第64話 ある将校たちの会話
皇宮・第二皇子殿下邸の裏門。
「あれから若の様子はどうかね」
「特に変わった点はありません」
「というと?」
「殿下は本日もお部屋で、見ず知らずの女性の名をしきりに呟いておられました」
「ふむ。つまりはいつも通りというわけか」
「はい」
「結構。では引き続き、若の監視を頼む」
「了解しました」
「……辛いかね、大尉」
「いえ、特には」
「ふふふ。やはり女は逞しいな」
「任務ですので」
「さもありなん、必要を迫られた際、とりわけ非情になれるのはいつも君達のほうだ」
「……少佐殿の名誉がかかっております」
「惚れていたのかね?」
「彼は士官学校時代の先輩でした……」
「なるほど。そういう繋がりだったか」
「はい。あらゆる面で模範的な軍人であった彼に、密かに憧れていました」
「それで、その想いは伝えたのかね?」
「いいえ、残念ながら。彼は当時から将軍一筋でしたので」
「ふう、どうせ好かれるなら君のような麗しい女性がいいのだがね」
「そう言わないであげてください。将軍の背中をがむしゃらに追いかけていた彼を、私は好きになったのですから……」
「まったくけしからん話だ。女を悲しませた不届きな部下の名を、我が心に刻みつけねばなるまい」
「……そのお言葉は、きっと少佐殿にとって何よりの弔辞だと思います」
「ふむ。ところで大尉。あまり我慢しすぎるのも体に悪い。この自慢の胸板でよければ存分に利用したまえ」
「帝国軍人たるもの失意に沈むことは許されない。そう教えてくださったのは、他でもない将軍であったと記憶しております」
「やれやれ。俺としたことが、どうやら余計なことを言ってしまったようだ」
遠くで鳥の鳴く声が聞こえる。春の終わりを迎える空は、どこまでも青く澄んでいた。




