表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

二話 扉を開けたなら


扉を開く為に剣を隙間に入れこじ開けようとするが、鍵がかかった扉はびくともしない。

ダンジョンに潜った事は何度もあるし、最終地点に位置する扉にも辿り着いた事は幾度もある。

だが、勇者であった時は魔法を使うなり、無理やり力技で開けるなりすれば良かったが、この腐った身体ではそうもいかない様だ。

せめて僕に左手があったなら、多少は可能性があったかも知れないが今更だ。


「イマのチカラではヒラクコトはデキナイカ 」


そう上手くは運ばない様だ、今まで自分が思った通りに事が進んだ事など数える程しかないが。

疲労感は全く無いが、精神的に疲れる。

ここに来るまでに、どれだけの時間を使ったのか考えたくも無い。

僕は壁に寄りかかる様に座り込む、すると扉が鍵など無かったかの様に、僕の重さに押されて開く。


「ソウカ、マモノならばトビラのカギはアクのか 」


この最奥に位置する部屋が魔物を生産する為の部屋なら当然、魔物は扉を潜れる訳だ、

でなければ、部屋は生産された魔物で溢れかえってしまう。

僕は立ち上がり、部屋の中を確認する様に足を踏み入れた。






部屋は暗いが、屍人の僕は夜目が利く。

これだけは勇者をやっていた頃より、便利かもしれない。

部屋を見渡すと床に魔法陣が彫ってある一角を確認出来る、ここからダンジョンの魔物が湧き出るのだろう。

ダンジョンの魔物が生まれるには、二つのパターンがある。

僕の様に、ダンジョン内に溢れている魔素を直接取り入れ魔物化する場合。

もう一つが、ダンジョン内にある魔素を人為的に集め、魔法陣を使い具現化する事。

この場合は媒介となる物、例えば、僕の場合は自分の死体になるが、そういった物が必要無い事だ。

魔素が枯れない限りは、無尽蔵に魔物を作れる生産部屋となる。

この魔法陣さえあれば、僕は飢える事なく部屋に引きこもっていられる。

正し、最後の部屋には必ず侵入者に対しての自己防衛機能がある。

次の魔物が生まれてくる頃に、他の魔物や人間がいると作動する。

ダンジョンによって仕様は異なり、大型のモンスターだったり、罠だったりと色々だ。

とりあえずは自己防衛機能を壊さない事には、何も出来ない。

人間だった頃に嫌という程、学んだ事だ。


「……ウゴイタナ 」


魔法陣が薄く光を発すると、部屋の中に警戒音とも取れる音が響く。

同時に薄暗い部屋が赤色の光に染まる。


「サテ、ナニがオコルやら 」


部屋の中心に、魔物を生産するのとは別の、大きな魔法陣が浮かび上がる、どうやら魔物系のトラップらしい。

地響きと共に魔法陣に姿がハッキリと浮かんでくる、大きさは四メートル程、青い肌には血管らしき物が蠢き、明らかにパワータイプの容姿、一つ目の巨人サイクロプス。


「……ドウシタモノカ 」


こいつに殺されれば、僕は楽になれるのだが、魔物の本能なのか身体がそれを許さない。

ここに来るたびに幾度も試したのだが、わざと死ぬ様な事は一切、受け付けなかった。

難儀な事だが、こいつを倒して部屋を占領して引きこもるのが、一番リスクが低いと思う、僕がこれ以上、人間を襲わない為に。


「このカラダでドコマデやれるかワカラナイが、ダメならダメでカマワナイ 」


サイクロプスの弱点は額の小さい角だ、そこを折ってしまえば、奴の命は終わる。

残っている右手でしっかりと剣を握り直し、

サイクロプスと正面から睨み合う。

狙うのは一瞬だ、僕の剣は既に刃こぼれが酷く、奴の硬い肌には効果が無いだろう。

ならば、僕に攻撃を仕掛ける一瞬、姿勢を落とした所を強襲し、角の破壊を狙うしかない。

獣の様な雄叫びを上げ僕を威嚇してくる。

姿勢を落とし、こちらに突っ込んでくるつもりらしい、力を貯めている様だ。

僕は剣を肩に担ぎ、いつでも動ける様に準備する。


がああぁぁぁぁ!!


