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第4話 超人集団

「バカバカバカ! アニキのバカーッ!」


 耳をつんざく金切り声が朝の野山を駆けめぐる。そこはとある山奥。今はもう使われていない廃鉱山。立ち入り禁止区域の向こう側――。


「アニキの、ウルトラバカーーッッ!」


「……ん〜」


 立て続けに放たれたソレは、確実に一撃目の威力を上回っていた。まさにマグマのごとき癇癪。狐耳の少女は、雪のように白い毛並みのモフモフ尻尾をカッと逆立たせ、全身で怒りを表現する。


 Lv25

 名前 シロナ

 種族 獣人(白狐型)

 年齢 19歳

 性別 女

 職業 Cランク冒険士(4377人/冒険士人口)

 最大HP 365

 最大MP 330

 体内LP 2

 力 51

 魔 34

 耐 59

 敏 64

 知 65

 美 77

 特性・素早さアップ(微小)

 ゴッドスキル・練気法(仮)


 《戦命力505》


 冒険士協会零支部のキツネ担当ことシロナは、あらん限りの剣幕で、事務所のソファーに寝そべる兄貴分をポカポカ叩きまくる。


「せっかく手に入れた魔石(おたから)の山を半分近く置いてくるとか、マジ信じらんないし! 頭おかしいなんてレベルじゃないしィー!」


「ふぁあ……別に置いてきたわけじゃねえって」


 と、ひどく眠そうな声が返ってきた。


「ただ単に、正当な分け前を向こうに渡しただけだって」


 そう言うと彼はソファーの上で寝返りを打ち、騒ぎ立てる狐獣人の妹分に背を向けた。当然シロナの怒りは収まらない。


「だから分け前とかマジ意味不明だし‼︎」


「まぁまぁ」


 と爽やかな笑顔でなだめ役に廻ったのは、彼の向かいのソファーで新聞を読んでいた金髪坊主頭のエルフの青年だった。


 Lv43

 名前 カイト

 種族 エルフ

 性別 男

 年齢 27歳

 職業 Aランク冒険士(94人/冒険士人口)

 最大HP 1000

 最大MP 1900

 体内LP 4350

 力 131

 魔 109

 耐 124(+248)

 敏 102

 知 108

 美 250

 特性・全技射程アップ(中)

 ゴッドスキル・練気法 状態異常無効


 《戦命力1870》


 零支部のイケメン支部長カイトは、静かに新聞のページをめくりながら、毎度のごとく正論を述べる。


「獲得した魔石の分配を決めるのはそれに携わった当事者達だよ、シロナ。第三者が口を出すのはマナー違反だ」


「だ、第三者じゃないし!」


 しかしこの正論の暴力は想定内だ。あらかじめ反論の言葉は用意してある。


「僕は零支部の職員だし! だから支部の共同資産を勝手にばらまいてきたアニキに、ガツンと言ってやらなきゃだし!」


「それこそおかしな話ですよ、キツ坊さん」


 朝のモーニングコーヒーが運ばれてきた。

 カイトに続いて会話に参戦したのは、清楚可憐という名の衣装を纏った青髪青瞳の美女である。


 Lv40

 名前 アクリア

 種族 古代種

 性別 女

 年齢 22歳

 職業 Aランク冒険士(94人/冒険士人口)

 最大HP 1220

 最大MP 1600

 体内LP 3000

 力 120

 魔 140

 耐 105(+210)

 敏 89

 知 112

 美 770

 特性・水属性、風属性攻撃力アップ(小)

 ゴッドスキル・練気法 状態異常無効


 《戦命力1944》


 零支部副支部長のアクリアは、カイトの隣に腰を下ろすと、当然のように彼の弁護にまわる。


「昨夜の事件はプライベート時に発生、解決されたものです。従って、職場の規定は適用されません」


「そうだね。俺達が事件のことを知ったのもついさっきの話だし。これをチームの手柄と主張するのはさすがに無理があるよ」


「それになキツ坊。自慢じゃないが、俺の取り分が一番多かったんだぜ?」


 どさくさに紛れてそんな事を言ってのける彼に、


「本当に自慢になんねぇぇし‼︎ つかアニキひとりで全部やっつけたんなら、取り分とか意味不明だっっつーの‼︎」


 とりあえずシロナは盛大に突っ込んだ。


「――朝っぱらからうるっせーの!!」


 そして玄関のドアが勢いよく開かれる。


「うげ、リナ……ッ⁉︎」


「天兄に文句があるんなら、まずはあたしが聞いてやるのです」


 琥珀のような淡黄色の尻尾の毛を逆立てて登場したのは、狐キラーの異名を持つ恐怖の犬耳娘だ。


 Lv36

 名前 リナ

 種族 獣人(犬型)

