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26.「鴨川家」その2

俊作の正義感が疼き出したか…?

俊作は席を立つと、即座に2人組の男を睨みつけた。


男たちの話し声も止まり、俊作に視線を集める。


俊作「さっきから聞いてりゃ、随分ひでぇこと言ってんじゃねーか。この人たちは何もしてねーだろ」

ジャッカル男「あぁ〜? なんだぁてめーは!」

男「あ…お前はさっき“Harajuku 302”にいたヤツじゃねぇか」

俊作「あぁ、また会うとは奇遇だな」

男「こんなトコで何やってんだよ!」

俊作「コーヒー飲んでたんだけど。しかしお前ら、マナーがなってねぇな。人として恥ずかしいとは思わんのかね」

ジャッカル男「うるせーな! こっちゃ客なんだよ! 客が何しようと勝手だろ!」

俊作「そーゆーのを今じゃ“モンスターカスタマー”っつーんだろうな。いくら客でも、てめえのワガママが通るなんて考えるのは大きな勘違いだ。客商売も“人づき合い”の一つ。マナーを守らなきゃお互いイライラしてしょうがねーだろが」

営業マンだった俊作だからこそ言える台詞だ。

ジャッカル男「なんだよてめー偉そうに! やったろかぁ!」


ジャッカル男が立ち上がり、俊作の胸ぐらを掴む。


俊作「…別にオレはお前らとやり合う気はねぇよ」

いきりたつジャッカル男の殺気を、さらっといなす俊作。

同時に、ヒップホップ風の男も更にもう一歩、俊作に詰め寄った。

男(以後ヒップホップ男)「一つ聞くけどよ、お前、ホントに通りすがりか?」


この男はいきなり何を言っている?

まさか自分の正体に気づいているのか?


