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革命の始まり

 雷の音で目が覚めた。室内の明るさからお昼頃だろうか。

 今日はダンスパーティーをお休みしたので、クリスに叩き起こされることなく夜までゆっくりと過ごせる。こんな風にゆったりとした時間を過ごせるのは久しぶりだ。でも、筋トレはちゃんとしないと。


「具合はどうですか? ロイ様」

「ああ、いい感じだよ」


 クリスが給仕と共に部屋に入ってくる。昼食を持ってきてくれたみたいだ。香ばしい香りが鼻孔をくすぐり、腹の虫をうずかせる。


「そうなんですね! じゃあ、今日のパーティはどういたしますか?」

「うーん……大事を取って休むよ。ソフィーにも迷惑をかけたらいけないし」

「そうですよね……分かりました。もう代役は手配しておきましたから、今日はゆっくりしていてくださいね」

「ああ、ありがとう」


 ごめんよ、クリス。こんな嘘つきな王子で。今度何かおいしいものを食べに行こうな。

 いつものようにクリスに内心で謝りつつ、窓の外に目をやった。

 雨は一向に止む気配がない。俺の絵を現実に顕現させる魔導は水に弱い。描かれた素材が強度に影響するためだ。

 素材である紙が濡れてしまうと、紙がシワシワになって使い物にならなくなってしまう。だから、昼で雨が止んでくれれば大助かりなんだけど、この分だと夜にはもっと雨脚は強くなっているはず。

 まぁ、濡れても大丈夫な素材を使えばいいのだが、持ち運びに難が出てくるので、どうしたものか……。


そうして考えた末、俺はクリスに板切れを何十枚か用意してもらい、そこに絵を描くことにした。雨に濡れないようにすれば、紙も使えるので一応スケッチブックも何十枚か絵をこしらえておく。




そうして、何時間も絵を描き続けているうちに、暗闇を溶かした雨が窓を叩き始めていた。そろそろ、ここを出ないと約束の時間に間に合わなくなる。が――


「なぁ、クリス。なんで俺の部屋にいるんだ?」

「だって、ロイ様はいつも夜に消えますよね。それなら、夜はずっと監視していようと。今日は天気が荒れていますし、ご病気なんですからね」

「そ、そうだな……なぁ、ところで今日のダンスパーティーはどうなってるんだ?」

「ああ、今日のパーティーは中止ですよ」

「パーティーが中止だと……なぜだ?」

「今日は天気がこんな感じですし、国家転覆を企むレジスタンスの動きがあるみたいなので」

「レジスタンス……」


 バレている。なぜバレたのだろうか。俺がヘマをやらかしたとか? いや、それならクリスが俺に追及してくるはずだ。ならばなぜ……

 閃光で一瞬室内が真っ白に染まる。雷だ。外は本格的な嵐の様相を呈してきている。この分だとまずいな。俺は窓の外を見ながら、アリス達が作戦を中止してくれていることを祈った。




「遅い……あいつは何やってるんだか……」


 足を小刻みに揺らしながら、私はアイツが来るのを待っていた。


 すでに酒場には30人程度の同志が待機していた。あとはアイツが到着するだけである。こんな日に遅刻するなんてありえないわ。昨日の返事は嘘だったのかしら。


「アリスちゃーん。今日はこの天気だから、もしかしたらパーティーも中止になってるかもよん?」

「そんなことないわ。室内でぬくぬくしている奴らにはとって天気なんて関係ないわよ。それにせっかく手に入れたチャンスだもの。このチャンスを無駄にしたくないわ」

「もう頑固ね。アリスちゃんったら。だから、戦い方も変な癖がついちゃうのよ。何回教え直しても癖を再発させちゃうんだから……」

「ううっ……今はいいじゃない! そんなこと! とにかく、王子を今日殺害するの! 革命の狼煙を上げるのよ。天気も悪天候だから兵隊の動きも鈍るはず。これ以上ない暗殺日和よ」

「もう……本当に頑固なんだから……」


 そうして、数十分アイツを待つも来る気配はない。


「まさか、裏切ったとか……?」


 いや、毒があるからそれはないはず。それにあの返事もあるし……。

 じゃあ、なんで来ないの? エスタが毒の量を間違えて投与しすぎて道で死んでるとか? それとも、天気が悪いから中止だと思ってるのか。それともビビッて逃げ出しちゃったとか? 昼から女の子と遊んでいるようないい加減なやつとは思っていたけれど、約束を反故にするなんて絶対に許せないわ。


 思わず、机を殴りつける。エスタが音に驚き、飛び跳ねる。


 いずれにせよ、せっかく集まってくれた同志をこれ以上待たせるわけにはいかない。作戦にも時間がかかる。なら、もう待っていられない。そもそも、あいつがいなくても私たちは王国をひっくり返すつもりだったんだから。アイツなんかいらないのよ。


「マスター、エスタ、行くわよ!」

「はい……」

「はいはい、やるのね。もう、メイク落ちちゃうから嫌なんだけどな……」


 同志たちにも声をかけ、私たちは暖かいアジトを出た。外は雨が激しい音をと共に地面を叩いていた。


 こんな嵐の夜に死んでしまう哀れな王子のことを夢想する。


 あの王子は今でもぽっちゃりとした体型なんでしょうね。幼い頃に少しだけ一緒に過ごしたけれど、どんくさくて、デブですぐ汗かいて臭いし、ブッサイクだし……王子っていう肩書と子供じゃなかったら、たぶん一緒にいなかったわ。今なら一秒でも視界に入れたくないもの。


 だから、王子の今の顔とか姿は全く分からないけど、デブを見つけたらたぶんそいつが王子。人って簡単には変われないものだから。今回の作戦はデブを見つけて殺す。それだけ。


「楽しいダンスパーティーにしましょう。ロイ・アルス・レヴァンティリア……」


 私たちを試すような風を切り裂きながら私たちは王宮に向かった。

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