0.5-8 成長の季節
騎士学校にも夏休みはある。
でも僕は故郷に帰ることもなく、やはり帰らないと決めている様子のカナタと、ひたすら稽古に励んだ。
カナタの剣術にはいくつか不思議なものがあり、それの習得に僕は熱中した。
まずは、伸びの剣、とカナタが呼んでいる攻撃を学んでいる。
この剣術は非常に奇妙で、普通の剣の振りに見えても、こちらが受ける、もしくは回避する、その瞬間にすっと加速するように感じ取れる。
そのために、防いだと思っても防ぎ損ない、避けたと思っても避けきれない、となる。
この技をカナタは実技の授業では見せていない。個人的に見せてくれたのだ。
夏休みなので時間はたっぷりある。道場の一角で、僕はカナタに頼み込んで、その技を繰り返し見せてもらった。それだけでは飽き足らず、実際にカナタにその打ち込みで攻撃してもらい、僕が受け損なったり、避け損なう、そういう事態を観察した。
木刀じゃなければ、僕は五体満足ではいられなかっただろう。それくらいカナタの木刀は僕を打ちまくった。
逆に僕からは一弦の振りを見せて、そのコツを彼に教えていた。
カナタも僕と同じように、何度も何度も、僕の実演をせがんで、僕もそれに応えた。
カナタのいない場所での稽古もしていて、僕自身は四弦の振りをさらに加速させ、八弦の振りとでも呼ぶべき八連撃を実現する目処がついていた。ただ、自由に使いこなすには、あと一年はかかりそうだった。
一ヶ月の夏休みが終わる頃に、カナタはその学習能力の高さを発揮して、一弦の振りをおおよそ自分のものにしていて、それを発奮材料に、僕は伸びの剣の稽古に熱を上げることになった。
騎士学校の生徒の全てが帰省するわけではなく、むしろ、剣士として身を立てたい生徒は、学校に残っている。僕とカナタの稽古を見ている生徒がいつも数人はいたし、それには上級生も含まれる。声をかけてくる生徒もいた。
そんな生徒たちが、僕とカナタの技、もしくは努力に感化されたようで、新しい態度を取り始めた。
僕とカナタに剣を教わりたい、というのだ。
一年生が大半だけど、二年生が二人、三年生が一人いた。
こうして夏休みの間に、僕とカナタを中心にして、十人ほどの集団が形成されていき、学校が再開されるのと同時に、一部で話題になった。
この十人を「候補生騎士団」と呼び始めたのは、誰だったかははっきりしない。
しかし、僕とカナタ、そして一年生の五人は、学年の中でも屈指の使い手と目されるようになった。季節が移りゆく中で、僕とカナタを含めた七人は、学年の中で敵なしのような形になり、実技の教官ですら、他の生徒の稽古と混ぜようとしなくなり、僕たち七人の間で稽古させ始めた。
こうなって騎士学校が黙っているわけもない。
シュタイナ王国の基礎的な考えとして、上昇を阻むのなら、構造はいかようにも変えていい、というような発想がある。
騎士学校一年目の冬になろうかという頃、僕たち七人は実技の授業を二年生と混ざって行うように言われた。
二年生相手に歯が立たない、という事態を僕は想像もしていなかったし、実際、僕の想像の通りに事態は進んだ。
二年生は僕たち七人に徹底的に打ちのめされ、道場の床に這った。
しかも初日からだった。二年生担当の教官は、言葉もなくし、結局、僕たち七人をまとめて、やっぱりその中でだけ稽古をさせた。
ちなみに候補生騎士団に所属している二年生二人は、一足先に三年生に混ざっているようだったし、三年生の一人は、四年生に混ざっている。
こうして候補生騎士団の噂は、学年を飛び越え、学校中に響き渡り、また新しい展開へとなだれ込んだ。
僕とカナタを中心とした稽古は、徹底的にマークされた。どこで稽古しても、すぐに発見され、じっと観察される。稽古の様子から何かを盗み取ろうというとなんだろうけど、その程度で僕たちに隙が生じるわけもない。
そういう敵意、対抗心とは別に、候補生騎士団に加わりたい、という生徒が、相当な数、声をかけてきた。
それを全部、僕は断った。仲間の中には受け入れてもいい、という意見が最初はあったけど、僕は譲らなかったし、その仲間も、加入希望者が大挙して押し寄せる事態を前にして、僕の主張の正しさを理解することになった。
候補生騎士団の強さは、その激しい稽古と、情報交換、助言のやり取りなどから成立していることを、多くの生徒は理解していない。
漫然とした稽古や、馴れ合いのようなものは、少しも介在する余地のない集団が、候補生騎士団と呼ばれる十人の集団だった。
これはたまたまだろうけど、僕たち十人は技量の差こそあれ、考え方は同じ方向を向いていたし、素質の点でも大きな開きはなかった。
素質に大きな隔たりがあったら、脱落者が出たと思う。
でも幸運なことに、十人がそれぞれに努力した結果、僕とカナタが抜きん出ているものの、他の八人は一塊のように力をつけていった。
卒業式があり、僕たち十人は一学年の終わりを祝うため、珍しく会合を開いた。
ここで僕はほぼ初めて、王都へ繰り出した。剣聖候補生として受け取れる金を手に、小さな料理屋の小さな部屋を借り切って、十人でおしゃべりしながら、飲み食いした。
僕たちはこんな場でも、結局は剣術に関する話題で盛り上がり、かなり白熱している。
その光景を見て、僕は胸が熱くなるのを感じた。
イシザ村を出てから、一年経っただけで、僕の周囲は全く様変わりしていた。
同じ年頃で、同じ目標を目指す、まっすぐな仲間が、こうして集っている。
祖父と二人で必死に稽古していたのが、どこか懐かしかった。
あの頃の稽古と、今の稽古は全く質が違うものだけど、でも前進の度合いに関して言えば、今の方が、どんどん先へ進んでいる気がする。
祖父との間では見ることも知ることもなかった剣技や体術などが、仲間には、騎士学校には、王都には、溢れている。
僕の中にある伸び代は、そういう全てを今も、貪欲に飲み込もうとしている。
剣聖候補生になってよかった。今まで、考えてもいなかったことを、急に思いついた。
僕はこの先、どこへ向かうか、決めていない。
何もしなければ、近衛騎士になって、いずれは引退し、余生を送る。
それが正しいのか、それとも何かを裏切っているのか、まだわからない。
でも、今はそれでいいかもしれない。
今は、剣技を極めていくのが、何よりも楽しく感じる。
剣技はまだ果てしなく広がっている。
果てはまだまだ、見えない。
(続く)




