い出す。よく見るとスエットのお腹の部分に描かれた青い英文字が、そんなには目立っていないのだけど、わずかに盛り上がっているのが分かる。

「ガキさぁ。まだ入ってるんだ?」

 私は桜子の手からトレイを受け取る。

「うん」桜子は短いけれど、ようやく喋った。おめでたい。

「お前も食べないのか?」私は桜子に聞いた。

「今、油系とかダメなんだ。気持ち悪い」

 枝毛の先っぽをいじくりながら、桜子は言った。

「へえー一人前に妊婦気取りですか? 卵クラブですか?」

 そう私はまずウーロン茶を軽く一飲みした。

「ストロー使わないんだ?」桜子は言った。

「うん、嫌い。蓋をはずして飲むのが普通。その方が勢いもあっていーじゃん? 氷も好きだし」

 なんてことない会話。でも桜子はさっきより表情が柔らかくなった。

「ねえねえ、十円玉ちょーだい」横から冬実が割って入ってきた。

「はぁ? 十円なんかどうするよ?」桜子がようやく喋り始めたというのに冬実が話しかけてきたので、私はちょっとムカっときて、聞き返した。

「何が出るかな♪ 何が出るかな♪」

 どうやら冬実はハンバーガーに付いてきた、割引券とか、子供が口の中に入れてしまったりなんかして、親が大慌てしてしまいそうな、小さいキャラクター人形なんかのオマケが当たるクジをやりたいらしい。コインで銀色を削るやつ。ホントにガキ。

「分かった、分かった。ホラ、やってろ」

 銀削りで少しは大人しくなるかなと思って、十円玉を渡した。嬉しそうに冬実は私の手のひらから十円玉を取り去った。

「えへへん。じゃっ! いただきまーす」

 私は一応、桜子にお礼を言ってビックマックにかぶりついた。うん。体に悪そうで美味しい。食っているうちにレタスがこぼれ落ちそうになるとビックマックを食ってるぞって感じがする。そして合間にチキンナゲットのコンビネーション。素晴らしい。

「おい。私が食ってるうちに言いたいことあるんなら言えよ。今なら大人しいから。食い終わったら暴れちゃうかもよん?」

 私がそう言った後、しばらく桜子は黙ったままだったけど、そのうち、重たそうにゆっくりと口を開き始めた。

「家がさ、燃えちゃったんだ」

「ブホッ!」私は当然噴出した。テーブルじゅうにチーズやパンの破片が散らばった。

「家? マジで?」私は聞き返す。

「いや私の家じゃないんだけど、その、仲間の家にさ、転がり込んでたんだけどさ」

 桜子は両手を長い袖と一緒に揉み合わせながら言った。

「ナニよ。その仲間の家が燃えたわけ?」

「まぁその、燃えたって言うか、ボヤっていうの?」

「仲間って風俗の?」と私はチキンナゲットを口に放り込んだ。

「店の先輩」

「で? 追い出されたってこと?」私はボリボリとウーロン茶の氷を噛み砕く。

「違う。無理に置いてもらってたんだけど、先輩に彼氏ができちゃって、別に出て行かなくてもいいって、一応引き止めてもらったんだけど次の日の朝、私の歯ブラシ捨てられてた」と桜子は口元に痙攣したような無理のある笑みを浮かべていた。

だけどまあ、よく色んなもんに寄りかかる女だと私は思った。

 栄子と少年課の奴、店の先輩。よくこんなにいくら自分が弱った状態だったにしても、色んなタイプの奴に無条件で甘えられるというのは凄い。栄子なんかと一緒にいて、少しでも考えてみればひどい目にあったりとか利用されたりとか、私だったら想像して身構えてしまう。そこいくと、桜子は他人の力を当てにするってことに関しては捨て身。

(ん?)

 嫌な予感が私の頭を渦巻く。

「お主、ちょっと聞くけれども、そんなオモシロ話をワシにしてどうするつもりじゃ?」

 時代劇風に私は言った。

「別に面白い話なんて」

 桜子はビックリした顔で私を見た。桜子にしては困った状況だろうけど、私にとってはハンバーガーを美味しく食べる為の調味料的なお話。

「私は何歳でしょーか?」

「え、エーと十三?」探るように上目遣いの桜子。

「そうです。その通り。いったい、こんな幼いワタクシにナニをしろというのかね? 君は?」

「べ、別に」

「あれじゃねーの? 火事で燃えちゃた方が良かったんじゃない?お前は。それが世界平和ってやつじゃん?」

 いなくなるだけで、それだけでボランティア。そう思った。

「お前にそんなこと言われたくない」

 桜子はさっきまでと感じが変わり、いつもの見かけ倒し的な感じに一瞬戻った。

「その風俗の先輩もかわいそう。どうせお前が原因だろ? 寝煙草とかでさ? それともあれか? 栄子に火炎瓶でも投げ込まれたか? 役立たずのカスはいらないって感じでさ」

