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0 プロローグ

 

 田折たおり 千児せんじ、42歳無職。


 去年リストラされた。

 妻には呆れられて離婚された。

 血を吐いた。

 病院へ行けば来年まで生きられないと言われた。

 鬱になりそうだと思ったら鬱だった。


 ……気付いたら山にいた。



「───はあ、これが遭難か……」



 登山などしたことが無いので服もスーツのまま。 だが自殺の為に来た訳じゃない。


『ただ、楽になりたい』


 その為には如何なろうと知った事ではないと恐怖も警戒心も湧かず、ずんずん山奥へと進む。 草むらで見えなかった崖に足を突っ込み転落してしまう。

 7~8mくらいだろうか?

 キレイに転がり落ち、小さい打ち身擦り傷だけですんだが。



「っ痛たた・・ん?」



 洞窟だ。

 深いのか、奥が見えない。

 またも警戒せず奥へと進む。



「ヘックション!」



 まだ秋というには早い季節なのに寒い。

 体感的に初冬くらいか?

 一本道をひたすら進む。

 時間の感覚はとうに無い。

 暫くすると寒くなくなってきた。

 体温が下がってくると、むしろ暑く感じてしまい吹雪く雪山であっても裸になるケースすら有るとか聞いたが。



「……だが死ぬ、という感じでは無いな」



 洞窟の奥が明るい。

 出口か?

 いや、洞窟に入る前で夕方だった。

 いくら時間の感覚が無いとはいえ、朝になる程じゃない。



「…………コレは……何だ?」



たどり着いたのは野球場より広い部屋で、壁全体が薄く光っている。



『ジッ……ジジッ……』



 神秘的な光景に心捕らわれていると、音が聞こえてきた。 耳に、ではなく頭に。



『……き…れ……きた……れ…………』


  

 人、の声……?

 昔、妻に見せられた漫画で虫歯に詰めた金属がラジオ電波を受信する……みたいな話を見たが、生来より虫歯は無い。


 テレパシーという物か?

 人と話すのは億劫だ。 口を動かすのもメールを書くのもひたすら億劫。 だがコレなら考えるだけだから楽か?

 ……そうでもないな。



「今、そちらへ行こう」



 怪しすぎる声にも警戒心を抱かず───いや、抱けないのか? とにかく近づく。 部屋の真ん中に近づく程、声が大きくはっきり聞こえてくる。

 楽になりたい。

 早く楽になりたい。

 この声に従えば楽になるのか。



『来たれ、扉の向こうの魂よ!』



 壁の光が強くなる。

 強くなる。

 さらに、もっと、強く。

 光の渦なんて表現が有るがまさしくだ。

 渦に溺れる。

 息が出来ない。

 しかし苦しくは無い。

 むしろ一切の苦しみが消えてゆく。



◆◆◆



 ───しばらくして、田折千児はカクンと崩れる。 呼吸は浅く、心臓の鼓動も小さく。

 やがて生の反応が止まり、完全に動かなくなると……その肉体は光の塵となり消え失せた。

 

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