表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/175

第6話 腹違いの姉妹姫

 アシェンダは、ぽつりと呟く。


「美味しい……」


 疲れた体に染み渡るほどよい塩気が、口の中にゆっくりと広がっていく。白いお皿になみなみと注がれた温かいスープ。それはとても食べやすくて、とても優しい味がした。


「お口に合ってよかったです」


 かたわらに座っていた青い髪の美女がアシェンダに微笑みかける。だがアシェンダは食事の手を止めることなく、一心不乱に銀の匙を動かし、スープやその他の料理を次々と口に運んだ。


「うっ……ひっく……ひっく……」


 少女の瞳からぽろぽろと涙が零れる。それは彼女にとって数日ぶりのまともな食事であった。


 邪教徒の追手から逃げていた時は、道端の草をむしり、ゴミを漁って飢えをしのいだ。


 食事だけではない。深い睡眠をとったのも久方ぶりだ。


 見つかったら命はない、捕まったら殺される。想像を絶する恐怖と不安を抱えた、苛酷な逃亡生活。それはまさに地獄だった。まだ十にも満たない未成熟な少女は、もはや身も心も疲弊しきっていた。


「大丈夫ですよ」


 ふいにアシェンダの小さな体が抱き寄せられた。と同時に、暖かくてふくよかな感触が少女の泣き顔を優しく包み込んだ。


 ……こ、これは、もしかするとお母様より大きいかもしれません。


 柔らかな香りと得も言われぬ安心感に包まれながら、アシェンダは思わずそんな場違いなことを考えてしまう。


「あなたは私達が必ず守りますから」


「アクリア様……」


 アシェンダはうっとりした顔で腹違いの姉を見上げる。アクリアは腹違いの妹を胸に抱きしめながら、にこやかに微笑んだ。


「スープのおかわりなら用意できますが、いかがでしょうか?」


「……へ?」


 アシェンダは一瞬、何を言われたのか分からなかった。だが……


「……あっ」


 いつの間にか綺麗さっぱりとカラになっていた自分のお膳を見て、アクリアの言葉の指し示すところを正確に理解した。


「スープならまだまだありますので、遠慮はいりませんよ」


「えっと、あの、」


「いかがですか?」


「……いただきます」


 恥ずかしくて死にそうになりながらも、アシェンダはハッキリとそう答えた。つまるところ誰しも空腹には勝てないということだ。


「では、すぐにおかわりを持って参ります」


「は、はい! よ、よろしくお願いします!」


 気品に満ちた仕草で給仕をこなすアクリアへ、アシェンダは真っ赤な顔でペコペコとお辞儀をする。


「他に何かしてほしいことはありますか? なんでも私に言ってくださいね、アシェンダ」


「あ、ありがとうございます! アクリア……おお、お姉様!」


 生来の性格の相性の良さもあってか、二人の姉妹姫はあっという間に打ち解けたのであった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