「そんなんじゃない! イタズラだ! 絶対! アパートに帰ったら窓が割られてて、ロケット花火とかのカスが散らばっててさ。クソ! ホント、ムカつく!」

 桜子はくやしそうに、ダボついたスエットの裾を膝の上で握り潰すように拳を震わせていた。

 私は(お前も同じことやったじゃん)とあきれただけだったけど、“ロケット花火の燃えカス”というところが妙に気になった。

「花火ねぇー。派手で良いね。ファンタジーですな」

 私はそう言って前の壁を蹴り押し、椅子の背もたれに体重をかけながら少し後に反り返った。そして桜子に刺された足が治りかけていた頃のことを少し思い出していた。

「栄子にでもやられたんじゃねーの? 私の時と同じで」

「えっ何が?」桜子は白々しく聞き返す。

「お前だろ? 栄子と一緒かどうかしらないけど、私の家にロケット花火ブチこんだの。隠すな。もうとっくに冷めてるから怒ってないし」と優しい私は嘘笑いを浮かべる。  

「えー? やってない、やってない。だいたい俺、お前を刺した後、隠れてたもん、神獄かんたけのカプセルホテルに。知らないよ」

 桜子は最大に頬を赤く膨らませて言った。語尾にも凄く力を入れて。

(ありゃりゃ)

 どうやら嘘じゃないらしい。バカな桜子の嘘くらいすぐに態度で分かるので、私は素直に信じた。もし騙されているとしても構わない。もう終わったこと。

「まぁそのことは横に置いといて、それよりさ、結局、お前は行くとこがないってことを言いたいんだよね?」

「まあ、うん」歯切れの悪い桜子の返事。私はさらにその返事として、月並に「親のとこでも帰れば?」と言おうとしたけど、言わなかった。

 親の元に帰れるなら、こんなガキで嫌いな私のところになんて来ないな、と思った。それに親のいる場所が絶対の安全地帯なんてありえない。私にしてみたら雪樹のいる場所なんて逆に危険地帯。デンジャラス最前線だったりする。

「元気ないねーサっちん。あっそうかぁーうまく燃えなかったもんねー。キャンプフャイヤー。キャハハハハ」

(キャンプファイヤー?)

 私の脳裏にいやーな想像が駆け巡る。『キャンプファイヤー』って冬実の言葉。そう、栄子やカラコン男を潰した競輪場近くのカフェに入る前に冬実が言っていたセリフ。たしか桜子の家でキャンプファイヤーがなんとかかんとか……私は途中で考えるのをやめ、ただ一言冬実に「お前花火好き?」と聞いた。

「大好っきィー」

 冬実は満開に咲いた悪魔の笑顔で笑った。

「花火なんか大嫌いだぁー!」

 と私はテーブルに額を押し付けたまま少しグリグリした。

(桜子の部屋が燃えたのも、うちのリビングが焦げちゃったのもそういうことですか)

 ジュースの入ったコップから落ちた水滴に顔を濡らした私は脱力感に襲われてテーブルに額をつけたまましばらく動く気がしなかった。だって桜子に刺されたこともあったけど、貴重な体力を使って競輪場の近くのカフェまでわざわざリベンジなんてのをやったのは、そもそも家にロケット花火をぶちこまれたのが原因だったから。それがこれだ。この結果。ちんけな冬実がやった陳腐な所業。この「これでいいのだ!」みたいな顔で笑っている女の。

 顔を伏せたままチラッと桜子の顔も見てみる。生理二日目の私と同じ顔をしていた。つまり、さいあくぅーって顔。冬実と桜子を見比べると、磁石で言えばSとMみたいに両極端な顔面をしている。

「はあー」

 正直このまま顔を上げたくなかった。顔を上げれば何かしなくちゃいけない。もちろんこのまま「しったこっちゃなーい」って言ってしまえばそれで終わるのだけど。

(それもなー。なんだかなー)

 一週間後の自分が予想できる。すっきりしない気持ちのまま一週間くらいベッドの上で何回も寝返り打っている自分。シャンプーとトリートメント間違えたのに気づいてトリートメントの瓶を壁に投げつけている自分。

