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「大丈夫ですよ。パーティー会場に兵を配備していますから。レジスタンスをこの作戦で一掃しますから」

「そ、そうか……」


 とりあえず、作戦がバレていることと、今日のパーティーが中止になったことをあいつらに伝えに行かないと……


「ちょっと、どこに行くつもりですか?」

「どこって……少し外を見たくてね……」

「危ないですよ。っていうか、毎回窓から逃げ出していたんですね」

「いや、違うって……外を……」


 と、パーティー会場から兵隊が出ていく姿が見えた。その中には見知った少女の姿もあった。


「ミウちゃん……なんで……」

「どうかなさいましたか?」

「いや、何でもない……」


 目を凝らしてみるも間違いない。コーネリアスに捕まっていた幼女、ミウちゃんだ。兵隊を後ろから指揮している。まさか、彼女がスパイでレジスタンスの情報も……そして、兵隊が動いているということは……。

 窓が強く軋む。強風が吹いたのだろう。俺は窓から離れ、ベットに戻った。


 このままじゃまずい。罠にはめられたんだ。暗殺どころか逆に返り討ちにあってしまうだろう。最悪捕らえられて処刑だ。そうなれば、俺の復讐さえ完遂できなくなる。


「なぁ、クリス。ずっとそこにいるのか?」

「もちろんです! ロイ様が安眠できるように」

「いや、そこにいると寝られないんだが……」

「そんなこと言って、今日もどこかに行くつもりなんですよね。今日は逃がしませんからね」

「そんなことないって……」


 強行突破するべきか? いや、さすがに怪しまれるか。それに付き人といえど王国の精鋭の一人で、王子の付き人でもある。強行突破するにしても少々骨が折れるか。ならば、前みたいにゲイリーさんっぽく迫れば……


