第6話 腹違いの姉妹姫
アシェンダは、ぽつりと呟く。
「美味しい……」
疲れた体に染み渡るほどよい塩気が、口の中にゆっくりと広がっていく。白いお皿になみなみと注がれた温かいスープ。それはとても食べやすくて、とても優しい味がした。
「お口に合ってよかったです」
かたわらに座っていた青い髪の美女がアシェンダに微笑みかける。だがアシェンダは食事の手を止めることなく、一心不乱に銀の匙を動かし、スープやその他の料理を次々と口に運んだ。
「うっ……ひっく……ひっく……」
少女の瞳からぽろぽろと涙が零れる。それは彼女にとって数日ぶりのまともな食事であった。
邪教徒の追手から逃げていた時は、道端の草をむしり、ゴミを漁って飢えをしのいだ。
食事だけではない。深い睡眠をとったのも久方ぶりだ。
見つかったら命はない、捕まったら殺される。想像を絶する恐怖と不安を抱えた、苛酷な逃亡生活。それはまさに地獄だった。まだ十にも満たない未成熟な少女は、もはや身も心も疲弊しきっていた。
「大丈夫ですよ」
ふいにアシェンダの小さな体が抱き寄せられた。と同時に、暖かくてふくよかな感触が少女の泣き顔を優しく包み込んだ。
……こ、これは、もしかするとお母様より大きいかもしれません。
柔らかな香りと得も言われぬ安心感に包まれながら、アシェンダは思わずそんな場違いなことを考えてしまう。
「あなたは私達が必ず守りますから」
「アクリア様……」
アシェンダはうっとりした顔で腹違いの姉を見上げる。アクリアは腹違いの妹を胸に抱きしめながら、にこやかに微笑んだ。
「スープのおかわりなら用意できますが、いかがでしょうか?」
「……へ?」
アシェンダは一瞬、何を言われたのか分からなかった。だが……
「……あっ」
いつの間にか綺麗さっぱりとカラになっていた自分のお膳を見て、アクリアの言葉の指し示すところを正確に理解した。
「スープならまだまだありますので、遠慮はいりませんよ」
「えっと、あの、」
「いかがですか?」
「……いただきます」
恥ずかしくて死にそうになりながらも、アシェンダはハッキリとそう答えた。つまるところ誰しも空腹には勝てないということだ。
「では、すぐにおかわりを持って参ります」
「は、はい! よ、よろしくお願いします!」
気品に満ちた仕草で給仕をこなすアクリアへ、アシェンダは真っ赤な顔でペコペコとお辞儀をする。
「他に何かしてほしいことはありますか? なんでも私に言ってくださいね、アシェンダ」
「あ、ありがとうございます! アクリア……おお、お姉様!」
生来の性格の相性の良さもあってか、二人の姉妹姫はあっという間に打ち解けたのであった。