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62.突撃

これまで冷静を保ってきた戸川弁護士に、初めて動揺の色が見え始めた。


戸川「何をしたんだ…! どうして貴様らがここにいるんだ…!」

湊「何をした…って、おめーが仕掛けたカラクリをバラしただけだよ」

戸川「何だと……?」

湊「おめーは、“エクストラ・マジシャン”を使って警視庁上層部のプライベートを探り始めた。その結果、刑事部長の不祥事を知った。それをネタに警察を脅し、自分らのやることに一切口出しをさせないようにした。つまり、どんな悪事を働こうがおめーらだけは罪に問われることがなくなるってことだ。柴田やのぶちゃんを豊島東署に連行させたのも、おめーが直接連絡したんだろ? でっちあげの容疑で警察が動くってことは、おめーが依頼したことを裏付けている」

会田「だからどうした!? オレらの邪魔をするヤツは痛い目を見ればいいんだよ!」

湊「まだわかんねーのか? もう“警察封じ”は使えねーんだよ」

会田「何だと? どういうことだ?」

湊「オレがマスコミにリークした。もう間もなくこの事実が公になるだろう」

戸川「ウソをつくな!」

湊「ウソだと思ったらマスコミか警視庁に問い合わせてみろよ。今頃てんやわんやの大騒ぎだぜ。こうなると警察もごまかすわけにはいかねぇ。おめーらの悪行が明るみに出るのも時間の問題だ」

戸川「うぐ……」

戸川は返す言葉がなくなっている。

会田「殺しちまおう」

戸川「え?」

突然飛び出た会田の発言に、驚きのあまり目を見張る戸川。

戸川「殺すのか?」

会田「問題ないだろ? 後で正当防衛だとか何とか言えばいい」

戸川「……まぁ、それもそうだな」

会田「よし……」

会田が、不気味すぎるぐらいの微笑を見せた。

会田「こいつら全員、皆殺しだ! 一人残らずブチ殺しちまえ!」

藤堂「何だと!」

伸子「ちょっと、何考えてるの!?」

俊作「心配すんな! オレが返り討ちにしてやる!」

湊「おい柴田、殺すんじゃねーぞ! 後でこいつらに事情聴取をしなけりゃいけねーからな!」

俊作「わかってますよ。ちょっと懲らしめるだけですから」

湊「懲らしめる……ねぇ」

湊は苦笑いをした。

俊作「純! ロッキー! 久々に暴れるぞ!」

純「All right!」

創「よしきた!」

ヒップホップ男「生きて返すわけにはいかねーんだよ!」

ヒップホップ男が、真っ先に俊作を狙って殴りかかってきた。

伸子「きゃあ!」


しかし、そこへ俊作のカウンター右フックが眉間にヒット!

「ガツン」という鈍い音と共にヒップホップ男がひっくり返る。そのままヒップホップ男は失神してしまった。


一瞬にしてざわめきが起こる。

黒野や瀬高も例外ではなかった。


会田「何をうろたえてる! さっさとやれ!」

黒野「そうだ! 人数じゃこっちが上なんだ!」

湊「あーあ、おとなしく投降したほうがいいと思うけどなぁ……」

黒野「いくぞ!」

俊作「かかってきやがれ!」


ロック・ボトムのメンバーが、俊作たちに襲いかかる!


黒野と瀬高は俊作を狙う。

それ以外のメンバーは純と創が相手をする。


黒野「やっとケリつけられるなぁ、柴田」

俊作「……」

瀬高「鴨川んトコの用心棒だと思ってたら、まさかあの柴田だったとは」

俊作「マスターをよくもやってくれたな」

黒野「あの兄妹はオレらに逆らったからな。罰を受けて当然だ!」

俊作「相変わらずわけわかんねーこと言ってやがるな」

瀬高「まぁ、お前もすぐに後悔させてやるよ」

瀬高は俊作の右肩に、自身の左手をポンと置いた。


約10秒後、瀬高は目を回した後に気を失っていた。

もちろん本人は何が起きたのかわかっていない。


瀬高が俊作の肩に手を置いた瞬間、俊作がその手を素早く掴み取ってひねりあげたかと思えば、一気に瀬高の体勢を崩し、鳩尾みぞおちへの前蹴りと眉間へのヒザ蹴りを連続で見舞った後に後頭部へ掌打を放ち、床へ叩き伏せたのだった。


