2 センジ、霊能者になる。(カメレオンにもなる)
タンスの服を幼児用に改造する。
改造っつても、ミシンやまともな裁縫道具も無いし技術もそんなに無い。
布用じゃない鋏で裾を幼児丈にムリヤリ合わせ、縫い糸が無いから1~2cmの穴をこじ開けて綱やローブの帯紐を通す。
この方法じゃズボンやパンツは作れないんで、ノーパンワンピース。
鞄と小袋がいくつか有ったので、予備の改造服とその他小物、あと貨幣っぽい金色の玉 (インゴットってのかな?パチンコ玉ぐらいのサイズ) が沢山あったんで、入るだけ持って行く。
パンとか食い物はどうしよう? カビは生えてないけど……。
ドロボー?
拐われた上に幼児にされたんだ、当然の権利さ!
……俺、性格変わった気がする。
◆◆◆
「敵影無し・・行くか。」
外は森というより山だった。 麓の更に先、遥か彼方に街っぽいのが見える。 歩きじゃ到底、一日で着かない。
……ってか、目ェ良いな。
前の体は、眼鏡が無いと数メートル先も見えなかったのに気持ち悪いぐらい見える。 ついでに耳とか鼻とか五感全てが良い。
目の前には下山する為の山道。
後ろには先刻まで居た建物。
レンガ作りの一階建てビルって感じ。
眺めていると、建物から 『確認』 という……テレパシー? みたいなんが飛んできた。 地響きと共に崩れ、最後は凄い勢いで燃え上がりだす。
炎を眺めながら、骸骨から最後に伝えられた一言を噛みしめる。
「───すまなかった、か……」
色んな想いが去来する。
怒り?
感謝?
……分かんないなぁ。
建物が完全に燃え尽き、回りの木々への燃えうつりが無いのを確認し、なんとなく一礼。
んで、出発。
◆◆◆
暫く歩いると手頃な棒が落ちてたので杖、兼、武器として持つ。
「よっ、はっ、とおっ!」
この体、運動神経も良い。
多分、前の体と今の体がガチ喧嘩したら前の体が負ける。 42歳のおっさんvs幼児、幼児の勝利!
……格闘技が好きで自分でも学生時代にやってたけど、うん。 まあ……ねぇ?
岩と岩との間に、ちょうど今の俺が入れるスキマを見つけたので適当な石で蓋をして中で休憩。
時計が無いので正確には分かんないけど……明るい時に出発して、今は夜。 半日以上は経ったと思う。
喉が乾いたので水を飲む。
けど飯は食わない。
お腹が空かないから。
鬱だった時の食欲が湧かない、とは明らかに違う。
『前』 は、両方穴がなかったから尿は解るけど……まさかと思い、お尻に指を持ってくと───後ろも穴がねえぇぇ!?
何? 俺、水と酸素だけで生きてけんの? でも眠くなってきたから睡眠は必要みたいで、少なくとも歩く植物とかじゃなさそう。
お休みなさい。
お早う御座います。
水を飲みます。
ご飯は食べません。
便意が無いです。
……俺、マジでホムンクルスとやらに成ったんだなあ。 どう見ても幼児なのに、この量の荷物を持ってこの距離歩いてんのに、ちょっと休んだだけで異様な程に疲れが取れてる。
準備を終えて、さあ出ぱ───グッ!?
何だ……?
何かを感じる。
ただし、皮膚の触覚じゃない。
視覚でも嗅覚でも聴覚でも味覚でもない。
五感じゃない……ってことは敵意とか殺気とかいう、六感ってやつか? 霊能者かよ。
だけど初めての感覚なんで、元になってる位置がよく分からん。 この岩場は真っ白で目立ちまくるのに、どっちに逃げたら良いのか固まっていると……出た!
な、何だありゃあ……四ツ目の熊!?
四足歩行してるのに4m位ある……直立したらどれだけの身長になるんだ!?
恐い。
体が動かない……頼む、気付くな……!
【四ツ目熊】は、キョロキョロしながら耳を動かしつつ獲物を探している。 暫くして、ガサッという音がした草むらの方へ歩いて行った。
奴の気配が消えたのを見計らい、慌てて岩場から逃げ出し落ち着いてから───自分自身の異変にようやく気付く。
「体の色が真っ白……!?」
先刻まで居た、白い岩場と同じ色……保護色ってか?
益々、人外だなあ。
あの熊、目が四ツも有るということは殆どの獲物を目で探してる筈で……保護色だから見つからなかったんだと思う。
匂いを頼ったり温度を見るカメラみたいな目じゃなくて良かった~。
取り敢えず、今判明してるこのホムンクルスの能力は───
【霊能力】
【保護色】
【超五感】
【凄い運動神経】
【お腹減らない】
【下が出ない】
───といった所か。
イザという時の為にも、この山をもう少し調べときたかったんだけど……あんな化物がいるんなら一刻も早く下山して街へ行くべきだなぁ。