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剣聖と剣聖  作者: 和泉茉樹
第4部 剣聖の弟子 流浪編
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4-7 剣聖候補生

 王都に着いたのは、一週間後だった。

 初めて見る王都は、華やかで、パンターロの首都の様子とはまた違う。パンターロが質実剛健、シュタイナ王国は絢爛豪華と言える。

 シタロは旅の途中で、僕がこれからやるべきことを、丁寧に教えてくれた。

 まずは戸籍が整い次第、剣聖候補生として登録され、それで自然と騎士学校に入ることになる。騎士学校は剣聖候補生という制度のために、編入生は多いらしく、そこは気にしないでいいようだ。

 ただ、僕は十八歳を超えていて、これは騎士学校に入学するには、図抜けて年長だという。そのことで周囲からかなり浮くだろう、とシタロは笑った。

 彼が言うには、騎士学校には二種類の人間がいて、貴族などの有力者の子弟で、つまり、箔をつけるためか、軍にうまく潜り込むために、騎士学校に入っているのが半分を超えるらしい。

 それ以外が、純粋に剣技を磨いたり、軍人になろうとするものだ。

 この後者の連中は、年齢なんて理由にならない、ともシタロは言った。

 シュタイナ王国中から才能のある子どもたちがここへ送り込まれるから、十代だろうが、それ以下だろうが、並の大人を寄せ付けないという。

 彼は剣聖候補生についても教えてくれた。

 天才中の天才、と彼は表現した。それから、きみもだよ、と付け加えて、僕はしどろもどろになった。

 そんな具合で、王都に着く前に事前学習は終わり、王都で三日ほど待つと、戸籍が用意できた。本当に剣聖には大きな権限があるらしい。

 剣聖候補生として即座に認められ、しかし、そのことを教えてくれるシタロが、バツが悪そうに僕に謝った。

「どうも変に注意を引いたらしい。きみを、剣聖たちが顔合わせしたいそうだ」

 剣聖たち?

「十二人が、きみのことを知りたがっている。私を除けば、十一人だが」

 わけがわからないまま、シタロは僕に服を見繕ってくれた。剣は、まだ出来上がっていないので、元から持っている剣でいいだろう、ということだった。

 そうして数日後、シタロの私邸で過ごしている僕の元へ、使いがやってきた。シタロは早朝から出かけていて、家を出る時、「王宮で会おう」と言っていた。

 使いの者に従って、僕は王宮へ向かった。町人は特に興味もないようで、注意も向けない。

 そのまま第二王宮に付き、使いの者が衛兵と何か話し、僕は無事に中に入れた。

 入ってすぐに、初めて見る制服の兵士が二人、僕のそばについた。シタロの話にあった近衛騎士ろう。僕から剣を取り上げないのは、この二人は僕を即座に制圧できる実力者、ということか。二人の動きは確かに、洗練されている。

 そのまま王宮の中を進み、広い部屋に通された。

 本当に広い空間で、前方に十三脚の椅子が並んでいる、少し高い段がある。

 僕が入った時、二人の青年がすでに部屋の隅に姿勢良く立っている。服装は、どこかの制服だけど、兵士のようではない。ただ、二人とも腰に剣がある。年齢は僕よりも若い。

 視線を向けても、こちらを見もしない。

 と、鉦が鳴らされ、そちらを見ると、文官の制服の男が入ってくる。若い青年二人が、深く頭を下げた。僕もなんとなく、それに習った。

 衣擦れの音がして、靴音もする。それらが消えた時、柔らかい声がこちらに流れてきた。

「カイ・エナ、顔を見せてくれ」

 顔を上げると、十二人の男女が椅子に腰掛けている。

 真ん中にいるのは男性で年齢は三十代か、四十代。右隣には同年代の男性、左隣は老人だ。他の九人の中の一人が、シタロだった。

 真ん中の男性が、こちらを面白そうに見ている。明るい表情は花が咲くように見える。

「シタロと互角だったと聞いたけど、本当かい?」

「いえ」思ったより、はっきりと返事が出来る自分がいる。「私の方が一瞬早く、死んでいたと思います」

「それでも相当な腕だな。リー、こちらへ来なさい」

 返事をして、先ほどの二人の若者のうちの一人がこちらへやってくる。

 近衛騎士が距離を置いて、僕とリーと呼ばれた青年が、部屋の真ん中に並んで立つ形になった。

「二人で立ち合ってみてくれ」

 リーが返事をするけど、僕はそれどころではなかった。

「立ち合いですか? 武器は、何を使うのですか?」

「腰にあるものを使えば良い。きみも剣聖候補生になろうというのだから、その程度の覚悟はあるだろう。リーも剣聖候補生で、騎士学校の四年生だ。相手にとって不足はないだろう?」

