もたらされた情報
そうして、夜。クリスの監視をかいくぐり、レジスタンスのアジトに向かった。チンピラに襲われて、護衛の大事さは分かったつもりではあったが、レジスタンスに行くのに護衛は連れていけない。ごめんねクリス。いつものことだけど。
「ちゃんと来たわね。じゃあ、次の作戦について説明するわ」
「それよりも先に、薬を……」
「ああ……エスタ!」
「……ん! はい。何でしょう……ご飯ならまだ……」
「ご飯ならさっき食べたでしょう。そんなことより、こいつに薬と毒を」
「ああ、はい……」
そうして、縛られ、不味い薬と毒を飲まされた。エスタちゃんに味を何とかできないかと伝えるも「無理」と言われてしまった。
毎回こんなまずいものを飲まされるのは、毒を飲まされるのと別の意味で嫌だなぁ。
「あら、ラルフ君。そんなに縛られるのが好きなら私が……」
「いえ、遠慮しておきます……」
ゲイリーさんにやられたらボンレスハムどころか骨まで縄が食い込みそうだ。
というか、縛られているのをいいことに、背中を触るのを止めていただきたい。お触り禁止!
「終わったわね。じゃあ、昨日のロリコン豚貴族からね」
「ロリコン豚貴族って……」
「ロリコンはロリコンでしょ。それとも、あんたも……」
「いや、違うって! そんなことより、情報を……」
「もうラルフ君ったらせっかちねー。ラルフ君がそんなにおねだりするなら仕方がないわ。簡単に言ってしまえば、明日の夜に王宮でダンスパーティーがあるそうよ。そこで王子様も来るってこと」
「ダンスパーティー……」
オネイロスパーティーの最後を飾るイベントであるダンスパーティー。この話が出てくるということは――
「私たちはこのダンスパーティーに乗り込み、王子の首を取りに行くわ」
「それは……そうなるよな……」
王子の殺害を第一目標にしてたもんなぁ……。
「何よ? 何か文句があるの?」
「いや、そう言うわけじゃなくて……もしかしたら王子は国を救おうとしている良い人かもしれない……よ?」
「そんなわけないじゃない。こんな腐った王国の王子ですもの。善人なわけないわ。一人でもそういう人間は消していかないと……」
過激派だ。そんなことしなくても、ちゃんと良い国に俺はするつもりなんだけどな。そう直接言えればいいのだけれど……。
「で、作戦は明日の夜。ダンスパーティーで楽しんでいる最中に別動隊で陽動を起こす。で、その間に私たちは王子の暗殺をする。アンタでも分かりやすいシンプルな作戦よ」
「うーん……」
「何よ? 何か文句でもある? それとも、理解できなかったかしら?」
「いや、そういうわけじゃなくて……その情報は本当に正しいのか? もしかしたら、コーネリアスがあえて間違った情報を流している可能性も……」
本当にこんな作戦が実行されたらたまったもんじゃない。なんとしても阻止しないと。
「ええ、この子もそういってくれたのよね」
「はい……オジサンがそう言ってました。ママがいるからオネイロスパーティーなんかにはいかないって」
コーネリアスに捕まっていた幼女、ミウちゃんがそう証言する。ううむ、情報の確度で切り崩すのは難しそうだな。オネイロスパーティーのこと自体がバレているし。
「じゃあ、別動隊っていうのは……」
「ああ、レジスタンスの大半の構成員は普段、仕事してるの。で、大きな作戦をするときだけ、力を貸してもらう感じ。この国をもっと良くするためにね。だから、別動隊については私が手配しておくからだご心配なく。他には?」
「別動隊がいても、王子を守る近衛兵とか側近とかがいるんじゃないのか?」
「ええ、だから奇襲をかけて暗殺するの。殺したら取り巻きを放置してさっさと逃げるだけ」
どうやら、俺は油断したところに奇襲をかけられ暗殺されるらしい。せめて、痛みがないようにしてほしいな……。
「他には?」
「……うぅ……急にお腹が……お腹の調子が……」
「血を飲ませておいてあげるから我慢しなさい。それとも、マスターに手術してもらう?」
「いえ、結構です! 治りました!」
これはもう止められないかもしれない。
「もうないわよね?」
「はい……」
「じゃあ、明日の夜、アジトに集合よ。いいわね?」
「はい……」
ああ……とうとう、俺は殺されてしまうのだろうか。ああ、短かったな俺のイケメンライフ……復讐すら成し遂げられなかったか……。
せめて、童貞だけは卒業しておきたかったなぁ……帰ったらクリスに頼んでおこうかな。
「それにしても、今日は残念だったわねん」
「今日?」
ゲイリーさんが武器のガントレットを磨きながらつぶやく。昨日の襲撃は成功したはず。午前中に何かしていたのだろうか?
「ええ、本当になんであの時間に王子が貴族の娘がデートしてるのよ。タイミングが悪いったら……」
「そうなのよ。どこかの誰かさんはデートしてたみたいだけど……」
「いや、別にいいだろ!」
「そうね。私には関係なかったわ」
この女……!
まぁ、アリスの目の前で買い物してたんだけどな。というか、どこからその情報が……。それにしても、ソフィーが貴族の娘だってバレてたら危なかったな。
「まぁ……でも、娘のほうは大変な時だから仕方ないわよねん」
「へ? どういうこと?」
「ああ、娘の方はソフィー・アルマ・レディアント。ちょうど今、アルマ・レディアント家が魔族と戦争中。しかも、疲弊したアルマ・レディアント家を狙って近隣の国や貴族に攻められて崩壊寸前なのよ」
「そうよ。あんた掲示板とかに目を通してないの?」
「いや……」
「だから、王子に取り入って助けてもらおうと必死なのよね。まぁ、この国の王子なんだから娘さんも不憫よね」
俺への気遣いも、身を挺して守ってくれたあの行為も、別れ際の笑顔も全部全部、彼女がそういう性格だったわけじゃなくて、家のため。自分の家や領地のため……
握った拳に力がこもっていく。
これじゃあ、転生前と何も変わっていないじゃないか……なんで俺はまた同じことを繰り返しているんだ。
ダメだった俺とは転生して決別したはずだったのに……。
修行しても、魔導を習得しても、イケメンになっても……同じ過ちを繰り返していては意味がないじゃない。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい――。
「……って、どうしたのよ? あんたも寝不足なわけ? それとも貧血?」
「……あ、いや、そういうわけじゃ……」
「ふーん。まぁいいわ……そんなことより、あんたには話しておきたいことがあるの。ちょっと来なさいよ」
「ここじゃダメなのか?」
「いいから来なさい!」
俺はアリスに引っ張られ、アジトの外に連れていかれた。




