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第35話 なんで俺は

「出ていけッッ‼︎‼︎」


 気がつけば無我夢中で叫んでた。


「お前どのツラ下げて俺達のところに来てんだよ!」


 そいつの顔を見た瞬間、頭の中が真っ白になった。


「早く帰れよ!」


 そいつの声を聞いた途端、腹の底がカッと熱くなった。


「今すぐ、俺の前から消え失せろ!!」


「……」


 とにかく叫ばずにはいられなかった。ただ黙って目の前に立っているそいつを、俺は拒絶せずにはいられなかった。


「す、少し落ち着いてくださいまし、兄様。お体に障りますわっ」

「あ、あのさ淳。気持ちは分かるけどさ? ここは弥生の言うように一旦落ち着こうよ」


「これが落ち着けるわけないだろうが‼︎」


 俺は大声で怒鳴った。久しぶりに声を張り上げたせいか目がちかちかする。ぼやけた視界の中で、弥生とジュリがびくりと身を縮めているのが見えた。なんだよ。俺が悪いのかよ。なんでお前らは平気なんだよ。どうして俺はこんなに胸がざわついてんだよ。なんなんだよ、くそっ!


「淳」


 不意に名前を呼ばれた。その直後。

 そいつは、花村天は――


「――それに弥生さんも、あの時は本当に申し訳なかった」


「「!」」


 天はいきなりその場に膝をつくと、俺と弥生に向かって深々と土下座をした。


「あの夜、俺はラムに引き止められて初めて自分の犯した過ちに気づいた。たとえパーティーを抜けるにしろ、あんな馬鹿な真似はせず、お前達としっかり話し合うべきだった」


 それは思わず息を呑むほどの、真摯で重みのある詫びの姿勢だった。


「天さん……」

「て、天……」


 弥生とジュリが憐憫の眼差しで、床に土下座する天を見つめている。なんだよ、その目は。なんだよ、その顔は。これっぽっちでもう全部許したみたいに。お前らそいつが何をしたか忘れたのかよ? 弥生、お前はそいつに何をされたか忘れたのかよ? なにを今さら!


「今さら謝られたって――ッ!」

「聞いてくれ、淳」


 ベッドの上で怒りに身悶える俺を床から見上げながら、天は言った。


「俺は、お前のその体を治しにきた」


「‼︎⁉︎」


 い、いまなんて?

 心臓を痛いくらい脈打たせて、俺が息を詰まらせていると。そばで体を支えてくれていた妹の弥生が、俺の気持ちを代弁するように口を開いた。


「て、天さん……い、今……今なんとおっしゃったのですか?」


「動かなくなった淳の体を元通りにできる。そう言ったんだ」


 嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だうそだウソだ!


「そんな事、できるわけないだろうが!」


 完全に言葉を失っている弥生をよそに、俺は身を震わせながら吐き捨てた。この体が元通りになるなんて、そんな事あるわけが――


 ――《神具・生命の玉》――


 ――次の瞬間。天の全身から淡い黄金色の光があふれ出し、そして宙に溶け込むように消えていった。その神々しい光をたった一目見ただけで、自分の荒れ狂う激情が問答無用で鎮められていくのを感じた。弥生やジュリも、心を奪われたように呆然と立ちすくんでいた。なんだよ、今のは……。


「神具『生命の玉』。生命の女神フィナ様から授かった英雄専用のアイテムだ。その効果は対象の完全完治。どんな傷でも病でも即時治癒するというものだ。フィナ様いわく、たとえ首だけになっても、肉体に魂さえ宿っていればその効力は発揮されるそうだ」


 それはまるで、俺の心情を全て見透かしたかのような丁寧な解説だった。そうだ。こいつは出会った時からそうだった。さも何もかもお見通しだと言わんばかりに。いつもこっちの気持ちを丸裸にして。易々と自分のペースに引きずり込んじまうんだ。


「信じられないかもしれないけど、天はあの三柱様に『英雄』として認められたのだよ」


「え、英雄……ッ⁉︎」


 震えた声で言いながらジュリは、そして弥生も、堪えきれないとばかりに歓喜の情を爆発させた。


「ね、淳だって今の見たでしょ! 天はフィナ様から授かった力で、キミのことを助けに来たんだ!」


 ……うるさい。


「それでは兄様のお体は、本当にもとのように治るのですね!」


 ……うるさい。


「ああ。神界でフィナ様からのお墨付きもいただいた。この『生命の玉』さえあれば、淳は必ず以前のように動けるようになる」


「うるさいんだよ!!」


 俺は辛うじて動く右手で近くにあった空の花瓶を掴み上げると、目の前で土下座するそいつ目掛けて思いきり投げつけた。


 ガシャンッ!!


 と大きな音が響いた。弥生とジュリは小さく悲鳴を上げて顔を青ざめさせる。部屋が静まり返った。そんな中。


「淳。どうか俺にお前の体を治させてくれ」


 天は額についたガラスの破片を払おうともせず、そのままもう一度頭を下げたのだ。


「そ……そんなの、どうせお前お得意のペテンなんだろ⁉︎」


 俺はありったけの声を絞り出す。分かってるよ。自分がどれだけ嫌なことを言っているのか。だけど、このあとからあとから湧き上がってくる感情を……俺は素直に認めるわけにはいかないんだ!


「そ、そうだ。うまく俺達を騙して、前みたいに取り入ろうって腹なんだろ? そうだよ、そうに決まってる!」


「お前を治療したら、俺は二度とお前達の前に姿を現さないつもりだ」


「ッ――!」


 床に顔を伏せながら、しかし真正面から告げられた元チームメイトの覚悟の表明。弥生とジュリが表情を凍りつかせる。そのとき俺は途方もない決意という名の意志を、頭に直接叩き込まれた気がした。なんで。どうしてそこまで。もうやめてくれよ。


「もしこれから先お前に会ったとしても、その時は他人の振りを貫こう。だから一度だけでいい、」


 その懐かしくて頼もしい声を聞いているだけで、無理矢理抑えつけていた自分の気持ちが、心の奥底から溢れてくる。必死にそれに抗おうとする俺と、床から顔を上げた天の視線がぶつかり合う。


「俺を信じてくれ、淳」


「……!」


 なんで俺はこんなに安心してんだよ。

 なんで俺はこんなに期待してんだよ。


「なんで……なんで……っ」


 なんで俺は、天にまた会えたことがこんなに(うれ)しいんだよ……ちくしょう!

 

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