おっちゃん
珍しくちょっと長め〜
長いか?
そこは賑やかな酒場。どんな人も仲良く酒を飲み交わす。時には乱闘騒ぎもあるけどそれも含めて酒場というものでしょう。
「おーい、酒をくれ~」
「てめぇ飲み過ぎじゃねぇのか?これで終わりにしとけ」
「あん?オラァいいんらよ。それより酒をくれ」
「ったくどうしようもねぇ奴だな」
「Zzzz………」
【えぇぇー!】
「酒を頼んでから寝るの早すぎだろ」
店に居た客全員が笑っていました。私も面白いと思いましたよ?
「オヤジさん呼んでこい。こりゃ起こしてやらねぇとなカッカッカッ」
「ちがいねぇ」
「おっちゃん!また、あいつ寝ちまったぜ」
オヤジさんは頷くと寝てしまったお客さんの所に行くのです。
『さぁ寝るんだったら家に帰んな。お前さんがここで寝てしまうと客が座れないぜ。』
なんて言いがら水を顔にかけるのです。
「んぐぅ……」
起きる気配がありませんでした。
『やれやれ、コイツは仕方ねぇな。奥で寝かしとくか。代金払ってもらわなくちゃァならねぇからな。』
そう言いながら豪快に笑いました。
『お前ら!ちと手伝えや』
「仕方ねぇな。おっちゃんの頼みじゃ断れねぇや」
こうして彼は奥に運ばれました。あの人はいつも寝てしまうらしいです。困った客と言ったところですかね。おっちゃん曰く、《どんな客でも金を払ってくれればそれなりの対応はする》との事でした。器のでかい方です。
『さぁそろそろ店を閉めるぞ』
「おっと…もうそんな時間か」
「この酒場に居ると時が経つのが早いぜ」
「よーし、おっちゃんの手伝いでもしてくか~」
『手伝ったって安くしねぇぞ?』
皆その言葉に笑いながらも店を片付けるのを手伝うのでした。私はテーブルを拭いただけですけどね。
次の日、酒場が別の意味で賑わっていました。
話によると、お客さんの中に赤ちゃんが産まれた方が居るようで報告しに来たんだとか。
「おっちゃん!あんたのおかげで嫁さんどころか子供まで出来ちまったよ」
『なんだって?子供が?!そうか良かったな!そんならお祝いしねぇとな?』
そう言ってニヤリと笑うおっちゃん。ちょっと不気味なのは言わない方がいいですね(笑)その日は、飲み代はおっちゃんの奢りになりました。器だけでなく懐も大きい方でした。
ある日、お客さん同士でいざこざがあったようで乱闘騒ぎが起きました。
「てめぇ!一体何様じゃボケぇ」
「事実だろうが!こんな所に居るぐらいならとっとと仕事探せ愚か者!」
「俺はいいんだよ!」
「てめぇのお袋さんも泣いてたんだぞ?それで言い訳ねぇだろうが!」
と、激しく怒鳴り合い、取っ組み合いになっていました。しかし、店の主はただ、静観しているだけでした。しばらく2人の争いが続き、決着がつかないと見たおっちゃんが
『そこまでにしな。お前達、ここは俺の店だ、我が物顔で暴れられちゃたまんねぇな?』
「しかし……」
『そこでだ!ここにいい話がある。そいつは俺が預かろう。』
「そんな、こんな奴預かったとこで何も役に立ちませんよ」
『それを決めるのは俺だ。仕事さえやりゃ給料だって出すぜ?ここで酒も呑めるしいい話だろ?』
「いいのか?おっちゃん」
『いいぜ、ただし、お前さんはツケが多いんでな暫くは無給になるが覚悟しとけよ?』
それを聞いた皆は大笑いです。
「おっちゃん~勘弁してくれよ~」
「カッカッカッいいように使われたなぁ」
「あいつには丁度いいってもんよ」
「そうだな、あいつがここに居なきゃつまらねぇしな」
さっきまでのが嘘のように笑いに包まれるのでした。
それから季節は流れて何度目かの冬を迎えた頃、事件は起きたのです。酒場に兵隊がやって来ておっちゃんを連れてってしまったのです。
どうやら濡れ衣を着せられたようです……
「どうする?おっちゃんが居ないとこの酒場はやってけねぇ」
「何情けねぇこと言ってんだ?おめぇだってオヤジさんと一緒にやってきたんだ帰ってくるまで頑張れよ」
「んな事言ったって……」
「やめとけ、それ以上言うな。皆わかっていることだ」
………おっちゃんの無実を証明する方法はないのでしょうか?
「無いことは無いが今回は無理だろう」
「あぁ、相手がわりぃ……なんてったって貴族様だからな」
「しかも、かなりの大物だぜ?それこそ、俺達見てぇな野郎には勝てねぇな」
なんということでしょう!それじゃぁおっちゃんはどうなるのですか?
「見せしめの処刑だろうな」
「クソ!あの糞野郎笑いながら《命を助けるのは諦めた方がいいよ。王族か僕以上の貴族を味方に出来るなら話は変わるけどね》っていいやがったんだぜ」
皆、無力さからか苛立ったり嘆いたりしかできないようでした。私としてもこの酒場の主が居ないのは嫌ですよ……でも、あの手を使うのは気が引けます………
「流石のおっちゃんもあいつより上の貴族との繋がりは無いだろうしなぁ」
「この中に誰かいねぇのか?」
「いる訳ねぇーだろうが!そこまで高貴な方がここに来ると思うか?」
………仕方ないですね。ここは私に任せて貰えませんか?
「……何か当てがあるのか?いや、聞かない方がいいだろう。おっちゃんのこと任せたぜ」
「あぁ、頼んだぞ!あんたならやってくれる気がするよ、なぁ皆?」
全員が頷いてくれました。私は一礼するとその場を後にしました。
それから3ヶ月すぎて────
「おっちゃん!コイツまた寝てるぞ」
『ったく仕方ねぇやつだな、ほれ、起きろそこで寝られると客が座れねぇぜ?』
「あんちゃん酒くれるか?」
「はいよ、そろそろやめた方がいいと思うが?」
「おいてめぇ?そのスルメは俺のだぞ!」
「良いじゃねぇか。もう酒すらのめなくなってんだからよ」
酒場は賑やかさを取り戻していました。それどころか………
「おっちゃん!人手増やしてくれよ~俺一人じゃまわらねぇ!」
『何言ってやがる!気合いじゃボケ!』
「勘弁してくれよ~」
「頑張れよ、あんちゃん!」
【ワハハハハ】
『いやー、この酒場に活気が戻ったのはお前さんのおかげだ。とても感謝してる。これと言ったことは出来ないけどな』
……いえいえ私は特別何かをした訳じゃないですよ?私はこの酒場が好きですからねぇ………酒場にはおっちゃんがいないとね?