 性別 女

 年齢 19歳

 職業 Bランク冒険士(710人/冒険士人口)

 最大HP 1895

 最大MP 500

 体内LP 7100

 力 169

 魔 30

 耐 141(+282)

 敏 150

 知 187

 美 91

 特性・HPアップ(小)

 ゴッドスキル・練気法 状態異常無効


 《戦命力2160》


 リナは額に青筋を浮かべ、爽やかな朝とは程遠い雰囲気を撒き散らしながら、幼馴染の悪友のもとまでやって来た。


「てか天兄、徹夜明けで寝てんじゃん。なに見えねえの? またシバかれてぇの?」


「な、なんか最近のリナ、昔より狂犬ぶりに磨きがかかってるし……」


「あぁ、何か言ったかコラ?」


「いえ、なんでもありません」


 ひとまず開始十秒でケリがついた。


「ったく。どっちにしろ今回の騒動は天兄だけで丸く収めたんだから、魔石とか取り分とか、お前にはこれっぽっちも関係ない話なのです」


「うっ……で、でもさ! それ言ったら、アニキひとりに戦わせた警備隊の奴らだって一緒じゃんか⁉︎」


「いいや、そいつは違うぞ……ふぁあ」


 と相変わらず声は眠そうなままだが、しかし彼はきっぱりとシロナの主張を否定した。


「あの時あの場にいた兵士達は、多かれ少なかれ全員が死を覚悟していた」


「はあ? 死を覚悟?」


「そうだ」


 まあ結果的には俺が全部片付けちまったわけだが、と彼は苦笑混じりに付け足して。


「共に死地に身をさらした戦友達を、手ぶらで国へ帰すわけにはいかんだろ」


「はは、兄さんらしいね」


「天兄のやることって、いちいち男前なの」


「間違いございません!」


 一人だけ明らかにテンションの違う青髪娘のことはさておき。


「でもさ、死ぬ覚悟とかパッと見ただけじゃ分かんなくない? もしかしたらアニキの思い違いかもしんないしぃ〜」


 シロナが口を尖らせながらそんなツッコミを入れると、


「これまで俺に勝負を挑んできた奴らは、みんな決まってあんな顔してた」


「「「…………」」」


 よほど説得力があったのだろう。もはや異論を唱える者など――もともとシロナだけだが――誰一人としていなかった。


「それに、今は少しでも後顧の憂いをなくしておきたいからな」


「あぁ、なるほどね」


「さすが天兄。抜け目ないの」


「リナさん。この場合『ない』のは抜け目ではなく手抜かりの方ですよ」


「?」


 彼の意味不な発言に次々と相槌が入る。どうやらシロナ以外のメンバーには普通に通じているようだ。まあ、深く考えても仕方がない。もともと思考を巡らせるというのはシロナの性分ではない。


「つかアニキ、自分の部屋で寝ろしィー!」


 さしあたって、イケメン以外にはめっぽう厳しいと定評がある狐娘は、彼への難癖つけを再開した。


「そのでかい図体でソファーに寝られたらスーパー邪魔だし!」


「………あ?」


 メンチを切ってきたのはもちろんリナだ。


「こ――ここはみんなの事務所だし!」


 だがシロナは引かなかった。当て付けという名の確固たる反逆の意志。自分は間違っていない。真っ向から天敵を見据え、圧倒的強者に目力で挑む。もちろんいつでも逃げ出せる距離を保ちながらだ。


「その、なんだ……明日からしばらくカイトやアクと会えなくなるだろ?」


 緊張感が高まる中。歯切れの悪い口調で自白を始めたのは当の本人。つまり彼である。


「だから、その、今のうちにコミニケーションをだな……」


「はあ? なにそれキモ」


 と。シロナがおセンチなことを口走る兄貴分をばっさり切り捨てたところで――


「――ッ‼︎」


 突如飛来したケタ外れのプレッシャーにシロナは思わず身を強張らせる。伝説のレディース、狂犬リナをも遥かに上回るソレの出どころは右斜め前方から。


 狐娘は、ギギギとそちらに顔を向ける。


「全然、まったく、いささかもキモくありませんが――なにか?」


「……いえ、なんでもありません」


 迫力のあるアクリアの笑顔は、狐娘の反逆の意志を挫くには充分すぎるものであった。


「そういや“あの子”は今どうしてんだ?」


「ただいま二階の一室で眠っております」


 彼が誰にともなく疑問を投げると、奥の階段から降りてきた見目麗しい紫髪のメイドがいち早くそれに答えた。


 Lv57

 名前 シャロンヌ

 種族 英雄種(エンシェント)

 性別 女

 年齢 29歳

 職業 Sランク冒険士(6人/冒険士人口)

 最大HP 1500

 最大MP 16000

 体内LP 2500

 力 125

 魔 330

 耐 152(+304)

