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潜入

 その後、俺は何十枚かの絵を描き上げると、服をお忍び用に着替え、こっそり城を抜け出した。ごめんねクリス。せめて、気づかれる前に帰るから。



「ちゃんと来たわね」


 アジトにつくと、アリスは仏頂面でそう言った。目が少しトロンとしている。眠たそうだ。

 その横にいるエスタちゃんは完全に目を瞑ってお船を漕いでしまっている。今夜のミッション、大丈夫だろうか。



 そうして、アジトからクラウディア邸に移動するまでで作戦の概要を口頭で説明された。


 ざっくり言ってしまうと、潜入&拉致。アリス、ゲイリーさん、俺でクラウディア邸に潜入し、首謀者であるクラウディア卿を拉致するというシンプルな作戦だ。

 もし拉致が無理であれば殺害。何かあったときのために、エスタは外で待機し退路を確保するという感じだ。


 クラウディア卿には幼少期にあったかもしれないが、十数年の時が経った今、俺がロイ・アルス・レヴァンティリアであることがバレることはないはずだ。仮面も被るし。


「あら、仮面被っちゃうのん? カッコいい顔が見えないのが残念ねぇ」

「いやいや、むしろ、なんでみんな仮面つけないんですか?」

「周りが見にくくなるし、顔がバレても任務を完遂してしまえばいいから必要ないのよ」

「なるほど……」


 確かに仮面をつけると視界が少し狭まる。が、正体がバレるほうがリスクがあるため、このまま仮面をつけて任務を遂行しよう。女神さまにオーダーしたイケメンフェイスを守れるし。


 そうして、クラウディア邸に到着する。が、エスタちゃんはもう夢の世界に今にも旅立とうとしている。退路はないと思ったほうがいいかもしれない。


「じゃあ、さっそく解毒薬と遅効性の毒を」

「ああ……」


 俺はロープでぐるぐる巻きにされた後、解毒薬を飲み、十分に時間を置いてから遅効性の毒のみを飲まされ、ロープから解放された。せめて、薬と毒の味を改善してほしい。今度、エスタちゃんに相談しよう。


「じゃあ、エスタ!」

「……」

「エスタ!」

「は、はい! どうかされました。ご飯ですか?」

「寝ぼけてるんじゃない。血をこいつに飲ませるのよ」

「え、ああ……はい……」


 意識の半分が夢の世界で泳いでいる状態のエスタちゃんは服を脱ぎ始めた。


「えっ、ちょっと待ったっ!」

「何よ」

「ええっと……あのさ、服を脱ぐ必要はないんじゃないかな」

「それだと、服が血でぬれちゃうかもしれないじゃない。服って高いんだからね」

「確かに……でも、血を吸いたくないんだ。俺」

「何でよ?」

「俺は血を飲むとその中にある魔力を補充できるんだけれど、血を飲むと制御が利かなくなるんだ。最悪、誰かまわず襲い掛かっちゃうかもしれない。だから、出来るだけ重症を負ったときや衝動を鎮めるとき以外は吸わないでいたいんだ」

「……本当? まぁいいわ。魔導が使えるなら。でも、足手まといになったら許さないからね」

「ああ、頑張るよ」


 クソ! 言わせておけば……その威勢がいつまでも続くと思うなよ……。


「よし、仕方がないがやるか……」


 今回の俺の目標としては、この作戦で活躍して毒を飲まされないくらいの信用を獲得すること。

 そして、その信用をどんどん積み上げ、この女に復讐してやるんだ。それまでその高飛車な態度でいるといい。ルシア・エトス・ギルバートめ!


そうして、俺たちは見張りをしている兵士を気絶させると、クラウディア邸に潜入した。


「結構暗いな……」


 真夜中なので、廊下の電気は全て消灯している。見張りの兵士は外の二人だけで、中の見張りは全然いない。少しくらい金品が盗まれたところで痛くも痒くもないということだろうか。

 こんなときにもゲイリーさんは俺のお尻をさりげなく触ってくる。当たっちゃった感を装っててもバレバレだからな。


「こんなに暗かったら、お化けが出てくるかもよ。ラルフくん!」

「そんなお化けだなんて……」


 まぁ、魔導があるファンタジーの世界なら全然あり得るかもだが、出てきたとしても魔導で撃退できるので怖くはないのだが。


「マスターこんな時に何言ってるの……!」

「あら、アリスちゃんもしかして怖いの?」

「怖くなんかないわよっ!」

「そうよね。アリスちゃんはお化けよりアレが出てこないかが心配だもんね」

「マスターっ……!」

「お、あれは……」


 壁の隅で、触角をつけた黒い昆虫が「カサカサ……」という音をたてながら、蠢いていた。


「あ、あっ……ああぁ……」


 月明りに照らされたアリスの顔が青ざめていく。


「い、イッ――!!」

「静かにっ! ここで、叫ぶと見つかるって!」

「んぐんぐ……!!」


 叫ぶ前にアリスの口を手で塞いでやる。間に合ってよかった。こんなことで叫ばれたら作戦どころじゃない。


「もう、仕方ないわねぇ……」


 ゲイリーさんが黒いものを掴み、明後日の方向へ投げる。が、今度は別の壁から毛むくじゃらの生物が「チュー」という鳴き声と共に飛び出してきた。


「え、あっ……いえぇあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!」


 ゲイリーさんの野太い咆哮が響き渡る。と、次の瞬間には、館全体が騒がしくなる。潜入がバレてしまったようだ。


「ヤバいっ!」


 俺は二人の腕を引いて、廊下を駆けだした。

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