(クソーちょっとだけ飼ってみようかな。出産シーンも見られるかもしれないし)

「プファー!」

 と私はテーブルから勢いよく顔を上げた。

「えーとまず、うーんと、何から……」

 そう言って親指で自分の眉毛をぐりぐりと押しながら私は頭の中を整理する。

「えーとまずお前は私と一緒に来い。しばらく飼ってやるモジャ」

 と私が桜子の冴えない顔を指でつっつくと桜子は「へっ?」と何が何だかといった表情でキョトンとした。

「それからお前は」

 今度は冬実の顔を私は指差した。

「なになに? 私はなに?」と冬実は嬉しそうに目を細め、笑う。

「帰れ! で、死ね!」 

 と私は一発冬実の左頬を張ってやった。

「そんでお前は帰る!」

 と最後に私は自分のこめかみを指差し、桜子の手を掴んでマックから逃げ出すように走り出た。

「えっえっなになに?」

 桜子は状況が飲み込めず、ただ私に引きずられるように走っている。無理もないけど。

「あれ? 置いてきてもらったほうが良かった? その場合私に顔、張られた冬実に八つ当たりされたかも? だけど」

 と駅前の人込みをすり抜けるというよりも強引に半ば吹っ飛ばすように走り抜けながら私は言った。

「私、どうなるの?」

 と桜子は今にもビルから落っこちてしまうんじゃないかっていう屋上ぎりぎりの所に立っているみたいな顔をして呟いた。私は全てを象徴した言葉だなと思いながらも桜子の手を強く引っ張って、

「どうかなるの!」と言った。



「五ヶ月?」

 と隆行さんはソファに座りながらメガネをかけ、膝の上には絵本のような物が広げられたままの体勢で、桜子を連れて帰ってきた私に気づき、言った。

「そうなの?」

 と私は桜子に聞いた。

「えっ? う、うん。それくらいって言ってた。医者」

 と桜子はぼそぼそ。

「これ、飼うから」と私は桜子の肩に手を乗せた。

「ふーん。腹帯とかはしてないみたいだな?」と隆行さんは言った。

「腹帯?」

 桜子は不思議そうな顔で私を見た。

「産んだことないからしらん!」

 と私は桜子の頭を叩く。

「好きにすれば? でも餌代とかは自分で持てよ?」隆行さんはまた膝の上の絵本みたいな物を読み始めた。

「絵本? 幼児でも誘拐する気?」

 私は隆行さんが見ている絵本を覗き込む。

「これを読めば世界が十倍楽しくなる」

 と隆行さんは絵本を閉じる。

「ふーん? 私的にはカレーが十倍美味しくなる本の方が良いけど」

 と席を立って自分の部屋へと向かう隆行さんの背中を私が見送っていると隆行さんは振り返って、

「そうだな。カレーが十倍美味くなれば、世界も十倍楽しくなるかもな」と笑った。

「ねえ? 私はどうなったの?」

 隆行さんが自分の部屋へ消えると、タイミングを見計らったように桜子が聞いてきた。鈍い女だ。話の内容とか状況とか前後とかを読むパワーがない。常に目の前だ。こいつの想像力は。

「ああ、なんかカレー食いたくなった。お前今からカレー作れ。明日はラーメンね。それでその次の日、お前は焼きソバを作って私のベッドのシーツを洗うの。で、一週間後、お前はその日のご飯のメニューに悩んだり、掃除と飯の準備、どっちを先にしようかなんてことを考えていたりするわけ。そんなエブリデェイが嫌ならお前はここから出て行くし、OKなら玉ねぎとかニンジンとか買いに走っちゃうわけ」

 私はできるだけバカの桜子にも分かるように噛み砕いて話してやった。なのに桜子ときたら まだポカンと口を開けたまま自分の枝毛だらけの金髪を自分でゆっくりと撫でている。ぜんぜん分かってないみたい。

「このバカ妊婦! 神嶽川に浮くかその川渡ってカレーの材料買いに行くか、どっちだ?! 浮いてみるかお前ー!」

 私は床を激しく蹴った。まったくもどかしい。

「ああ。カレーが食べたいってことなんだ?」

 と桜子は自分の下半身と同じ締りのない口をポカンと開けたまま、言った。

「うん」私は素直に肯く。

「めんどくさい……」

 桜子はそう言って眉間にしわをよせた。

「腹の子ごとハラワタ掴み出す」

 と私はニコニコ笑いながら手の間接をコキコキ鳴らした。

「買って来ます!」

 と桜子は猛然とダッシュして外に出て行った。ニンプダッシュ!


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