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大人への階段

「これなんか似合うんじゃないかな? うん、いい感じ! その服、貸してあげるね! あと、そのだっさいメガネはいい加減やめたら?」


 高校を卒業して、大学の合格発表も無事に乗り越えた私とたっちゃんは、近々ちょっと本格的なデートをしてみよう、って約束を交わした。


 二人とも、今までは大学受験に必死で、デートとはつまり「一緒に勉強をする」ことだったから、ちゃんとしたデートはこれが初めて。もちろん嬉しかったんだけど、……オシャレの仕方が全く分からないという問題も表面化したわけで、途方に暮れた私はハルカに泣きついた。


「えっ、でもメガネしないと何にも見えない感じない……」

「いや、だからコンタクトがあるでしょーが!」

「コンタクトって眼科とか行かなきゃなんでしょ? それに目に何か入れるのってちょっと恐いというか……」

「もぉぉぉおおお! またこのパターン!? それじゃあ、結局いつものりりのままじゃん!」

「ご……ごめんなさい、コンタクトにします……」


 怒られちゃったよ。まぁ、私が悪いんだけどさ。でも、今までと違う自分になるって、やっぱり勇気いるなぁ。早くもくじけそう……


「あと、眉毛もすいてあげる。これじゃあちょっと濃いからねー。周りも剃っちゃお、この際。もう校則なんて気にしなくていいわけだし」

「だ……大丈夫?」

「平気平気! 任せて!」

「そんなに薄くしないでよ? ハルカのは薄すぎるからね?」

「はいはい!」


 うわぁ、恐いなぁ……。なんだかちっちゃいハサミでパサパサやってるけど、どうなっちゃうんだろう私……。大丈夫かなぁ……。


「あと、髪も茶色く染めてみたら?」

「えっ、それは嫌だ! 髪は黒のままでいい! 絶対染めない!」

「そこは断固拒否なんだ。高校卒業したらだいたいみんな染めるけど」

「染めなくていいよ! ストレートにするだけで十分!」


 髪の毛だけは譲れないんだ。茶髪にしたら、私じゃなくなりそうで……。


「うん、でもいいんじゃない? ほら、全然印象違う!」


 ハルカが、鏡を私の前に持ってきてくれた。だけど、メガネをかけてないからよく見えないんだよね。私、そんなに変われたのかな?


「う~ん……。よくわかんない……」

「えー、全然違うよ! ほら、メガネ……しちゃうと、いつものりりとあんま変わんないか……」


 ハルカからメガネを受け取って、再び鏡を見てみる。確かに、なんとなくすっきりした感じはあるけど……。可愛いのかな、これ。んー、そもそも「可愛い」ってなんなの? そこがまず謎なんだけど……。


「なんか恥ずかしいなぁ……」

「大丈夫、自信持って! とにかく、デートまでにコンタクトをゲットすること!! そうすれば、キスくらいすぐできるって! 頑張れ!」


 ハルカに背中を押されて、私は少しだけ自信を持つことができた。


 デート当日の朝は、緊張してどうにかなりそうだった。全身が映る鏡で、自分の姿を何回も見直してしまう。白いワンピースに、薄いピンク色のカーディガンを羽織った私。どちらもハルカの服だったけど、「あたしには控えめすぎるから」という理由で、貰っちゃいました。あとでハルカにはお礼しなきゃね。


 ハルカの言いつけ通り、メガネも外してコンタクトに。今までは、メガネをしないと自分の顔がよく見えなかったから、裸眼の私を見るのはとっても新鮮だった。……確かに、そんなに地味じゃない気がする。


 お母さんも「やだ理々、モデルさんみたい!」なんて褒めてくれたけど、さすがにそこまでじゃないのは自分でも分かるよ。それにまだ、たっちゃんが受け入れてくれるかどうかは分からない。今までの地味な私が好きなんだとしたら、逆に嫌われちゃったりしないかな……。


 そんな不安を抱えながら待ち合わせ場所に向かった私だけど……。


「リリ……、お前……。頑張れば地味じゃないじゃん!」


 たっちゃんは、とっても喜んで、とっても褒めてくれた。


「やだな、恥ずかしいよ。今までと違う自分をお披露目するのって、勇気いるね」

「いやいや、いいよ! 自信持てって! 高校在学中からそれだったら、もっとモテてたんじゃないのか?」

「えー、そうかなー? でも、もてもて過ぎて下駄箱がラブレターでいっぱいになっちゃっても困るし……」

「うん、それは行き過ぎだぞリリ。可愛いけど、カテゴリー的には”地味な女”だから」

「えー!! ひどぉ~い!!」


 ……ちょっと調子に乗り過ぎちゃったみたい。だけど、たっちゃんが喜んでくれて本当によかった。正直、たっちゃんさえ喜んでくれれば、別にいいんだ。だから、大事なのは彼の好みに合わせること。たとえ、他の人に酷評されたとしてもね。


「たーっちゃん! 手、つなごう?」


 本日の行き先は、水族館! 歩き始めると同時に、私はたっちゃんの腕にしがみついた。それだけじゃ飽き足らなくて、彼の肩の辺りに頬をぎゅぅっと押しつけてみる大胆な私。やだ、今すごく恋人っぽいことしてる! 大人の階段上っちゃう!?


「リリ、それ……手つなぐのと違くない?」

「こっちのほうがいいんだもん! たっちゃんは、嫌?」

「……すげーいい!」


 彼は笑いながら、私の頭をくしゃくしゃなでてくれた。


 お昼は、水族館のレストランで食べた。たっちゃんと二人で外食したのもこれが初めて。たっちゃんは、サイコロステーキを食べながら「まさかこれ、イルカの肉とかじゃないよな……」って訝しんでいたけど、真顔だったから冗談に聞こえなくて恐かった。


 その後、イルミネーションがきれいな夜の噴水を二人で見ながら、私とたっちゃんは初めて口づけをしたんだ。なかなか勇気が出なくて、「キスする?」なんて言い始めてから30分以上もかかってしまったのは内緒。


 ……なんて言っても大げさなものじゃなくて、お互いの唇を「ぴとっ」ってくっつけただけなんだけどね。でも、その後たっちゃんがぎゅうって抱きしめてくれて、それがとっても心地よかった。


 今日は、人生で一番素敵な一日だったと思う。受験という束縛もなくなって、私とたっちゃんの距離は一気に縮まった。

 

 そして。


 早く大人になって、たっちゃんと一緒に家庭を築きたい……。そんな想いが、私の中に芽生え始めた日でもあった。

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