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デートと修羅場

 彼女の希望叶えるべく俺たちは雑貨屋が軒を連ねる通りへと足を向けた。村にいた頃は近所の雑貨屋で買っていたが、この町では初めて買うのでどこでスケッチブックが売っているやら。


「ところで、気になっていたんですけれど……あれって……」

「え、ああ……あれか……」


 彼女の視線には不審な動きをする甲冑がいた。ずっと俺たちの後をつけているから気になってしまうのは当然だ。今も少し離れた物陰に隠れて、俺たちを観察している。中身は我が付き人のクリスだろう。


 本人は隠れているつもりだろうが、商店が立ち並ぶ場所で王国騎士の紋章をつけた甲冑が挙動不審な動きをしていれば、嫌でも悪目立ちしてしまう。


「俺の付き人の騎士です。ごめんなさい。久しぶりの仕事で張り切ってるみたいで……」

「そうなんですね。お茶目な付き人さんなんですね」

「ははは……でも、これだとせっかくお忍びで観光しているのに変に目立っちゃいますよね……」

「そうかもしれませんね……まぁ、私たちがそれなりの身分と知られたところで何かしてくる輩なんてそうそういないでしょうから……」

「そうですね……」


 でも、そういう輩の片棒を担いでいるだなんて、彼女には言えない。なんか言えないことが多すぎるな。


「じゃあ、走りましょう! ソフィー」

「えっ!」


 俺は角を曲がると、ソフィーの手を取り走り出した。数秒遅れて足音が後ろから追いかけてくる。さすがは王国騎士であり、我が付き人。細い路地に入り込み2度3度曲がっても張り付いてくる。しかし、悲しいかな、甲冑の重みでバテてきたのかだんだん足の音が遠くなり、消えていった。


 クリスには申し訳ないが、これを反省点として今後は甲冑なしの自然な尾行を心掛けてほしい。


「はぁ……はぁ……」

「ごめんなさい……急に走り出したりして」

「いえ……でも手を繋いで二人で走るのってすごいロマンチックでドキドキしちゃいました」

「ああ、手を……ごめんなさい……」


 俺は手を離そうとするが、ソフィーはそのまま手を握ってくる。


「もうロイ様が嫌じゃなければ……もう少しこのままでいませんか?」

「え、ああ、ソフィーさんが良ければ……」


 そうして再び歩き始める。が、緊張してなんだか歩き方がぎこちなくなってしまう。

 なんだかイケメンになってから女の子と触れ合うことなんて全然してこなかったから妙に意識してしまうぞ。手汗とか大丈夫だろうか。手が震えていないだろうか……。


 いや、ダメだ! こんなことで狼狽えていてはあの女に復讐することすらままならない。そうだこれは練習だ。復讐のための練習なんだ。イケメンならこれくらいさらっと――。


「どうしましたか? やっぱり、嫌でしたか?」

「いや……全然!」


 あー、アーカーンっ! 歩き方が不自然だったか? 手がプルプルしたのか?

 こんなことだったら、本当にクリスに手配してもらって、女性慣れをしておけば……。

 修行の時にイケメンになる修行だけをしておいて、対女性相手の修行をしてこなかったのが悔やまれる。


「あ、ここです。ここに寄ってみましょう!」

「はい!」


 声が上ずりながらもソフィーと共に店内に入る。紙やペン、簡単な小物などが所狭しと並んでいる。お目当てのスケッチブックもある。お値段もお手頃だ。


「って、アンタ何でここに……?」

「えっ、あ……アリス……?」


 あの傲慢不遜な女、アリスがいた。なぜ、彼女が文具店にいるのだろうか。買い物だろうか。


「お知り合いですか?」

「ええっと、まぁ……」


 ソフィーが首を傾げる。これはまずい流れだ。俺は慌てて手を離す。


「それなら、自己紹介しなければ……私はロイ――」

「あー! あー!」

「何よ。急に叫んで」

「ちょ、ちょっと待ってて……」


 俺は店から出て、ソフィーと向き合う。


「どうされたのですか? ロイ様」

「うん。自己紹介はなしでいこう。今お忍びで来ているから、自己紹介するとちょっとした騒ぎになっちゃうからさ。それに俺も店員さんには王子ってことは言ってないから」

「あ、そうでした。配慮が足らず申し訳ありません」

「いやいや、ちょっとだけ俺が話しているからちょっと待ってて」

「はい。お待ちしております」


 そうして、ソフィーを外に残したまま、店に戻る。


「仲良く手を繋いでた彼女を置いてきてよかったの? 色ボケ男」

「か、彼女じゃないから……というか、アリスこそなんでここに?」

「……ここで働いているのよ。何よ、悪い?」

「いや、そんなことは……」


 働いている? 国からの仕送りとかがあるんじゃないのか? それとも、俺と同じように修行でもしているんだろうか。だとしたら、なぜレジスタンスなんかに……。 


「ここで働いていることも秘密だからね。分かっているわよね?」

「ああ、もちろんだ。秘密だ」


 だから、腰のナイフに手をのばすのは止めて。というか、働いているときでもナイフを携帯するのはどうかと思うぞ。


「で、デートしに来たんでしょ? さっさと彼女の元に行けば?」

「いや、ここには紙を買いに来たんだ」

「ふーん、この前かなり使ってたから補充しに来たってわけね。殊勝な心掛けね。それに明後日の作戦のこともあるし……いいわ……」

「明後日?」

「作戦のことはまたアジトで話すわ。じゃあ、とっとと買うもん決めて、女遊びに戻れば?」

「遊び人でもないから!」


 俺はスケッチブックを数冊手に取ると、アリスに手渡し勘定をしてもらう。

 それにしても、少しくらい営業スマイルを浮かべてくれてもいいだろうが。そのトゲのある態度は通常営業ってわけか。

 俺はスケッチブックを受け取ると、店の外に出た。


「この店にはよくいらっしゃるのですか?」

「いや、そんなに……」

「でも、店員さんと仲がよろしいんですね」

「あ、いや……たまたま知り合いで……このことは他の人には内緒でお願いします」

「分かりました。じゃあ、可愛いイラストを期待していますね」

「も、もちろん!」


 だが、正体がバレないで済んでよかった。でも、あの女の中の心象最悪だろうな。女の子と手を繋いでいるところを見たらな……何とかして挽回しないと。

 でも、明後日にまた協力させられることになるのは嫌だなぁ……何させられるんだろうか……。

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