黒野「なっ……!」

うつ伏せに倒れ、わずかに全身を痙攣させている瀬高を見て、黒野は言葉を失いかけた。

黒野「おっ、おいっ! おめーら、こっちにも手を貸せ!」

慌てて、純と創が相手をしているメンバー数人に応援を要請する黒野。

俊作「同じことだ。何人束になろうがオレには勝てねぇ。あいつらの運動不足に拍車をかけるだけだ」

俊作の殺気が、静かに黒野を捉える。


結局、黒野には4人のメンバーが加勢した。

創「あーらら、親分の助太刀に行っちまいやがったぜ」

少し拍子抜けした様子の創。

純「まぁ、いいじゃないの。こっちは相手が減ったんだから」

メンバーの男「何雑談してんだよッ!」

メンバーの一人が純を殴りつけた。少し痛かったらしい。

純「Shit…! そーいやお前、秋池のマンションにいた野郎だな」

メンバーの男「あ?」

純は、今自分を殴った男の顔をしっかりと覚えていた。

純「あの時の借りを返してやるぜ!」

純と創の猛攻が始まる。黒野への加勢で4人減ったとはいえ、まだ人数では敵側のほうが多かった。しかし、純と創の攻撃はまるでアクションゲームの雑魚キャラを倒すかのような勢いだった。おもしろいように敵がひっくり返っていく。


俊作が言った通り、黒野に加勢したメンバーはあっという間にやられてしまった。


予想を超える強さだ。

歯ぎしりをする会田の後ろで、傍観者のように立ち尽くしている戸川弁護士はそう思っていた。戸川に至っては、恐怖すら感じていたことだろう。自分は恐ろしい男を敵に回してしまった。この男にはもはや法律すら通じないのではないか――。

湊「お前らの負けだ」

戸川「何ッ?」

そんな戸川の心を読んだかのような湊の発言。

湊「お前らは柴田の逆鱗に触れちまったんだ。あいつは昔から卑怯なやり方が大嫌いでな。確かに十代の頃は血の気も多くてケンカもよくやってたが、無駄なケンカや集団リンチは決してやらなかった。弱い者いじめなんてもってのほかだ。リンチやいじめの加害者は容赦なく柴田が成敗した。“そんな理不尽な方法でしか問題を解決できないのは人として惨めだ”って考えてるんだよ、柴田は」

戸川「……」

湊「あいつにはあいつなりの正義感があって、それに従って動いてた。そんな柴田を慕う人間は当然多かった。オレも何度か事情聴取をしたことはあったけど、あいつの人間性がわかってたから逮捕まではしなかったよ。そんなことしたら鳴海や黒木に怒られちまうもんな」

戸川「……」

湊「…なぁ、お前さんは何で法律家になった? 正義のためじゃないのか?」

戸川「……いや、オレに正義などない。オレが弁護士になったのは、“武装”して世の中を上手く渡るためだ」

湊「何だって?」

戸川「法律の知識があれば、違法行為を回避できる。法律の力を使えば必ず自分が優位に立てる。トラブルに巻き込まれても自分が傷つくことはない。そのうえ金まで稼げる。天職だと思ったね」

湊「どうやら、天職というほどのモノでもなかったみたいだな」

戸川「何だと?」

湊「お前は以前勤めていた事務所を、依頼人とのトラブルが原因で辞めているな?」

戸川「あれは、つまらない個人間のいさかいを持ち込んだ依頼人が悪い。報酬だって二束三文にしかならん」

湊「だから会田の援助で独立を?」

戸川「そうだ。法律と金の力で、自分の思い通りに世渡りするためだ。…しかし、今になってそんな考えが間違いなんじゃないかと思い始めたよ」

そこで湊が、ニヤリと微笑む。

湊「フッ、柴田に気づかされたか?」

戸川「たぶんな……」

この湊と戸川の会話は、果たして会田の耳に届いたのだろうか。


黒野「うがぁっ!」

俊作の右上段逆突き(顔面への右ストレート)を眉間に食らった黒野は、後方へ大きくよろめいた。

佐知絵「黒野くん、しっかり!」

黒野「く…くそ……あんな野郎……!」

唇や鼻から出血し、肩で息をしている黒野。俊作と黒野の対決は、誰がどう見ても俊作が圧倒的優勢である。これがK-1のリングなら俊作のTKO勝ちだろう。

俊作「ほう、さすがはゴロツキのボスだけあって根性だけはあるようだな。だけどよぉ、こっちはもう頭に来てんだ。今更謝ったって許さねーぞ!」

黒野「あいにく…オレだって謝るつもりはねーよ!」

黒野はデニムパンツのポケットからスパナを取り出した!

黒野「くたばれぇぇぇぇぇ!!!」

黒野が、右手に持ったスパナを横薙ぎに、逆水平チョップの軌道で振り回す!

上体をスウェーさせてこれをよける俊作!

黒野が更にもう一撃! 次は上段から振り下ろす!

今度はやや自分から見て左方向に体を捌いてこれをかわす俊作。

俊作「どうした? あててみろよ」

右構えの状態から、俊作は黒野を挑発した。

黒野「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

黒野が三度スパナでの攻撃に出る。先程と同様、頭上から振り下ろすパターンだ。

俊作の目が、カッと見開く。

自分の左腕を、アッパーカットに似た軌道から拳を正拳の状態にひねりつつ黒野の右腕に向けて鋭く突き上げ、攻撃を受け止める!

