異世界なのに、現実?女神の島・ガルーア①
「えっと、もう少しわかるように言ってくれませんか?」
挑むような問いかけに目の前でオロオロしてるドレス姿の女性が、傍にいる燕尾服を着た男性を見た。
「で、ですから当家で飼っているグリムがいつの間にかいなくなっていて…」
「それは、さっき聞きました」
柔らかくふかふかなベッドから出る事も出来ず(出ようとすると、止められる)、首の凝りをほぐしながら話を聞いていた。
「はい。それで、グリムが言うには、自分を助けてくれた人が困ってるから、連れてきたと…。ねぇ、グリム?」
女性が、俺の傍で呑気にアクビをかましてる子犬を見た。
「言ったってあんた。犬が喋る訳ねーだろ? どんなドッキリなんだよ。こっちは、仕事で疲れてるってーのに…」
『いや、もう仕事なんて必要なくね?』
「……。」
何かいま聞こえたような?
「とにかく助けてもらった恩は恩です。それは、感謝します」
座ったまま、頭をさげた。
『お前、バカ?』
「あ?」
厳しい表情で女性と男性を見ると、二人揃って首を振り、俺の方を指さした。
「俺じゃねーよ」
『だから、俺だって言ってんだろ。やっぱバカだな…』
「……。」
気のせいか?こいつ、今なんて言った?
『だーかーらー、俺が言ったんだって!』
「……。」
犬が喋った?嘘だろ?
「あ」
「お嬢様、こちらへ…」
『俺はなー、元悪魔だったんだよーーーッ! グリス・ウヲールッ!!』
子犬が、クルッと回転しながら何かを叫んだ瞬間!
ゴインッ…
俺の頭に何かが当たって、意識を失った。
ただ、耳にグリムッ!という大きな声だけは聞こえていた。
「─と言う訳なんです…。申し訳ありません」
深々と頭を下げる女神・キシル・ガルーア・ミナトは、部屋の隅でギャンギャン吠えているグリム(元・悪魔)にニッコリ微笑んでそう言った。
「つまるところ、俺は?」
「はい、既にお亡くなりになっておられます」
「そう言われて、はいそうですか、なんて言えると思います?」
「と、言われましても困ってしまいますわね。クリスト、どうしたらいいの?」
キシルは、傍にいたクリストという執事救いを求めた。
「そうですねぇ、困りました」
困ってんのは、あんたらじゃなく、俺!
「死んだら俺どうなるんだ? 田舎には母さんがいるのに。どうやって仕送りすんだよッ! 父さんがなくなってから、女でひとりで俺を育ててくれて、やっと就職してこれから恩返し出来ると思ってたのに! どうすんだよッ! おい、犬! テメーがここを出なきゃ、こんなことにはならなかったんだろッ!」
俺の余りの形相にうるさく吠えていたグリムが、折りの隅まで行った。
「いえ…」
キシルが、ため息をつきながら、
「むしろ、あなたが早めに亡くなってむしろ良かったのです」
「は? なに言ってんだ?」
「もしあの時、あなたがグリムを助けなかったとしたら、あなたは業務横領の罪で大変な事になっていたのですから…。そうよね? グリム?」
『あぁ、お前の会社に轟っていけすかねー奴いただろ?』
「いた。クビにされたけどな」
確かに、あの轟ってやつがクビにされたのも、お金が絡んでいた。だが?
『あと、そいつと仲悪かった男…』
「才川先輩?」
『経理部にいて、ずっとパソコンとにらめっこしてる奴だ。あいつと轟がグルになって、1000万着服してるのは?』
「いや…」
『そして、お前を拉致ってすべてをお前のせいに…。だから、良かったんだよ、お前が死んで。』
良かねーだろ!
「それに、あなたがもしこの世界で生きていく自信があるのなら、こちらの仕事で得た報酬を母上様に送る事も出来ますから…」
聞いた事もねえ!そんなお伽話のような話、信じられるかって!
「取りあえず、本日はこの辺で。さぁ、お嬢様お勉強の時間ですよ?」
「はい。グリム、あなたはこの世界を案内してさしあげて」
キシルは、また微笑みながらグリムを見ると、グリムはガンガン首を縦に振っていた。
「では、のちほど…」
キシルは、クリストに支えられるようにこの部屋を出ていき、俺と折りに入れられているグリムのふたりになった。
『おい、行ったか?』
さっきまで折りの片隅でガクガク震えていたグリムが、態度をガラッと変え、日曜日テレビの前で横になっているおやじみたいな恰好をして言った。
「俺は、嘘はついてないからな。どのみち、お前は死ぬ運命だった…」
「いいよ、もう。そんなことは…」
怒りをぶつけようにも、どこにぶつけていいのかわからない。
「俺は死んだんだろ?」
「あぁ…。見るか?」
グリムが、指で空中に何かを出したが、今の俺には見る勇気はなかった。
母さんの泣いてる姿なんて、見たくもない。
『楽しいぞ、ここも』
檻越しに交わす言葉も、淋しい。
「まてよ? 確か、ここで仕事したら報酬が送れるとか言ってたよな? 犬!」
「犬じゃねぇ。グリムだ、グ・リ・ム!」
「決めた! 俺、ここに住んで母さんに恩返しする!」
この時のグリムの顔は、やれやれと言った表情だったのかも知れない。
でも、どうしても俺は母さんに恩返しをしたかった。
どうしても…
血の繋がらない俺を、ここまで育ててくれたあの母さんに!!
『決意してくれたのはいいけどさ。ここから出してくんね?』
「やだ」
『出して?』
「やだ」
『お願い…』
「トイレ教えてくれたら…」
『その大きなドレッサーの左の扉…』
「いこ」
『─って、出せーーーっ!』
柱をガンガン鳴らし、用を足してスッキリした俺が見たのは、明らかに尿と思える池の前でションボリうなだれてるグリムの姿だった。
「悪魔とかって、そういう能力ないの?」
『ねーよ。それに俺は、元悪魔なの! 使える魔法だって限られてるし…』
「ふーん」
そんな会話をしながら先ほどいた部屋から、王座へと向かっているのだが、一向にたどりつけない。
「もしかして?」
『迷子っぽくね?』
王宮の中で迷子る元人間と元悪魔。
結局、たまたま通りかかったメイドっぽい人に、笑われながらも王座まで案内された。
「おい…」
『なんだ?』
「近道あるなら、言えよ。犬」
『忘れてたんだよ…』
バレるような嘘ついて…
王座というこの国を司る王は、キシルだった。が、あいにく勉強中ではあったが、
「よろしければ、こちらをお使いください」
とひと揃いの服と麻袋に入った金貨10枚を貰った。
『なんどよ、これっぽ…。い、行こうか? 翔太』
また震えだしたし…。
そういえば、こいつなんで悪魔から犬になったんだ?
「ありがとうございます」
それを受け取り、俺はグリムと一緒に王座を出た。
「で、ほんとにこっちでいいんだろうな?」
『たぶん?』
結局、入り口に辿りつけず、またしても同じメイドっぽい人に案内され、俺とグリムはお城を出る事に成功した。
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試行錯誤しながら書いてます。