 返事に困ったけど、気持ちはすぐに定まった。

 頭を下げ、リーと向かい合う。打ち合わせもなく、自然と二人で距離を取り、頭を下げる。

 顔を上げた時、リーからは強烈な気迫が漂ってきた。

 しかし飲まれるほどではない。本気のようだが、しかし、僕は慣れている。

 剣を抜いて、お互いに切っ先を向け合う。誰も合図をしないが、それぞれに、構えを取り、間合いを計った。

 と、リーの姿が霞んだ。

 反応できたのは、場数からくる直感でしかない。

 和音の歩法で、高速の足さばきでこちらの側面に回り込みつつあったリーを、さらに回り込みんでみせる。

 しかし彼の剣はすでにこちらへ動き出している。

 ギリギリのところで、一弦の振りの高速の太刀筋で、相手の剣を弾く。

 二人が同時に間合いを取り、剣同士がぶつかった残響の中、再度、向かい合う。

 あの歩法はなんだ?

 速い。

 こちらは二つの手札を見せてしまった。

 手が痺れている。一弦の振りで、相手の剣をもぎ取れれば、と思ったけど、そうはいかなかった。握力とか腕力とか、そういう感じではない。

 向こうもかなり技を使う。

 間合いを計り、僕はもう考えを決めていた。

 次で決めるしかない。出し惜しみしている暇はない。

 すっと踏み込んだ時、リーも飛び込んでくる。

 相手の謎の歩法、やはり速い!

 こちらも構わず、和音の歩法、から、五線譜の歩法へ。

 お互いに滑るように回り込んでいくが、超高速。

 こちらの方が動きが長く、リーが先に剣を振る。

 切っ先が僕の首筋を掠める。

 一度振り抜いた剣を引き寄せるリーの側面に、僕がいた。

 相手の剣はこちらへ決定打を放てない位置。

 僕は容赦なく、四弦の振りを繰り出す。

 超高速の四連撃は、回避できないはずだった。

 最初の一撃に、強烈な反動。

 物凄い音が響き、僕は急に手応えが軽くなった。

 事態を理解して攻撃を中止、転げるように間合いを取った。

 リーは追撃してこなかった。

 甲高い音ともに、床に落ちたのは僕の剣だ。

 刃が半ばから折れて、転がっている。僕の手にはほとんど刃を失った柄だけがある。

「いやはや」

 例の剣聖の男性が、声をかけてくる。

「シタロも凄まじい若者を見つけたものだね。リー、下がりなさい」

 頭を下げ、リーが剣を鞘に戻し、壁際に下がる。

「カイ・エナ、シュタイナ王国、剣聖はみな、きみを歓迎するよ。騎士学校で励みなさい」

 十二人の剣聖が同時に立ち上がり、ゆっくりと下がっていく。さっきは頭を下げたのに、僕は動けずに、彼らが去っていくのを見送った。シタロがこちらをちらっと見て、ウインクして去っていく。

 全員が消えてから、リーがこちらへやってくる。

「僕はリー・ファイ。剣を折って悪かった」

 悪びれる様子もない彼を見て、気づいた。

「わざと折った?」

 小さくリーが笑う。

「最初に剣を当てた時、弱いと思った。ただ、あれは必死だったよ。きみの攻撃で、危うく死ぬところだった。連続攻撃だったようだけど、とても全ては捌けなかった。だから、剣を狙った。悪かったよ」

「いや」

 僕は手に残っている剣をなんとなく、鞘に戻した。

「古い剣だし、折れることもあると思う」

「水に流してくれると嬉しいね」

 何気ない様子で、リーがこちらに手を差し出す。

「改めて、よろしく、カイ」

「こちらこそ」

 僕は彼の手を握った。

 そのリーが、壁際のもう一人の青年の方を見た。

「彼はリック・トダー。無口な奴だけど、剣聖候補生で、僕と同年の、騎士学校四年生だ」

 リックがこちらに軽く頭を下げた。

「楽しみが一つ増えたよ」

 そう言ってリーは僕の肩を叩き、リックと一緒に部屋を出て行った。

 近衛騎士が僕のそばに来て、小さな声で僕を誘導したので、部屋を出た。

 楽しみ、か。

 僕は途端に不安に駆られていた。

 ここにあるのは、生半可な競争じゃない。

 本当の強者が、集まっていると、よくわかった。

 僕は生き延びられるのだろうか?

 剣が折れたことが、まるで僕の心が折れていることを示すような気がして、いつまでも頭に残った。






(続く)


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