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立食パーティー

 そうして、泣きつくクリスをなだめると、予定されていた立食パーティーの会場へと足を運んだ。




 並べられたテーブルには、一流コックが手を振るった豪華絢爛な食べ物が並んでいる。その横で貴族たちがワイングラスを片手に談笑している。


「こんばんわ。ロイ王子」

「ええ、こんばんは」


 美しいプリンセスたちが俺の周りに集まってくる。どの女性も美しく着飾っていて眩しい。が、美しい分だけ彼女たちの中にあるであろう下心に嫌悪を感じずにはいられなかった。


 俺は彼女たちと適トークをすると、トイレという名目でそそくさとベランダに出た。プリンセスが次々とやってくるので、ゆっくりと料理も食べられない。



「オネイロスパーティーね……」


 オネイロスパーティー。三日間に及ぶ婚活パーティーで、この立食パーティーもその中の一つである。

各国の若い独身貴族たちが集まり気に入った相手を見つける場であり、また政略結婚のためのアピールの場でもある。

 アルス・レヴァンティリア王国は栄えている分、他の国と政略結婚をする必要がない。が、子孫は残さないとやっていけない。故に、今回俺が招集された目的は、自分の気に入った姫を見つけることなのである。


「はぁ……」


 だが、俺のモチベーションは下がっていた。本来の目的であったあの女がいないからである。あの女も貴族だったはずだ。が、会場内をいくら探してもその姿は見当たらない。


「一体、あいつは何やってるんだか……」


 確かに立食パーティーなんてダルいのは分かる。だからといって、パーティーに参加しないのは、いろいろとまずいのではないだろうか。レジスタンスとか言っているが、自らの家は大丈夫なのだろうか。


「それとも、身の振り方を決めてしまっているとか……?」


 だから、この場にくる必要がないと。だとしたら、あの女に復讐する難易度がグッと跳ね上がる。後で相手がいるかをそれとなく聞き出そう。


「はぁ……でもこの後、クラウディア邸に行かなきゃいけないんだよな……」


 この後のレジスタンスでの活動を考えると胃が痛かった。

 会場には幸いクラウディア家の人間は見当たらない。すでに相手を見つけているからだろうか。それとも、幼い女の子を――いや、考えるのはよそう。紳士ならノータッチのはずだ。

 それにしても、なんで俺がクラウディア邸に夜襲をかけねばならないんだ。仮に悪い人間だったとしても、王子として貴族の家に夜襲をかけるなんて、気持ちのいいものではないなぁ……寝坊しましたって言ってサボりたい。


「月が綺麗ですわね。ロイ様……」

「ん? ああ……ごめんなさい。今まで修行で王国にいなくて、貴族の方のお名前に疎くて……」

ブロンドの髪を綺麗に結った少女が俺に声をかけてくる。年は少し下だろうか。


「いえ、申し遅れました。私はソフィー・アルマ・レディアントと申します」

「僕はロイ・アルス・レヴァンティリアです。よろしくお願い致します……」

「ご丁寧にありがとうございます。ロイ様。私のことはソフィーとお呼びくださいませ」


 お互いを終えると、ベランダの囲いに手を置いて夜空を眺める。


「……お疲れのようですね」

「ああ……今日この国に帰ってきたばかりでいろいろとあって……」

「それは大変でしたね。お疲れなのにパーティーにも参加されて……」

「いえ、人と話すのは好きですから」

「そうなんですね。そういえば、ロイ様はこの王国から出られて修行されていたとか……」

「ええ、よくご存じで」

「ロイ様のことはよく噂が耳に入ってきますので」

「なるほど……」


 会場から漏れる明かりに照らされる彼女の姿。派手すぎない装飾のドレス。綺麗に束ねられた金髪は夜風に揺れている。

 会場で見た他の女性に劣らないほどの美しさだ。こんな夜闇の中じゃなく、パーティー会場で彼女を見たならば、きっとさらに美しく見えるのだろうな。そして、もちろん彼女にも下心があるのだろう。


「やっぱり……ですよね……」

「え? 今何か……?」

「いえ、なんでも! あ、そうそうこれをどうぞ」

「これは?」

「我が国に伝わる滋養強壮のお薬でございます。よかったら」

「ありがとうございます。ありがたいです」

「お食事もあまりとられていなかったですよね。何かお持ちしましょうか?」

「大丈夫です。あまり気を使わないでください」

「分かりました。何か欲しいものがなければまた行ってくださいね」

「ありがとうございます」


 とても気が利くいい子だ。性格もいい。でも、この子の行動全てに下心がちらつく。どんな淑女でも王子の前では男女の関係以上に政略的なところを意識せざる負えない。故に、俺の視点からはその純情さや純真さは張りぼてのように見えてしまう。仮にそうでなかったとしても。


 もしも、この会場にあの女がいて俺に近づいてきたとしたら、俺はあの女にも下心を感じてしまったのだろうか。そういう意味では王子としてではなく、一般人として再会できたのは幸運だったのかもしれないな。


「ところで、ロイ様はイラストをまだ描いているのですか?」

「ええ、イラストを描いていることも知ってるんですね」

「あ、え、ええ……風の噂で。ロイ様のことはよく耳に。とても美しい作品を描かれるとか」

「いや、それほどのものでは。ただの落書きです……そんなことより、ソフィーさんはこのパーティでお相手は見つかりましたか?」

「いいえ。私は母に言われてこのパーティーに参加しているだけなので、お相手とかは……」

「そうなんですね。意外です」


 ここにいる人は皆、相手探しに躍起になっているものだと思っていたがそうでもないのか。俺は彼女の行動に下心があるものだと思い込んでいた。体の力が抜ける。


「そろそろ、冷えてきましたね。ロイ様もお疲れのようですし、今日はもう自室に戻られたほうがいいかもしれませんね」

「ええ。でも、最終日のダンスパーティーでご一緒するお相手を見つけないといけないのです。このパーティーに参加するためだけにこの国に呼び戻されたので、僕自身も体裁だけは整えておかないと」

「そうなんですね……でしたら、もしもロイ様がお相手を見つけられなかったとした場合は、このソフィーをご指名くださいませ。私でよければゆるりとお相手をさせていただきますわ」

「そうですね。その時はよろしくお願いします。それでは、もうひと頑張りしてまいります」

「ええ、良いパーティーを」


 あんまり面倒くさそうじゃないいい子だったな。このパーティーにあの女はいないから消化試合になってしまったが、クリスや親父に何か言われないように、一応をあの子を指名して、今後の予定を乗り切ろう。


 俺はクリスに今後の相手を告げると、この後の準備があるので早々に会場から立ち去った。

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