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追跡

 追いかけていくと、彼女は物陰に隠れて海の方を伺っていた。


「こんなところで何してるんだ?」


 彼女の視線の先には大きな船があり、筋肉隆々な男たちが荷物を下ろしているところだった。

 彼女は遮蔽物で身を潜めつつ男たちに近づいていく。

 まさか、筋肉を見たいから、そんな風に隠れて――。


 と、黒い髪を翻したかと思うと、少女は作業している男の一人に向かって勢いよく飛びだし、男の後頭部を思い切りナイフの柄で殴打した。


「ふんっ……」

「うっ……!」


 男のうめき声で異変に気がついた他の男たちは彼女を捕まえようとする。が、体格差があるにもかかわらず、彼女は猫のように素早い動きで男たちを翻弄し、なぎ倒していく。


「賊が出たぞぉ! 捕まえろぉ!」

「クッ……」


 騒ぎを聞きつけた男たちがぞくぞくと集まり、少女はあっという間に筋肉にとり囲まれてしまった。黒髪の少女ににじり寄る男たち。


「フレイム!」


 と、そんな男たちが集まっているところに、突如火球が撃ち込まれた。

 撃ち込まれた軌道に視線を移すと、栗色の髪をした女の子がいた。どうやら、彼女の仲間のようである。

 男たちが突如として現れたもう一人に動揺している隙に、黒髪の少女は次々と男たちを昏倒させていく。


「やっぱり、ただのそっくりさんか……」


 俺が知っているあの女はあんな動きなんてできないし、泥棒みたいなことをする必要もない。

 だけれど、この国の王子として彼女たちの行動を見逃すわけにはいかない。


「でも、なんであんな船を……」


 金銭目的ならもっと簡単で稼げそうな船や店がたくさんあるはずだ。なぜわざわざあんなボロい船を選んだのだろうか。金銭目的じゃないのか。



 港の男たちをあらかた倒し、筋肉の山を作った二人は船へ乗り込んでいった。俺もその後に続く。



 船の上でも彼女たちは自分たちより一回りも二回りも大きなマッスルガイを手際よく倒していく。随分と手慣れているようだ。

 が、ここまでで一人として殺害してはいないのが引っかかる。どうやら彼女たちはただの賊ではないようだ。


「だとしても、二人を止めないと。そろそろ――」


「おい! うるせぇぞ!」


 怒鳴り声と共に、二人に向かって鞭のようなものが振り下ろされた。ギリギリでその軌道から外れる二人。甲板を穿ったのは、巨大な鎖だった。


「船酔いでスヤスヤとおねんねしてたのによぉ……クソ、こんな子ネズミ2匹もまともに捕まえられないのか、ここのバカどもは……」


 気だるそうに甲版に上がって来る金髪の男。他の男たちとは雰囲気がまるで違う。この船のオーナーか用心棒といったところだろうか。

 金髪の手には大きな輪が連なる長大な鎖が握られていた。


「あんたがここのボスってわけ?」

「ボス? 知らねぇよ。それにここはガキが職業体験でくる場所じゃねぇぞ。失せろ」

「へぇ、子供を売り物にしてるくせに?」

「どうやらトマトみたいにぶっ潰されたいみたいだなぁっ!」


 金髪の男は両手にある合計2本の鎖を少女たちに向かって、振りかぶった。


「へへ、まずは1匹っ!」


 黒髪の少女は避けようとするが、その動きを予測したように、もう一方の鎖が彼女を捉えた。

 少女は鎖をナイフで受けようとするも、ナイフを支点に鎖が曲がり、彼女の背に直撃する。


「っ!」

「アリス様ぁ!」


 栗色の髪をした少女は呪文を唱え、火球を金髪に向けて放つ。


「甘い! 2匹目っ!」


 男は一方の鎖で火球を搔き消すと、もう一方の鎖を横に薙ぎ、栗色の体を船の縁に叩きつけた。


「どうするかな……」


 これって、俺はどっちの味方すればいいんだろうか? 賊である少女たちか? あるいは金髪のやばそうな用心棒?

 なかなか状況がうまく飲み込めない。


「このっ……!」


 黒髪は立ち上がり、側にあった樽を持ち上げ金髪に向かって投げる。金髪はそれを跳躍してかわすと、鎖を直線状に投げ彼女の腹部に直撃させた


「んぷっ!」

「おいおい、こんなやつらにあいつらはやれてたのかよ……筋肉は飾りかよ」


 金髪は倒れる少女の黒髪をひっ掴み、顔を上げさせた。


「へへへ、嬢ちゃん、よく見たら上玉じゃないの。持ち帰れば良い値がつきそうじゃん。あっちの嬢ちゃんもいい感じだ……あんまり傷をつけないようにしないとな……」

「クッ……」


「持ち帰るだと……」


 俺は懐からスケッチブックを取り出し、唯一使える魔導を発動させた。血液が沸騰する。

 仮に俺の復讐相手と顔が似ているだけだとしても、それを他の奴に取られるのは気にくわない。

 スケッチブックの中にある一枚の紙が鳥の形に変化し、金髪に突進した。


「んっ! 危ねぇ……なんだこれは!」

「へい、そこの金髪イキリ野郎。女の子をいじめるのはそこらへんにしておきな」

「誰だテメェ!」

「俺は通りすがりのイケメンだ」

「んだと? 邪魔するな。このナルシスト野郎!」


 金髪は鎖を俺に向けてくる。俺はそれを避ける。と、鎖が床を砕いた。


「おいおい、船ごと沈めるつもりかよ」

「お前も一緒に沈めてやるよ。水も滴る良い男になれるぜっ!」


 横薙ぎに鎖が振るわれる。それを避けるも予測したように、もう一方の鎖が叩き込まれる。が、床を蹴り、鎖の軌道から逃れた。


 金髪イキリ野郎め。調子に乗りやがって。ならば、俺の本気をみせてやろう。



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