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少女と吸血鬼さん  作者: 創
1/2

少女と絵本

_山奥の御屋敷には吸血鬼がいるから決して近づいてはならない。


外は夜、さらに山奥ということもあり暗く、何処からかフクロウがホー、ホー、と鳴いている。

そんな山奥にひっそりと聳え立つ煉瓦造りの立派な、しかし寂れた御屋敷の一室で少女は異形のものと話していた。

「むかしむかし、あるところにぃーおじーさんとぉ、おばーさんがぁー」

「きゅーけつきさん!もっとちゃんと読んで!」

「ったくこんな本どこから持ってきたんだよ…」

「なんかいっぱいご本があるおへや!」

「そんな所あったっけ…」


部屋は広く、真っ赤な絨毯にかなり年期の入ったソファ。それと小さなテーブル。豪華な造りのシャンデリア。ソファに座る異形なものの膝に何の抵抗もなく座った少女_ルティアは長い白銀の髪の毛を一つに束ね無邪気に笑みを浮かべていた。

「ったく…まあ、外に出てないならいいけどよ…」


異形のもの_吸血鬼はやれやれと息をつくと絵本を読むのを再開した。

異形といえど、外見は18くらいの青年とあまり変わらない。黒髪、長身。血のように真っ赤な眼と口元から出るとがった八重歯さえなければ人間と言ってもなんもわからない。

「はあ…昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは…」

内容はこんなものだ。竹から産まれた美しい姫は、やがて月に帰って行ってしまう。なんとか月に帰らせないようにするけど、努力もむなしく、帰ってしまう。悲しい話だ。

そんな内容でも、ルティアはその左右で違う色の瞳をキラキラと輝かせている。

「おしまい。…お嬢さんはこんな救いもない話、読んでいて悲しくなんないのか?」

「ん?ルティアはお姫様可愛いなっておもったよ!」

(こいつ話聞いてないな…)

「へーへーそうですか。」

吸血鬼はこの娘の話の聞かなさには慣れていた。

(もう6つにもなるのによぉ。絵本読めって…。んま、どうでもいいか。)


本を閉じてテーブルの上に置くと、その艶やかな髪をさらりとなでて

「よいしょ…。もう子供は寝る時間だ」

とルティアを持ち上げた。いわゆるお姫様だっこスタイルで。

「わ!すごい!きゅーけつきさん王子様みたい!!」

「もう子供の時間はおしまいですよ、プリンセス。」

芝居じみた口調で言うと、ルティアはぷは、と笑って

「王子様にゆわれたらしかたないなぁ」

きゅ、と小さな手を吸血鬼の白い首にまいた。

距離ゼロになったルティアの白銀のさらさらな髪の毛とふわりとかおる甘い香り、腕越しにもわかる子供特有のふわふわと弾力のある肌に吸血鬼はゴクリ、と生唾を飲み込み_

(やばい_あぁ、早く喰っちまいたいッ)

しかし悟られないように、いつもの笑顔を張り付けてルティアの寝室に向かう。

途中、何か話をしていたが、吸血鬼はその内容を記憶していなかった。


その寝室は子供が寝るには大きすぎる天蓋付きのベットがある。

毛布は昼に干したからふわふわだ。

「ほい到着ー。お嬢、早く着替えて寝ちまいな。」

「ん、まだ眠くない…。」

「頭がぐらぐらいってるぞ。ったくしょうがねぇなぁ、着替えさせてやるから、ばんざいしろ。」

「ばんざぁーい」

吸血鬼は着ているワンピ-ス脱がせ締め付けがないネグリジェに着替えさせる。

そのあいだもルティアの頭はぐわんぐわんと傾いていく。

(ったくほんとしょうがないなこの娘は…)

着替え終わると、ほぼ半分夢の中のルティアをベットに寝かす。

そばに腰かけてぽんぽんと胸のあたりをたたいてやるとルティアは少し悲しそうな顔をして呟く。

「ね、きゅうーけつきさん。るてぃあね、ほんとはね、あのお話のお姫様、いいなぁって思ったの」

「ほう…なんでだ?」

「だって…だって、あのお姫様はパパとママにいっぱい愛されてるじゃない。るてぃあは、るてぁの…パパと…ママは…」

すー、すーと規則正しい寝息が聞こえる。

瞼の先からはつう、と一筋の涙がこぼれる。

吸血鬼はその涙を掬ってぺろり、と舐めると、


「お嬢の…、ルティアの両親は、俺が喰ったんだからな。お前が今寝ているこのベットの上で。」

誰に言うわけでもない、だが自分自身にしか聞こえない大きさで呟く。


大きな窓から差し込む月明かりが吸血鬼を明るく照らす。

大きなベットに影がかかる。その影はおおよそ人間とは思えない、大きな翼を生やした獣の像が映されていた。


「まだだ…もう少し、喰うのは、もう少し待ってみよう」


吸血鬼は、獣は立ち上がり少女の頬をなでる。その表情は影に隠されてよく見えないが。

「おやすみ、俺のお姫様。」


獣は少女の部屋を出ていく。パタンと扉が閉まる。


無垢な少女はその音を聞いて瞳を開く。

上半身だけ起き上がると右の紅い瞳だけ閉じて、


「意気地なし。」


と小さく笑った。



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