お絵かきと酔いどれ
「あの……」
「えっと、何かなソフィー?」
「……また、手を繋いでもよろしいですか? なんというか、ロイ様の手は温かくて安心するんです」
「ああ、そうだね……そうしようか」
またソフィーと手を繋ぐ。少し慣れたのか。彼女の手の大きさ、手触り、温度などなど……。彼女を感じることができるようになった。が、まだまだ緊張してしまで歩き方が不自然な感じだ。
「そ、そうだ! あそこのベンチで休憩しましょう! 絵も描かないとですし」
「ああ、そうですね! 少しだけ疲れちゃいましたね。ロイ様のイラストが楽しみです!」
俺たちは公園のベンチに腰を下ろす。俺は緊張から解放され一息つくことができた。さて、何を描こうか……。
俺は適当に目についた鳥を描く。やっぱり鳥は自由でいいなぁ……。
「まぁ、お上手ですね。鳥さんですか?」
「そうかな? もう少し躍動感が出せるといいんだけど……」
「可愛らしい感じがいいですねっ!」
「ありがとうございます!」
やっぱり描いた絵を褒められると嬉しいな。おだてられた豚のように次々と絵を描き上げていく。
「本当にお上手ですこと。やっぱり、噂通りの出来栄えですわ」
「あはははは。どうも……」
こんなに褒め殺しにされては参ってしまうな。絵描き冥利には尽きるのだが。
そうして、立て続けに何枚か追加で書くと、日が傾いてきた。そろそろ、帰ったほうがいいだろう。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「そうですね……」
そうして、二人で王宮に向かう途中――。
「おい、兄ちゃん。人にぶつかっといて礼もなしかよ?」
「え、ああ、すいません」
世紀末風の男二人に絡まれた。どうやら肩がぶつかったことに腹を立てているようだ。酔っぱらっているのか、呂律が少し回っていない。
「ああっ? 謝り方っていうのがあるだろうが」
「いや、別に肩が軽くぶつかっただけじゃないですか」
俺はその場を立ち去ろうとする。が、男にスケッチブックを取られた。
「何するんですか?」
「勝手にどこか行こうとするからだ。この色ボケ野郎!」
俺は突き飛ばされる。と、男がさらに俺に追撃しようと近づいてこようとしていた。が、その間にソフィーが割り込んできた。
「謝ってください!」
「なんだ? 嬢ちゃん」
ソフィーが俺の前に立ち、両手を大きく広げ、男たちに言葉を放つ。
「この方を傷つけないでください。私の大切な方なんです! この方を傷つけるなら、私が許しません!」
「へー、嬢ちゃんが許さないか……こんなかわいい顔して……許さないってどんなことをするのかなぁ?」
「野郎……」
「やっと見つけましたよー! ロイ様!!」
と、甲冑が走ってくるのが見えた。クリス君だ。
「あれは、王宮の騎士団? なんでここに? い、行くぞ!」
「お、おう……」
男たちはクリスの甲冑を見ると、スケッチブックを捨て走り去っていった。
と、ソフィーがその場で崩れ落ちる。
「ソフィー!」
「大丈夫です。少し慣れないことをしたので緊張してしまいました」
体を震わせながら笑顔で言うソフィー。俺は悔しさのあまり唇を噛んだ。魔導をいくら学ぼうが、イケメンになろうが、女の子にこんなことをさせてしまうなんて……。
俺がしっかりと変な奴をはねつけてさえいれば……。
「さ、スケッチブックですよ」
「ああ……ありがとう……」
俺は彼女からスケッチブックを受け取り、クリスにも礼を言うと、彼女が落ち着いてから王宮に戻った。
「今日はすいませんでした。チンピラに絡まれたときに守ってもらっちゃったりして……俺が軽率な行動をとったばっかりに……」
「いえ、ロイ様こそお怪我はありませんでしたか?」
「大丈夫です。ソフィーさんのおかげで……あの、何か恩返しがしたいんですけど、何か欲しいものとかありますか?」
このまま守られっぱなしじゃ男が廃る。イケメンとしても失格。彼女に何かお返ししたい。
「いいですよ。そんなお気遣いは」
「いや、俺がどうしてもやりたいんです。何かありませんか?」
「そうですね……じゃあ、今度は私の似顔絵を描いてください」
「ソフィーの似顔絵ですか?」
「はい。今日見せていただいたイラストとっても素敵だったので、今度は私を描いてほしいなって……ダメでしょうか?」
「いや、全然。そんなことでよければ」
「よかった。では、ロイ様。またダンスパーティーにて!」
「ダンスパーティーで!」
とびきり素敵な笑顔を浮かべた彼女と別れた。俺が見えなくなるまで手を振っていてくるなんて、やっぱりいい人だな……。
あの女や下心がある他の貴族娘とは違う。本当に心が綺麗な人なんだろうな。




