取引
「俺は君たちの目的は分からない。でも、俺の力に利用価値があるなら君たちに協力させてほしい。その代りに、定期的に血を吸わせてほしいんだ」
「血を吸わせてほしい?」
血を吸わせてほしいというのは建前。こんなところで死ぬわけにはいかない。
「ああ。この吸血衝動って魔族みたいだろ。だから、誰にも打ち明けられないから困っていたんだ。路地裏で人を気絶させて、血を分けてもらうなんて本当はしたくない。だから、血を恵んでほしい。その代わりに君たちにできる限り協力するよ」
「そんな話が信じられると思うの? そもそも、あんたそんな取引できる立場じゃないってわかってる?」
「じゃあ、俺は殺されるしかないじゃないか。でもそれだと、俺の力は使えない。そのせいで君たちの計画も失敗するかもしれない。どちらも得をしない。コリンズが臆病なばっかりに」
「私が臆病ですって!?」
「ああ、そうさ。リスクを取ろうとしないから結局何もできないんだ。リスクを取らないことが一番のリスクだと知らないから。そんな奴が何かをなすことができるのか?」
「……」
よし、いいぞ。主導権はこっちにある。
「だからこそ、今、何かを成すためのリスクを取ってほしい。俺は君たちに協力したい。で、その代わりに血を少しだけ分けてほしいだけなのさ……」
「……確かに、お金のかからない傭兵だと思えば……」
「アリスお嬢様……うるうる……」
「名前で呼ばないで」
「じゃあ、コリンズお嬢様……」
目をチワワのようにうるるとさせてアリスを見つめるも、アリスはまるでゴミを見るような冷たい視線を俺に返してくる。
「私はいいと思いますけど……」
エスタからの援護射撃。いいぞ。エスタちゃん!
「本気なの? エスタ。こんな素性もよく分からない胡散臭い男を信用するの? こいつが秘密をばらさない確証なんてどこにもないし、ばらされたらこっちは破滅するのよ」
「なら、毒とか」
「毒……?」
何やら雲行きが怪しいぞ。そんなおっとりとした顔から変な言葉が――。
「遅効性の毒を盛って、解毒剤を取りに来させるようにすれば……」
「なるほど。縄で縛って動けなくした後、解毒剤を飲ませて、時間を置いて毒を盛ると。それなら、裏切っても毒で死ぬから裏切れないと。でも、血を飲めばこいつは毒すらも回復できるかもしれないわ」
「たぶん、血を飲んでその中に含まれている魔力で傷を治したのでしょう。であるならば、魔導の使用を感知してしたら発生する特別な猛毒も仕込んでおけば大丈夫かと」
「なるほど。それなら、敵にもならないから危険じゃないってわけね。ばらされた場合は、魔導も使えない。血も吸えない。ただ衝動に苦しみながら死を待つだけの人形……いいわね……」
何がいいのでしょうか。すごい嬉しそうな笑みを浮かべています。
「じゃあ、あんたに選ばせてあげるわ。毒を飲み私たちに協力するか。ここで血液を抜かれてミイラになるか」
そんなサディスティックな笑みを浮かべながら、ナイフで首をなでるのは止めてほしい。選択肢なんてあってないようなものなんだから、必要以上に脅さなくてもいいのに。
「……分かった。ミイラなんかになりたくないからな」
こうして、俺はアリスと契約をした。奴隷契約のような理不尽な話ではあるが、アリスとの関係を獲得できたという意味では悪くはない。あの時、調子に乗って魔導を使い過ぎずに衝動を抑えられていればと悔やまずにはいられない。が、俺は俺自身の計画を遂行するまでだ。
俺は2種類のクソ不味い毒薬を飲み、ロープを解かれると、倉庫から連れ出された。やっぱり、外の空気はおいしいなー。
「ところで、俺は何に協力すればいいの? 何か盗んだりするのか?」
「そこら辺の賊と一緒にしないでちょうだい。私たちはレジスタンスよ」
「レジスタンス?」
「そう。この国をいい方向に変えるために活動をしているの。今は妃を探すために帰ってきてるっていう王子を殺害するために動いているの」
「えっ、殺害……王子を……?」
「何か?」
「えっと、いや……」
王子って、俺のことだよな。で、殺害ってことは……俺殺されちゃうの? 自分を殺すための計画に協力しなくいけないの?
「とりあえず、詳しいことはアジトに着いてから説明するわ」
「ああ……」
逃げても死ぬ。協力しても死ぬ。一体俺はどうしたらいいんだろうか……。