復讐の始まり
「あら、大きな泣き声。元気な男の子ですわ。姫様」
「ええ、本当に」
異世界に生まれ落ちた俺はロイ・アルス・レヴァンティリアという名で新しい人生をスタートさせた。王様の子供、王子という最高の地位でのニューゲームである。
血統、地位、名声、カッコいい名前、約束された栄光……もはや、役満である。
が、俺はイケメンにはなれなかった。王子という地位に甘えてしまったためである。
すくすくと健やかに育ったのはお腹の贅肉だけであった。
「あら、お坊ちゃま。また、少し大きくなられたのでは……また服を特注で用意しないといけませんね」
お世話係にはそう言われ、貴族の子供には「おい、豚!」と呼ばれ、挙句の果てには、貴族の女の子にも「ぶっさ」といわれる始末。
「俺をイケメンに転生させてくれるんじゃなかったのかよー!」
そんな風に女神を呪うも、日を増すごとに俺のわがままボディはどんどんわがままになっていくばかり。
だが、バカにされたストレスを食にぶつけ、さらにバカにされるというデススパイラルから俺は逃れられなかった。抗いようもない快楽が俺を襲い続けた。
が、ある日を境に俺は変わった。変わらずにはいられなくなった。
あの女の一言がきっかけだった。
◆ ◆ ◆
「さて、そろそろか……」
清々しい緑の中を抜けていく。風が気持ちいい。
辺鄙な田舎から馬を走らせ1週間。俺はとある勅命を受け、王都に招集された。
「いよいよか……」
久しぶりに踏みしめるホームグラウンド。何年も前にこの地を離れていたため、むしろ、環境的にはアウェイだけれど。
環境がどうあろうとも、今回のミッションは絶対に成功させなければならない。あの女に復讐する絶好のチャンスだからだ。そのために、まずこの町にいるありとあらゆる美女で修行の成果を試さないとな。
「それにそろそろ我慢できない……」
そんなことを考えながら、検問をくぐり中に入る。すると、一人の可愛らしい風貌の騎士が俺の顔を見るや否や駆け寄ってきた。
「お待ちしておりました。ロイ様。付き人としてこれから同行させていただく、クリストファーと申します。クリスとお呼びください」
「ああ、ご丁寧なお出迎えをありがとう。こちらはロイ・アルス・レヴァンティリアだ。よろしく」
「はい!」
町の中をクリスに案内されながら王宮に向かう。やっぱり、活気がある分、田舎より王都はいいなぁ。
ほら、そこにもあそこにも可愛い女の子がいて、しかも、こっちを見てくれている。
あ、今ウィンクしてくれた。
どうやら、修行の成果はあったようだ。
「ロイ様。今後の予定は把握されていますか?」
「確かお見合いパーティーがあったはず」
「はい。近隣の国から様々な皇族の方をお迎えして、3日間のパーティーが行われます。本日は夕刻から、簡単な立食パーティーがございます」
「よし、立食パーティーか……」
「どうされました?」
俺は基本的に皇族の集まりが大嫌いだ。しかし、今回だけは特別。
そのパーティーにあの女がいるはずだからだ。
「ロイ様? ロイ様?」
「え、ああ、いや、ところで立食パーティーの前って、他に予定ってあるのかな?」
「いえ。ただ、王様にはご挨拶をしないと」
「そうだね。挨拶はしておこう」
それにしても、このクリスという可愛らしい騎士はイマイチ俺への反応が薄い。まだまだイケメン力が足りないってことなんだろうか。
「ところで、クリスは女性なのになんで騎士になろうと思ったの?」
「僕は男です」
「え?」
「僕は男ですから」
「うっそーん!」
男? こんなに目がウルルとして、背も小っちゃくて、声も少し高くて、なにより甲冑よりドレスが似合いそうな可愛らしい子が……男?
本当に男の娘っているんだなぁ……。
どうりで俺への反応がそこいらの女の子と違うわけだ。
そうして、王宮に入り、王との挨拶を交わす。相変わらず顔色の読めないジジイだが、復讐のチャンスを作ってくれたことには感謝している。
簡単に挨拶を済ませると、俺はクリスに見つかる前に王宮を抜け出した。
「クリス、ごめんね」
きっと、心配して探し回ってくれているだろうな。でも、今の俺には時間がない。短い時間で勝負を決するために戦場の把握と、修行の成果とどう動くかなどのシミュレーションなどやることがたくさんあるんだ。それに呪いの限界が近い。
「さて、どこら辺に行こうか……」
町並みは以前見た時より少し雰囲気が変わっているようだ。まぁ、10年以上も時が経てばどこかしら変化するものか。想定していたプランのいくつかは練りなおさなくてはならないかもな。
俺は王宮を離れ、海沿いの城下町に出た。
うん。ド田舎と違って女の子がたくさんいるなー。生きのいいピチピチギャルがウヨウヨいる。
「ヤダ、あの人、すごいイケメン。私ああいうのタイプ~」
「私も~」
「雰囲気があるっていうか~」
「カッコいいよね~」
ふふん。これがイケメン。イケメンとは正義。歩いているだけで女の子からの好感度を爆上げする存在。ああ、修行してよかった。
「さて、あまりえり好みはしてられないぞ……」
そんな優越感に浸りながら、町娘を物色していく。
と、ある少女の姿を捉えた。
「あの顔は……」
忘れるわけがない。あの顔だ。
「まさか……」
俺は彼女の後を追いかけていた。