俊作「どういう意味だ?」

こう切り返すのは当然の流れ。

ヒップホップ男「質問してんのはオレだ。勝手に聞き返すな」

俊作「何言ってんだお前? 質問の意図がわかんねーんだよ」

ヒップホップ男「だから、お前がホントにあのクラブの前をたまたま通りかかっただけかって聞いてんだよ」

ジャッカル男「さっさと答えろよ!」

ジャッカル男が、更に強く俊作の胸ぐらを掴みあげる。

俊作「おい、その手ェ放してくんねぇ? しゃべりづらいんだけど」

ジャッカル男「うるせぇっ! てめーごちゃごちゃほざいてんじゃねぇーっ!!」

ジャッカル男が両手で俊作の襟元を掴み、そのまま壁へ押しつけようとした。


――だが、いつの間にかジャッカル男の視界はクルリと一回転していた。


ジャッカル男「――?」


ジャッカル男の突進にあわせて、俊作が足払いを仕掛けていたのだ。床につけようとした右足を狙って払ったため、ジャッカル男は簡単に転ばされてしまった。

ヒップホップ男「てめえ!」

俊作「ふぅ…これでしゃべりやすくなった」

ジャッカル男「野郎……!」

ジャッカル男は拳を握りしめて立ち上がろうとした。

俊作「おい待てよ。オレは自分がしゃべりやすくなるように掴まれた手を振り払っただけだぜ?」

ジャッカル男「うるせぇぇぇーッ!! てめーみてーなヤツがただの通りすがりなわけがねぇーッ!」

俊作「……やれやれ」


ジャッカル男は大振りの右フックを放った。

それをあえてよけず、左手でガードしながら相手の懐に飛び込む俊作。その流れからジャッカル男に組み付き、両方の腕で首をがっちりとロックした。


ムエタイやキックボクシングの「首相撲」である。


相手を掴んだまま、左足を軸にし、コンパスのように体を旋回させる俊作。面白いように引きずられるジャッカル男。


間髪入れず、俊作の大きな剣の切っ先のようなヒザ蹴りがみぞおちに突き刺さる。


ジャッカル男「おごぉ…っ…」


ジャッカル男の呼吸が、一瞬にして途切れた。


その場に崩れ落ちるジャッカル男。

俊作「あ、悪い悪い。条件反射だ。でもよ、“ただの通りすがり”に手を出したお前らも悪いぞ」

ヒップホップ男「てめえ…何者だ!」

俊作「だから“ただの通りすがり”だって。ちゃんと質問に答えたぜ。それより、ここに倒れてるヤツを早く連れて帰りなよ」

ヒップホップ男「……」

やはり、本能的にこの男と戦えば勝ち目はないと感じていたのだろう。ヒップホップ男は、腹を抱えてうずくまるジャッカル男を抱き抱え、足速に退却していった。


俊作「まったく…何だったんだ、あいつらは」

何気なく振り替えると、鴨川兄妹が、口を無用心にあけたまま立ち尽くしていた。

俊作「……あ、すいません、店の中で暴れてしまって……」

鴨川「…あ……いや、それはたいしたことなかったからいいんですけど……お客さん、あなた今の連中知ってるんですか?」

俊作「いえ、知りませんよ。誰なんですか?」

鴨川「やっぱり……。ヤツら、“ロック・ボトム”のメンバーなんですよ」

俊作「ロック・ボトム?」

鴨川「この辺りじゃ有名な不良のチームで、アタマの黒野って男を筆頭にやりたい放題やらかす連中なんです」

俊作「黒野……!?」


黒野だと……?

すると、さっきの2人組は黒野の仲間もしくは舎弟だということか。


俊作がこの名前に食い付かないわけがない。


鴨川「どうしました? もしかして黒野を知ってるとか……?」

鴨川も、明らかに黒野の名前に反応した俊作の表情を見逃さなかった。

俊作「ええ…まぁ」


しまった。

俊作は、つい本当のことを言ってしまった。


鴨川「ホントですか? お友達か何かで……?」

俊作「いや、そんな平和的なモンじゃないですよ」

ヒナコ「じゃあ、何かあったんですか…?」


俊作はしばらく考えた。

今更ヘタにごまかすのもおかしい。正直に事情を話そう。たぶんこの兄妹なら大丈夫だろう。


俊作「……実は今、わけあって黒野のことを調べています。“Harajuku 302”について聞いたのもそのためです」

鴨川「黒野を調べる? ヘタにかぎ回るのは危険ですよ?」

俊作「承知の上です。それに、今さっき黒野の子分に手を出したんで、もはや安全とはいえないでしょう。あいつらはオレを怪しんでいた様子でしたし」

鴨川「……お客さん、あんた何者ですか?」

俊作「こういう者です」

俊作は、作りたての「探偵として」の名刺を鴨川に手渡した。

鴨川「探偵…ですか」

俊作「はい。黒野について何か知っていることはありますか? 別にヤツのことじゃなくてもいいですが」

鴨川「……探偵さん、一つ忠告しますがね、あの黒野って男はとにかくヤバいヤツですよ。ここら一帯で乱暴狼藉傍若無人やりたい放題、例えるなら現代版芹沢鴨ってところですわ。気に入らないことがあればすぐに暴れるし、ヤツに逆らうなど自殺行為に等しい!」

俊作「芹沢鴨か……うまい例え方しますね」

鴨川「そんな呑気なもんじゃないですって! この辺りに店を構える者はみんな頭抱えてるんですから! 探偵さんが知りたがってる“Harajuku 302”だって黒野のせいで営業できなくなったんですよ!」

