プロローグ
この小説をお読みいただき誠にありがとうございます。皆様に少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
突然ですが。
もしもこの世界にもうひとつの世界が実在したら。そう、言うなれば鏡に映し出されたかのように瓜二つの、けれどもあなた様が住んでいる世界とは全く異なる別の世界が存在したら。
ぜひ一度は行ってみたいと思いませんか?
おおっと、これは失礼いたしました。いきなりこんな事を言われても頭が混乱しちゃいますよね。あ、ちなみにですが、こちらの世界にはレベルとかステータスとか魔法とかが普通にありま
え、なら絶対に行きたい? それでリアル魔法使いになってやるって?
ええっと大変申し上げにくいのですが……生まれがそちらの方ですと、仮にこちらの世界にこれたとしても、魔法を使うことはできません。ああでも、レベルを上げることは可能です。まあ、いくらメタルなモンスターを狩りまくってレベル上げに精を出しても、そちらの世界の方が魔法を覚えることはまず無理でしょうが。
え、それじゃあ話が違う?
そう言われましても、そちらの世界の方々は基本的に「魔力」をお持ちではないので。そうなりますと、やはりどうしようもないと申しますか……
え、どうにかして魔法を使えるようになれないかって?
うーん、ちょっと厳しいですね。
というのも、そもそもそちらの世界の方々は魔力自体に干渉することができないのですよ。あ、でもその代わり、敵からの魔法攻撃は全部無効化できます。例えば怪獣映画さながらのドラゴンの火炎放射とか直撃してもへっちゃらです。ええ。言うなれば対魔法、対魔力の絶対防御。そんな無敵の肉体を、そちらの世界の皆様は生まれながらにお待ちなのです!
え、それだと自分に対する補助や回復魔法なんかも効かなくなるんじゃないかって?
いや、これは鋭い、素晴らしい。まさにその通りでございます。そうそう、ついでに言うとマジックアイテムや魔法装備の類もほとんど無効化、無力化しちゃいます。あれらも元を辿れば魔力成分の塊ですからね。
え、難易度が高すぎる? もう少し設定を下げないと誰もそんな世界に行きたがらない?
おかしいなぁ。“あの方”はこちらの世界をえらく気に入ってくださったんですが。それはもう、この世界はパラダイスだと。
え、もうこっちからそっちに行ったヤツがいるのかって?
ええいますよ。もっと言えば、あの方はこちらでの生活をこれでもかというほど謳歌しております。まあ、あの方は少し、いやかなり特異な人といいますか……
え、なら自分も試しにそっちの世界に行ってみようかな?
おお、それは実に素晴らしい!
では、是非この機会に“彼”と御一緒にこちらでの生活を満喫して下さいませ。
それでは親愛なる紳士淑女の皆様!
改めて心より歓迎させて頂きます!
ようこそ、この世界へ!
……………………(プツン)。
ザー……ザー……ザー……
スイッチがひとりでに切れた。どうやらただのブラウン管テレビのようだ……