 と、ノックの音。クリスが外に出ていく。この隙に外に出れば……

 俺はベットから起き上がり、寝巻を脱ぎ始める。


 幸い寝巻の下にお忍び用の服を着こんであるので寝巻さえ脱げば、すぐに行ける。チャンスは今しかない。


 と、ドアが開く音がした。俺は慌てて上の寝巻を着直し、ベットに潜り込む。


「ロイ様……」


 が、その声はクリスではなかった。金髪の綺麗な髪が揺れる。ソフィーだった。


「ソフィー……なぜここに?」

「今日のダンスパーティが中止になったので……寂しくなってお話したくなったのですわ。少しだけお相手してくださらない?」

「ああ、でも、今日は少し体調が悪くて……」

「はい。なので、強壮薬を持って参りました。お見舞いということでほんの少しだけお時間をいただけると嬉しいのですが……」


 俺は彼女の笑顔に断り切れず、ソフィーから強壮薬を受け取ることにした。




「なにこれ……パーティーがあるって、確かにロリコン豚野郎が言ったのよね?」

「そうよ。ミウちゃんもそうだっていうから、てっきりそうだと思っていたけど、もしかしたら、コー君自体も偽の情報を掴まされていたとか……?」


 目の前の兵士を蹴りつけるも、重厚な鎧に包まれた灰色の兵隊は次から次へと湧き出てくる。まるで、あの気色悪い虫みたいに。

 別動隊で騒ぎを起こしたはずなのに、突入しようとした矢先に兵隊に囲まれてしまうなんて異常だわ。こんなに対応が早いなんてありえない。

 もしかして、コーネリアスの罠だったのか。それともアイツが――


「このままだと別動隊が引き寄せた分の兵隊も集まってきてしまいます。アリス様」

「そうね……強行突破するしかないわ! エスタ、マスター!」

「もう、仕方ないわねぇ」


 私はナイフを強く握り、目の前の兵士にナイフを突き立てる。首筋から血液が噴出する。それを合図にマスターとエスタがその向こう側にいる兵を倒し、鋼の活路を切り開いた。


「さ、今のうちに行きましょう。アリスちゃん」

「ええ!」

「おっと! ここから先は通さないぜ!」


 頭上から濁った鋼鉄の塊が降ってくる。それを避けるも、後ろにいた同志が巻き込まれ断末魔の叫びがその場に響き渡る。


「アンタは……」

「忘れたなんて言わせねぇぜ、お嬢ちゃん」


 あの鎖男だ。確かレオという名前だったか。お金のためなら何でもやる汚い傭兵がこんなところにまで出張ってくるなんて王国も落ちたものね。


「アリスちゃん、先に行きなさい」

「マスター……でもっ……!」

「大丈夫よ。こんなやつの相手なんて。それにアリスちゃんが目的を達成するまでの時間を稼ぐだけならここの全員を相手にしてもそんなに難しくはないわ」

「だけど……」

「エスタちゃん!」

「フレイム!」」

「さ、行っくわよっっっ!!!!」

「ちょっ。ちょっと……!」


 エスタが火球を放ち、レオをけん制する。その瞬間、マスターが私の身体を担ぎ上げ、そのまま砲弾のように私を放り投げた。


「んなっ……行かせるかよ!」

「あなたの相手はわ・た・し! うふっ!」


 レオが宙ぶらりんな私を叩き落そうとするも、マスターの筋肉にレオは対応せざる負えなくなったため何とか危機を逃れた。おかげで、無事に敵兵がいない場所へ降り立つことに成功。


「マスター……!」


 ウィンクしてくるマスター。あの表情は大丈夫な顔だ。

 私はマスターにうなずいて返すと、王子がいるホールに向かった。男たちの雄たけびと叫び声が渦巻く世界を背に、かつて足を運んだ世界へと再び足を向けた。


「クソ……あんなゆとり王子なんかに……」


 遠い昔の豚とも見分けがつかないデブ王子が脳裏に浮かぶ。

 一分一秒でも早くアイツの元にたどり着いて喉笛を掻き切ってやるんだ。マスターやエスタ、同志たちの負担を軽くするために。同志たちの死を無駄にしないために。こんな地獄と早くおさらばするために。私がこの手で。


「こんなことぐらいで……」


 どんなに苦しくても辛くても絶対にこの復讐は成功させてやるんだから。どんな犠牲を払ってでも。だから待ってなさい。ダメ王子。私が直々にこの手で殺しに行ってやるんだから。


 そして、見回りの兵を突破し数千ものレンガを蹴った先に、この王国で最も怠惰を極めた場所に辿り着いた。私はその扉を蹴破る。


「……どういうこと……?」


 扉の向こう側には誰も居なかった。それどころか、華々しいシャンデリアの明かりすらついておらず、時折ガラス越しに瞬く雷が視界を真っ白に染めるのみで人の気配がまるでない。やっぱり、罠だったのか……一旦出直すべきか、このまま城にまで潜入するか……


「やっと来ましたね」

「誰!?」


 ナイフを構え、周囲を警戒する。暗闇での戦闘は慣れているが、気配を完全に消しているところから相手も相当の手練れだと考えられる。一瞬でも気を抜いたら、次の瞬間には物言わぬ骸になっているかも。

 死の予感を背筋に感じながらも少しずつホールの中央へと進んでいく。


「そんな警戒しなくてもいいのにー」

「あなた誰? 姿を現しなさい」

「ここですよー」


 と、風切り音が背後で聞こえた。脊髄反射で跳ぶ。が、刃物で腕を浅く切られた。


「あー、ざーんねーん」

「この声……どこかで……」

「まだ気づかないなんて鈍い人なんですねー」

「そこっ!」


 私は声の方向にナイフを投げる。と、何かに刺さる音がした。地面か?


「ああ、惜しい! 危うく死ぬところだったよ」


 雷が瞬いた。その姿が露わになる。1人じゃない。


「……ミウちゃん……?」

「一緒に遊びましょう。アリスお姉ちゃん」


 不敵な笑みを浮かべたミウちゃんがいた。その横にはナイフが頭に刺さったクマのぬいぐるみ。まさかミウちゃんがスパイだったのか――?


と、ぬいぐるみはナイフを引き抜き地面に捨てると、私めがけて突進してきた。

 私はそのぬいぐるみの突進を避け、そのぬいぐるみの勢いを利用してその腹を真横に掻っ捌いた。布がナイフで破れていく感覚。確実な手ごたえだ。

 が、切り裂くと同時に、そこからおぞましい姿をしたアレが溢れ出てきた。

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