いや、受け止めるというよりは、「逆に攻撃をはね返す」といった感じだ。

これぞ、空手の受け技の一つ、「上げ受け」である。

黒野「ぎゃあっ!」

右腕に高圧電流のような衝撃が走り、思わず断末魔の悲鳴をあげる黒野。空手の受け技は、逆に攻撃するつもりで受けることに意義があるのだという。長年空手を修業した俊作だからこそできた技である。

黒野「う…腕がぁ…腕がぁぁぁぁ……!」

まるで某アニメ映画の悪役みたいにわめく黒野の懐へ、俊作が素早く飛び込む。

俊作「すぐに黙らせてやるぜ!」

俊作は大きく息を吸い込むと、それを吐き出すのと同時に、黒野のボディに正拳突きの連打をマシンガンの如く叩き込んだ。

俊作「おらぁぁぁぁぁぁっ!!」

黒野の身体が、「く」の字に折れ曲がっていく。

黒野「……ごふっ………」

俊作「はぁっ!」

俊作の後ろ回し蹴り!

正拳突きの連打によって垂れ下がった黒野のアゴにクリティカルヒット!

背中から、大の字になって倒れ込む黒野。完全にのびている。


佐知絵「…そんな……」

会田「な…何故だ! 何故なんだ……!」

自分でもうまく言い表せない感情がこもったような目を血走らせ、俊作を見張る会田。

自分に対して最低・最悪な仕打ちをした会田に対し、ただ怒りをぶつけるように睨む俊作。

俊作「何故だって? いちいち説明しなきゃなんねーのかよ? めんどくせーからてめーで考えやがれ」

会田「……」

俊作「かわいそうだから一つヒントをやるよ。“因果応報”だ。よく考えな」

会田「野郎……とことん生意気なヤツだ! このオレは簡単にやられねぇ!」

戸川「おい会田、もういいよ。オレらの負けだ。おとなしく警察へ行かないか?」

会田「あ? お前ここまできて何言ってんだよ?」

意外な人物が口を挟む。これには俊作も驚いて目を丸くした。

戸川「既に勝ち目はない。この状況を見てわからないか? オレらのほとんどが柴田たち3人に倒されてしまった。3人だぞ? オレらは最初に何人いた? 数では圧倒的有利だったのにもかかわらず形成を逆転されてしまったんじゃあ、もう降参するしかないよ」

実は、純と創のほうもほぼ打ち止めといった感じだった。

会田「戸川、お前オレに負けを認めろってのか!」

戸川「認めるしかないだろう! そもそもこの柴田俊作という男はオレらが仕組んだ罠をことごとく見破った。信頼のおける仲間や警察をも味方につけてだ。こんな短期間で罠を見破るところを見ると、チームワークもよさそうだ。どうしてだと思う? みんなこの柴田という男の人格をわかっているからじゃないのか? 信頼しているからじゃないのか? オレらとは違う。少なくとも、今までのオレは信頼という言葉とは無縁な生活をしてきた」

会田「…それがどうした」

戸川「え…?」

会田「柴田の人格なんてとっくに知ってるよ。5年も同じ会社で働いてきたんだぞ? だからどうしたってんだよ! オレは天才だ。“エクストラ・マジシャン”で神の力を手に入れたんだ! 柴田がどんな人間だろうと社会的に葬り去ることなんて余裕でできる!」

戸川「し、しかし、これ以上抵抗を続ければ続けるほど罪は重くなるぞ!」

会田「何だ? それはオレが捕まるのを前提に言ってんのか!?」

佐知絵「そうよ! 捕まっちゃダメだって! こんなに稼げる仕事ないのよ? それに、あたしのお金はどうなるの? まだ払ってないでしょ?」

伸子「羽村さん!」

伸子が佐知絵の両肩をがっしりと掴んだ。

佐知絵「何よ! 離して!」

伸子「あんた、お金のことしか頭にないわけ!?」

佐知絵「離してよ!」

伸子「お金さえもらえれば、あとはどうだっていいの? 何の罪もない柴田くんが、仕事なくなってもいいっていうの!?」

佐知絵「うるさいわね! あたしには何の関係もないことよ!」

伸子「……本気で言ってるの?」

佐知絵「…早く離してくれませんか? 高根さん」

伸子「あなた…ホントにお金さえあればそれでいいの? ねぇ?」

熱くなりつつある伸子を、藤堂がなだめる。

藤堂「高根さん、彼女を離してやりなよ。今は何を言っても無駄だ」

伸子「部長……」

力なく、佐知絵の両肩から伸子の手がするりと離れていく。佐知絵はこれ見よがしに、手でホコリを落とすような感じで、両肩をポンポンとはたいた。しかし、伸子は気づかないふりをしていた。

会田「おい戸川、警察へは行かせんぞ。オレらは絶対に捕まらねーんだ」

戸川「会田……」


それを聞いた俊作は、ペッと唾を床に吐き捨てた。


俊作「野郎……とことん救えねーヤツだ。いいだろう、てめーのバカさ加減を思い知らせてやる!」


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