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ナイトウィザード 二次創作  作者: 西玉
呪いの家
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事件の発端は噂話

 輝明学園高等部一年一組の窓際、最後列に地裏ムカサの席がある。おおむね、常識のある人間は近づくことさえ避ける。同級生といえども例外ではない。もっとも、高校の教室に同級生以外の人間はめったにいない。

 誰も近づかないのは、特別な理由があるわけではない。ムカサの周囲には血の臭いがまとわりつく。それがムカサ自身の血であることは問題ではない。だれしも、あえて自分から不快な思いなどしたくはない。

 ウィザードであるムカサは月衣かぐやによって物理的な衝撃から守られているが、自傷行為は別である。傷だらけのムカサの背中をイノセント(ウィザード以外の人間)が攻撃してもムカサに達することはないが、椅子の背もたれに体重を乗せると実際に痛かった。

 窓際の最後列に座っているのもたまたまではなく、暗黙の了解でいつの間にか定位置となっていた。

 隣の席には女子生徒が座り、普段は見事にムカサを無視しているが、ウィザードである。呪香ミツコ《じゅごうみつこ》は魔女の血脈を受け継ぐ正当な魔術師である。骸のような細い体に真っ黒の髪が特徴で、歩くホラーと噂されている。

 血の臭いをまとい、妙に姿勢が正しい以外は普通の学生であるムカサとは違い、ミツコは魔術師であることを隠そうともしていなかった。普段から机の上には呪術に使う人形や水晶が並び、机には魔法陣が描かれている。ウィザードのことをイノセントが理解できるはずがないという前提でいるため、同級生の相手をするのが面倒だという理由で頻繁に月匣げっこうを展開して自分の世界に引きこもろうとする。

 ムカサとミツコが机を並べる教室の一画に、イノセントが近づかないのは無理のないことである。もっとも、ムカサは同級生が近寄らない原因のほとんどはミツコにあると思っている。


 いつもの席に座り、ムカサは背筋を正したままで契約主である魔王に対して祈りを捧げていた。

 ホームルームが始まる前の早朝のことである。

 イノセントたちの噂話が聞こえてきた。

『二組の変人三人組が、最近休んでいるって聞いたか?』

『ああ。三人そろって行方不明だっていう噂だろ。うちのクラスの変人たちも、そうなってくれるといいんだけどな』

 静かに目を閉ざし、祈っていたムカサの耳に突然飛び込んできたのである。噂話の後半で誰かの中傷が混ざっていた。

 『うちのクラスの変人』が自分のことを指しているとは夢にも思わないムカサは、誰の声ともわからない噂話に腰を上げた。椅子ががたりと音を鳴らし、同級生たちの視線が一瞬だけムカサに向けられる。すぐにそれていったのは、誰かがタクトを振るっているかのようだった。

 誰の声か解らなかったため、ムカサがクラス中を見回していると、手の甲に異様に冷たい物質が押し付けられた。

 慌てて手を引こうとすると、ムカサの手を抑えるように重ねられた、呪香ミツコの手が目に入った。

 ミツコが出席していることすら気づいていなかったムカサは驚いたが、ともにウィザードである。声を荒げることなく、ムカサは椅子に尻を落とした。

 教室中に意識を集中しながら、ムカサは声を落としてミツコに尋ねた。声を落としたのは、イノセントである同級生の声を聞き逃さないためである。

「どうした? なにか用か?」

「落ち着きなさいよ。どうせ彼らが、正確な情報を持っているはずがないわ」

 ミツコは、イノセントとウィザードは全く別の生き物だと思っている傾向が強かった。ここで言い合うのはあまりにも無駄であり、ムカサも逆らわず、問い直した。

「二組の連中が行方不明になったっていう話、知っていたか?」

「いいえ。『変人三人組』って……誰のことかしら?」

「二組にはウィザードが三人いることは知っているが」

「ええ。もちろんそれは知っているわよ」

「そいつらじゃないのか?」

「それは考えにくいわ。だって、ウィザードが三人そろって行方不明になるような大物がいて、あなたはとにかく私が気づかないはずがないもの。それに、あの三人は『変人』とはいえないわ」

 ミツコはだいぶ失礼な物言いをしたが、ムカサ聞き流すことにした。話が脱線するからだ。

「イノセントから見たら、『変人』に見えるのかもしれないな。俺たちがそう見えるとは思わないが」

「ええ。そうかもしれないわ」

「ウィザードの三人が休んでいるのかどうかぐらいなら、休み時間にでも覗けばわかるだろう。俺は少し調べてみる」

「止めておいたら?」

 すでにホームルームが始まり、担当の教師が話をはじめていた。ミツコは教師の言葉など聞かず、机の上に複雑な文様を描いていた。

「気にならないのか?」

「私が詳細に調べるわ。あなたが少し調べたところで、何もわからないわよ。あなたは黙って、偉大な蛇にでも祈っていなさい」

 ミツコがけんかを売っているのではないことを、ムカサ知っていた。付き合いは長くないが、魔女の家系にかなりのプライドがあるのだ。反論する気にもならず、ムカサは一限目の準備を開始した。


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