 敏 160

 知 120

 美 800

 特性・魔力アップ(中) 物理耐性アップ(中)

 ゴッドスキル・練気法 状態異常無効 土魔技Lv5


 《戦命力4215》


 シャロンヌが二階から姿を見せた途端。


「やばっ……」


 シロナはそそくさとその場を離れようとする。この完璧メイドはシロナにとってある意味リナよりも怖い存在なのだ。そのうえ彼女は地獄耳。従って、先程までのやり取りは全てこの女王様なメイドさんに筒抜けだったと考えるのが妥当だろう。


「それはそうと、何やらまたどこぞの愚か者が騒いでいたようですが?」


「っ!」


 そしてそんなシロナの懸念をさも肯定するかのような氷点下の一瞥。白狐の体がビクンと強張る。それはこの上もなく、いつも通りの零支部の光景であった。



 ◇◇◇



「昨晩はお疲れ様でございます、マスター」


 シャロンヌは足音ひとつ立てず、そっと彼の傍らに控える。ちなみにシロナの姿は既にそこにはなかった。シャロンヌと入れ替わる形で四階にある自室に避難した模様だ。


「あの子の様子はどうだ?」


 当然のように彼はその話を継続する。


「かなり衰弱しておりますが、若い健康体なので命に別状はないと思われます」


 シャロンヌは彼に向かって恭しく頭を下げながら答えた。


「やっぱあの子ってお前と同じなんだよな? 紫髪だったし」


「はい。彼女は私と同じく『英雄種(エンシェント)』でございます」


 シャロンヌがお辞儀をしたままそう答えると、彼は「そうか」と短い言葉を返し、頭を掻きながらソファーから身を起こした。


「〔外魔(がいま)〕に追われてたから多分ワケありなんだろうが、そのあたりは起きて飯を食ってからだな」


「念のため胃に負担の少ない軽食と、大鍋にスープを作っておきました。――アクリア、カイト。彼女が目を覚ましたら食べさせてあげてください」


「かしこまりました」


「はは、どうりでさっきからいい匂いがするわけだ」


「でも昨日天兄が傷だらけのあの子を抱えてきた時は、さすがのあたしもビックリしたのです」


「事情を話して親父殿に預けてもよかったんだが、なんつーかほっとけなかった」


 言いながら彼は手を顔の前で合わせて、仲間達に謝罪のポーズを取る。


「すまん。色々と立て込んでる時期に、余計な厄介事を持ち込んじまって」


「それは言いっこなしだよ、兄さん」


「天兄は何一つ間違ったことしてないの」


「お二人の言う通りでございます。……それに、昨日治療を施した折にも感じたことなのですが……私は以前どこかであの子を見たような気がしてならないのです」


「キミもかい? 実は俺も、あの子には見覚えがある気がするんだ……」


「いずれにせよ、彼女が目を覚ませばその辺りもはっきりするでしょう」


 シャロンヌはそう締めくくって、次の話題へと移る。


「マスター。そろそろ城へ向かわれた方がよろしいかと」


「なんだ、もうそんな時間か?」


「いえ。ただあまり帰りが遅くなると、明日の予定に支障が出る恐れがありますので」


「それもそうか」


 頷きながら、彼は立ち上がった。


「リナ。動力車の準備は?」


「もちろんバッチリなの!」


「カイト、アク。あの子のことをよろしく頼む。目を覚まして色々落ち着いたら、ゆっくり話を聞いてやってくれ」


「了解だよ」


「お任せください」


「シャロ。出発する前に服を着替えてこい。先方がご所望なのは俺の従者(メイド)としてのお前じゃない。Sランク冒険士の『常夜の女帝』としてのお前だ」


「かしこまりました」


 冒険士協会零支部・特異課のメンバーが動き出す。このクールな超人達のスイッチを入れるのは、いつだって彼の言葉だ。


 Lv40(第一段階)

 名前 花村 天

 称号 格闘王(バトルロード)

 種族 伝説超越種(レジェビエント)

 性別 男

 年齢 32歳(外見は18歳ほど)

 職業 Fランク冒険士(15002人/冒険士人口)

 最大HP 17500

 体内LP 1000万

 力 500

 耐 520(+1040)

 敏 480

 知 150

 美 40

 特性・全体防御力アップ(特大)

 ゴッドスキル・いっぱい


 [備考]

 ・生命神フィナのダーリン

 ・知識神ミヨのパートナー

 ・創造神マトのマブダチ

 ・三柱神地上代行者

 (表示がロックされているため閲覧不可)


 《戦命力99900(第一段階)》



「――さてと」


 天は着慣れない礼服に袖を通すと、玄関に足を向けた。


「そんじゃま、ちょっくら敵情視察に出掛けるとしますか」

 

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