俊作「その話なら聞いたことがあります。なんでもオーナーと黒野がトラブルを起こしたとか」

鴨川「ええ。でも、まさか営業停止に追い込まれるなんて……オーナーの秋池さんがかわいそうだ」

俊作「何があったんですか?」

鴨川「詳しいことはわかりません。連絡が急にとれなくなりましたから」

俊作「そうか…詳しくは本人に聞くしかないのか」

鴨川「そうですね……。我々も心配です。道玄坂で友人の店を手伝っているみたいなんですが…」


鴨川も大まかな情報しか知らないようだ。しかし、会話の内容からして、鴨川は秋池と付き合いがあると思われる。俊作は鴨川から秋池について聞き出すことにした。


俊作「ところで、マスターはその秋池さんと親しいようですね」

鴨川「はい。付き合いは長いですよ。もう6〜7年になるかな。でも、秋池さんがどうかしたんですか?」

俊作「…今、オレが追ってる事件に彼が関係してる可能性があるんです」

鴨川「えっ? 秋池さんが?」

鴨川兄妹は目を丸くした。

ヒナコ「何かやったんですか? 強盗とか傷害とか……」

俊作「いえ、そうじゃありません。事件の“鍵”を握っているかもしれないんです」

ヒナコ「鍵……ですか」

鴨川「あービックリした。あの人が悪事など働くはずがないですからね」

秋池は、どうやら悪人ではないらしい。

俊作「もともと秋池さんって、どんな方なんですか?」

鴨川「いい人ですよ。感じがよくて気さくだし。あのクラブだって初めは秋池さんの人柄に惚れた人たちがいっぱいいたんですから」

俊作「へぇ……」

鴨川「それにマメなんです。我々兄妹は毎年誕生日を祝ってもらってるんですよ。クラブの常連さんでも誕生日の人がいれば誕生日パーティを開いたりしてました。ちゃんと覚えてるんですよ、あの人」

マメな性格……か。

俊作「それはすごいですね。じゃあ、お客さんの顔なんか忘れることはないでしょうね」

鴨川「それはないです。“人の顔をしっかり記憶できること”が秋池さんの特技ですから」

素晴らしい特技だ。是非とも営業職としてスカウトしたいぐらいである。

俊作「――ということは、1週間ぐらい前に来た客も当然覚えてますよね」

鴨川「もちろんです。秋池さんならまず忘れることはないと思います」


なるほど、そうなると「何も覚えていない」という発言はなおさら怪しくなってくるわけだ。どのような事情があるのだろうか。


鴨川「……だけど、やっぱり気になるなぁ」

俊作「何がですか?」

鴨川「秋池さんですよ。いったいどんな事件に巻き込まれたんですか? だってキーマンなんでしょ? 半年近く前から急に見かけなくなった上に、探偵さんの事件に関係してるって聞いたら、やっぱり心配になっちゃいますよ」

ヒナコ「そうよ。ウチら、秋池さんにはお世話になってるんです。あの人が困ってるんだったら力になりたい! 探偵さん、秋池さんとの間に何があったか教えてくれませんか?」


一瞬、俊作は事情を話すか否か考えた。本当は部外者に詳細を教えるのはまずい。

しかし、この兄妹の目は少しも薄汚れてはいなかった。純粋に、秋池の身を案じている目だったのだ。


俊作「……別にオレと直接関係があるわけじゃないですよ」


そう付け加えて、俊作は自分に起こったことと秋池の関係を話した。


鴨川「……そうだったんですか。まさか探偵さんご自身が被害者だったとは……」

俊作「いや、ちゃんとした証拠をあげるまでは建前上加害者ですよ。不条理な話ですがね」

ヒナコ「でも、秋池さんがそんな最近のことをまったく覚えてないなんて、ウチらからしたらちょっと変ですね」

鴨川「あぁ、確かに。特に記憶障害のような病気になったなんて話は聞いてないし、裏に何か事情があってそんなことを言ってるとしか思えないですよ」

俊作「裏の事情……ですか」

鴨川「ええ。これは確かめてみないとわかりませんけどね」

俊作「そうですね。早急に調べてみます」

鴨川「お願いします。我々も秋池さんが心配ですから。何かわかったらこちらからもご連絡いたします」

俊作「じゃあ、さっき渡した名刺に書いてある番号まで連絡ください」

鴨川「わかりました。この番号は探偵さんのケータイですか?」

俊作「はい。睡眠時以外は電話に出るようにします。どんな小さいことでも構いません。何かわかったら連絡ください」

鴨川「わかりました。しかし、黒野のような輩が一般のOLさんと付き合っていたなんて驚きですね」

俊作「ホントですよ。世の中にはわからんこともあるもんですね」

俊作と鴨川は、そろって苦笑した。


苦笑しながら、俊作は鴨川に黒野の女性遍歴について尋ねてみることにした。


黒野の女性遍歴とは?

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