再戦
エスタちゃんは戦力外になっているだろうから、逃げることはできない。それに2度目の侵入はより警備が厳重になるはずだ。
なら、クラウディア卿を捕まえて、ささっと逃げるしかない。ちくしょう……なんで一番やる気がない俺がこんなことをしなくちゃいけないんだ。
「ラルフ君……うふっ!」
ゲイリーさんは置いていこうかな……。
そうして、向かってくる兵士を倒しながらクラウディア邸の中央に向けて走っていく。と、体育館ぐらいの広さを持つ部屋に出た。
ステンドグラスや中央から祭壇まで伸びる赤絨毯が敷いてあることから教会だろう。教会にしてはでかい。さすが貴族だ。
「また、お前たちか……」
「お前は……」
船の時に戦った金髪イキリ野郎だ。鎖と共に海に落ちていってしまったから溺れてボロボロになっていると思ったが、どうやら元気そうだ。
例のごとく、両手にぶら下げた鎖をジャラジャラとさせている。鎖の光沢から新調したのだろうか。以前使っていたやつは潮水に浸かったか、海に沈んでいったせいでお陀仏になったのだろう。悪いことをした。
「うほっ……いい男! あの人、知り合い?」
「いや、まぁ……敵?」
「そうなの……ねぇ、お兄さん、名前は?」
いやいや、ゲイリーさん。男だったらなんでもいいんですか。というか、名前聞くんすね。
「俺の名はレオ・エドワーズ。傭兵だ」
しかも、答えてくれるんすね。意外に話せる奴かもしれないな。
「ここであったが、なんとやら。お前たちにはここで鎖の錆になってもらう!」
「なぁ、待ってくれ、レオ。俺たちは幼い女の子を奴隷にしようとしていたクラウディア卿を捕まえなきゃいけないんだ。だから、見逃してくれないか?」
「ちょっと、あんたっ……!」
「……いいぜ! っていうと思ったか? 俺はお前たちのようなやつらを止めるためにお金をもらってるんだ。見逃してほしければ先立つものがあるんじゃないのか?」
「お金か……」
ちらっと、アリスとゲイリーさんの顔を見る。が、二人ともすぐ目をそらした。レジスタンスって金欠なのね。
「金が払えねぇなら、ここを通すわけにはいかなねぇな。船では油断したが、お前の手はもう分かってるんだ、スケッチナルシスト野郎。2度も同じ手は食わねぇからなっ!」
レオは鎖を高々と振り上げ、俺たちに向かって叩きつけてきた。それを避ける。
「まず、一匹目!」
レオのもう一方の鎖が横なぎに俺を襲った。しかし―ー
「甘いわね!」
レオの元へアリスが飛び出していった。ナイフを逆手にもって、奴の首根っこを掻き切ろうとした。
「クソッ……!」
レオは鎖を引いてアリスに応戦する。
「2度も同じ手を食わないのはこっちも同じ」
「ほう。女のくせに頭は回るみたいだな」
「私も忘れないでちょうだいよ。レオ君!」
ゲイリーさんもレオに突撃し、剛腕を振るう。
「クッ……」
レオはゲイリーさんの剛腕を受け止めきれず、壁際まで押されていく。そんなレオに追撃するべく地を蹴るアリス。流れるようなコンビネ-ションだ。
「調子づきやがって……」
レオは大きく跳躍し距離を取ると、懐からポーションを取り出し、浴びるように飲み始めた。距離を詰めるアリス。
「おし、充電完了だぁぁあああああああああ!!!」
咆哮と共に2本の鎖がアリスを襲う。以前までの軌道の読みやすい直線的な攻撃から、変則的な振舞いに変化しており、動きが全く予測できない。まるで鎖自身が生きているようだ。
「クッ……」
アリスは身を翻し後退。俺は隙を作るべく、数枚の絵に魔力を込め動物たちを放つも、蛇のように暴れまわる鎖に蹴散らされてしまう。ああ……俺の愛しい作品たちがぺしゃんこだ。
「オラオラ!! さっきまでの勢いはどうしたぁ!」
「んんっ……なかなかやるわね……」
態勢を立て直したアリスはゲイリーさんと再び切り込もうとする。が、鎖の動きに翻弄され思うように接近できないでいた。
俺も魔導で援護するも、鎖に潰されてしまい効果がない。
「仕方がないか……」
戦いが長引けば長引くほど、増援が来る可能性が高まり不利な戦いを強いられる。ならば、多少リスクがあっても勝負を仕掛けるべきだ。
俺は白紙のペ-ジに大きく丸を描くと、スケッチブックごと魔力を充填していく。
すると、描いた丸がスケッチブックを飲み込んで実体化。そこに俺は魔力をすべて注いでいく。魔力を吸うほどに丸は固く大きく膨らんでいく。
「ゲイリーさん! これ!」
「え、なにこれ? ラルフ君!」
「これを奴に投げて」
「ええ……よく分からないけど、投げるわね……んんっ! うぉおおおおおおおお!!!!」
ゲイリーさんの剛腕から放たれる剛速球。それを鎖で叩き破壊するレオ。が、その丸の中から無数の動物が飛び出し、レオに襲い掛かった。
「なんだこれ! クソォオオオ!!」
鎖で潰そうと暴れる。が、その一瞬の隙をアリスは見逃さなかった。
「ここだぁあああああ!!!」
「こんなところで!」
レオはナイフを鎖でガードする。が、そこにゲイリーさんも突っ込んでいく。アリスに気を取られていたレオはゲイリーさんの動きに反応できなかった。剛腕がレオの脇腹を捉えた。
「ふぅううううんんんん!!!!」
「んぷっ……」
声を上げることなく、レオの身体はステンドグラスを突き破り、外に吹っ飛ばされていった。
「……」
静まり返る教会。遠くから足音が聞こえてくる。が、レオが戻ってくる気配はない。なんとか撃退できたようだ。
「ナイス! ラルフ君! お手柄よ!」
「いえ、二人のおかげですよ。こちらこそありがとうございます」
「雑談してる暇はないわ。行くわよ、急いで!」
「ああ……」
「もうっ! アリスちゃんてば冷た~い」
俺はゲイリーさんに手を貸してもらってよろよろと立ち上がると、二人の後に続いた。




