コーネリアス・エル・クラウディア
その後、教会を出ると何回か警備兵とエンカウントした。が、いずれもゲイリ-さんの拳でことごとく沈んでいった。
盾を構えていても、盾ごと警備兵を屠っていく姿はとても頼もしい。が、その後に満面の笑みを浮かべながらお尻をタッチしてくるゲイリーさんに俺は少し恐怖を覚えた。
その手を振り払ったら一体どんなことをされるか……あの剛腕で無理やり襲われるんじゃないのか。そんな考えから腕を振り払わず先に進むしかなかった。痴漢される女子の気持ちが今なら分かるぞ。
そうして、セクハラに耐えつつも、なんとかクラウディア卿の寝室にたどり着いた。だが――。
「ママ-! ご飯食べたい」
「もー! コ-君ったらっ! さっき食べたでしょ! また太っちゃうぞっ!」
「ううっ……オギャ-、オギャ-ッ!!」
「はいはい、泣かないの。男の子でしょ。頭なでなでしてあげるから」
「……うん……分かった……」
「よし、偉い偉い……明日はコ-君の大好きなハンバ-グを作ってあげますからねー」
「やった-!! ママしゅき……」
「ママもコ-君好きよ……」
俺たちは予想を上回る光景を目の当たりにし、固まってしまった。
油ギッシュな顔をだらしなく緩ませ、ダルダルの中年腹を揺らしているおっさん。そしてそれを膝枕する幼女。
この地獄の中心にいるおっさんこそが名門貴族クラウディアの長、コーネリアス・エル・クラウディアである。俺はいまだに目の前の光景が信じられないよ。
が、そんな二人の元へアリスが足音をカツカツと立て、近づいていく。
「ママァ-、眠くなってきちゃった……」
「はいはい、じゃあ絵本読みましょうねー」
「でも、トイレ……」
アリスが近づいても続ける二人。二人だけの世界にどっぷりと浸かっているようだ。
「一人でトイレ行ける?」
「ううん……ママついてきて……」
「仕方ないわね……って、たたた、ター君! 知らない人がいるわっ!!」
「はっ!! 貴様らどこから! このっ!」
「ふっっ!!!!」
魔導を発動しようとしたコーネリアスだが、その前にアリスの足がコーネリアスの鳩尾にヒット。崩れ落ちるコーネリアス。そんな彼に追い打ちをかけるようにアリスは執拗に足で蹴りつけていく。どうやら逆鱗に触れてしまったらしい
「ちょっとちょっと、アリスちゃん! やりすぎよ。泡吹いてるわよ、そいつ」
「あ、ああ……そうですね……っ!」
ボロぞうきんのようになったコーネリアス。が、そんな彼にアリスは最後のダメ押しに股間を蹴りつけた。すると、コーネリアスの股間からじゅわーと液体が流れ出して、水たまりを作り始めた。
「っ! このっ!」
思いっきり振りかぶったアリスの足はコーネリアスの脇腹を直撃。彼の身体は床をバウンドしながら吹き飛び、壁にめり込んだ。
「あー……仕方ないか……さて」
ゲイリーさんが幼女に向き直る。アリスがコーネリアスをボコボコにしていたのを見ていたせいか、幼女はベットの裏に隠れて震えている。おびえさせてしまったようだ。
「よしよし、怖かったね。もう大丈夫だからね……」
「……本当に……?」
幼女がベットの裏からくしゃくしゃの顔をのぞかせる。今にも瞳が決壊しそうになっていた。そんな彼女に対してゲイリーさんはしゃがみ目線を合わせると、優しく語り掛ける。
「本当だよ。もうあんなことしなくていいんだからね」
「う、うっ……うぇえええええんん!!! おじさーん!!」
「お、おじ……よしよし、大丈夫だからね」
『オジサン』と言われたことで一瞬顔を引き攣らせたゲイリーさんであるが、そこはなんとか耐え、彼女を抱きしめる。
と、アリスが俺の脛に蹴りを入れてきた。
「……痛っ!! なんだよ」
「仕事よ。あれ」
「え……えぇ……あれを運べってことか……?」
アリスは顎で俺に指示する。その先には床に湖を作っているおっさんの姿があった。




