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ナイトウィザード 二次創作  作者: 西玉
呪いの家
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情報収集? 職員室にて

 職員室の人影はまばらだった。授業中の時間であり、教師のほとんどは受け持ちのクラスに移動している。地裏ムカサは、呪香ミツコとともに犬神ヤシャの前に立たされていた。

「お互いに大変ですね」

 犬神の前に立った時、ムカサは素直な感想を口にした。犬神の同意は得られなかった。

「俺が大変なのは、お前の責任だ。『お互いに』というのは理解できないが」

「意見の不一致ですね。ところで先生、二組でウィザードが三人行方不明だという噂を聞いたのですが、何かご存じではありませんか?」

 ムカサは淀みなく質問したつもりだったが、犬神ヤシャは驚いたような顔をした。呪香ミツコの反応はわからない。ムカサは見ていないし、そもそも興味がない。

「二人とも、どうして職員室に呼ばれたかのか理解していないのか?」

 犬神の獣じみた顔が、さらに険しくなる。

「今回の事件について、情報交換をするためでしょう? あるいは……すでに先生は情報を把握していて、対策を立てるためでしょうか」

「月匣を展開してイノセントを眠らせたことに対する注意ですか?」

 ムカサとミツコはほぼ同時に、全く異なる見解を口にした。犬神がミツコに向けて小さくうなずいたので、ミツコの方が正解に近かったのかもしれない。ムカサは気に入らなかった。

「ウィザードの行方不明というのは、イノセントの大量消滅事件より深刻な事件です。強大な侵魔がかかわっているのに間違いない。魔王がかかわっているかもしれない。世界結界が崩壊するかもしれないのに」

 世界結界は、この世界を維持する力そのものだといえる。世界結界が崩壊するということは、世界が崩壊することと同義である。

 犬神ヤシャは苦いコーヒーを飲んだかのような顔をした。ムカサに対して怒ることはせず、言葉を選ぶように慎重に口を動かした。

「俺もウィザードだが、どこかの組織に属しているわけじゃない。情報は持っていない。お前たちのほうが詳しいんじゃないか?」

 話が事件に向かったため、ムカサは小さくうなずいた。だが、ムカサが情報を持っているわけではない。ムカサは、蛇の魔王レビュアータと契約した落とし子であり、魔王すべてを捧げたつもりだが、その見返りを得たことはない。

 ムカサは呪香ミツコを見た。ミツコは代々魔女の家系である。両親もウィザードで、情報源に困ることはないはずだ。

「今のところは、何も。隣のクラスのウィザードが行方不明というのも、今朝知った情報です」

 不景気な表情と声でミツコが発言したため、ムカサは渋面を作りながら指摘した。

「ミツコが詳しく調べるから、俺が調べても無駄だと言ったじゃないか」

 今朝、ムカサはミツコにたっぷりと嫌味を聞かされたのだ。ミツコは暗い表情を変えず、視線すら動かさずに答えた。

「占いの材料が足りなかったのだから仕方ないでしょう。それに、家庭科の授業中でもないのに教室で火を起こすわけにはいかないし、火が使えなければ、占いの方法はとても限定されるのよ」

「『詳細に調べる』っていうのは、占いのことだったのか?」

「ほかに何があるのよ」

 ミツコの口調はまじめそのものだ。いくら魔女の家系で本人も魔女だからといって、占いを最上位の判断材料とするのは理解しがたい。

「友達に聞くとか、考えなかったのか?」

 ムカサの言葉に、ミツコは声を荒げた。

「私に友達がいるわけないでしょう。私は、あんたより自分を知っているのよ。そんな無駄なことはしないわ」

「いい加減にしろ」

 犬神ヤシャが口を挟んだ。ムカサは、犬神の存在をそもそも忘れていた。しかし、情報を持っていないのなら、これ以上職員室にいる理由がない。もちろん、教師の命令で連れてこられたという理解は初めからしていない。

「そうですね。失礼します」

「誰が戻っていいといった?」

「大丈夫、教室には戻りません。ほかのクラスの友達に聞きに行くので」

 犬神が呆れたように口をあけたが、ムカサには呆れられる覚えはなかった。ただ、ミツコの反応は違った。

「あんたに友達はいない。学校中のイノセントを眠らせて回るつもり? 本当は、あんたが侵魔じゃないの?」

「失礼なことを言うな!」

「やる気なら、受けて立つわよ」

 ミツコの手が空間に消えた。月衣かぐやの中に手を入れているのだ。ミツコは魔女であり、同時に魔剣使いでもある。手の中に、魔剣の柄を握っているのだろう。教室での続きだとばかりに、ムカサは制服の袖をまくりあげる。

「わかった」

 犬神ヤシャが教員用の回転椅子から立ち上がった。突然のことに、ムカサは犬神に視線を奪われる。ミツコも同じだった。

「何が『わかった』んですか?」

「生徒たちの噂話の域を出ないが、知っていることは教えてやる。確かな情報じゃないが、あの三人は『呪いの家』について調べていたらしい」

ムカサは犬神ヤシャの言葉を吟味し、『呪いの家』についての知識を持ち合わせていないという結論に至った。ミツコの顔を盗み見るが、間違いなく同様の表情をしている。犬神は舌打ちし、素早く職員室内を見回した。

「ほかの先生の目もあるからな。場所を変える。ついて来い」

 犬神ヤシャは二人を振り返りむせず、颯爽と歩きだす。

「ほら、私のおかけで情報源ができた」

 ミツコが胸を張ったが、ミツコのおかけであるということを、ムカサは決して認めなかった。


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