奴は再度、雄叫びを上げると渾身の力で向かってくるが、やはり動きが単調で読みやすい。

僕はサイクロプスが、自分の勢いのまま繰り出した両腕をすり抜け、奴の腕を踏み台に額へ飛び上がる。


「ワルイな、コレでオワリだ 」


剣が奴の角に流れる様に走る、間違い無く当たると確信出来る。

が、今まで剣を酷使し過ぎたのかパッキンと音を立て、角に剣が負け、折れてしまった。


「ハハ、ホントにボクらしいな。イヤになるよ 」


攻撃を受け、更に興奮したサイクロプスが僕を掴み上げ、握り潰そうと力を入れる。

痛みは無いが、身体の内側から今すぐにでも皮膚を突き破り、内臓が飛び出しそうな圧迫感、なんとも嫌な気持ちだ。

でもこれで終わるなら良いじゃないか、僕はそれを望んでいたんだろう?


「アー、アー、アァ!! 」


気づくと歯が折れた剣でサイクロプスの腕を突き刺していた。

何度も、何度も、何度も。

魔物としての身体が生を諦める事を許さない、これは呪いだ、生という呪いだ。

サイクロプスがたまらず、僕を力任せに投げつける、壁に衝突し視界が赤く染まるがまだ僕は生きている。


がああぁぁぁぁ!!


再びサイクロプスが雄叫びと共に突進してくる。

壁ごと僕の事を押し潰すつもりらしい、握っているのは柄しか残っていない剣のみ、だが充分だ。


足の骨は壁に叩きつけられた時に砕けた様だが、転がる事ぐらいは出来る。

奴が僕に触れる直前に前転し、奴の背後を取った。


「このツルギをヨリシロに、マをホロボスツルギよ、ケンゲンせよ 」


僕が勇者だった頃の技、普通は聖剣を依代に破魔の剣を発現する。

勇者固有のスキルといっても良い、聖剣の周囲に光の刃を纏い、魔族や魔物を滅ぼす。

サイクロプスぐらいなら、聖剣の代わりに折れた剣を使おうが、倒せるだろう。

僕の右腕に握られた剣からは、ドス黒く燃え上がる漆黒の剣が柄から伸びている。

魔素を取り込み、人外になった僕にはお似合いだ。


「これがあの、ハマのツルギか、このイロ、まるでマケンだな 」



奴が振り返る前に、背中を撫で斬りにして息の根を止める。

昔は聖剣が光を纏う様を人々は賞賛したものだが………まぁいいさ、過去の事だ。

それより何か食べなければ、毎度の事だか身体が損傷したり、必要以上に動くと堪え難い

空腹感が襲ってくる。

今すぐ何かを口にしないと気が狂いそうな程に。


「サイクロプスか。ウマクはナイのだろうな 」


奴の身体は剣をへし折る程に硬い、僕は唯一柔らかい部位、首筋に噛みつき、貪る様に生臭い肉を胃に納める。

不味い、まるで肉をヘドロの中に漬け込んだ様な味がするが、この身体になってからは、何よりも食欲が優先されている。

満腹感が身体を満たすと同時に、身体に力が湧いてくる。

魔物を食べる度に、身体が力を取り戻すのがわかる。


「流石は上級の魔物だな、三割程度は動けるか? 」


生前とは当然比べ物にならないが、意識は完全に覚醒した。

だが、素直には喜べない、力をつければ僕を倒せる者の数が減る、食べなければ何をするか自分でもわからない、また人を襲うかもしれない。


「参ったなぁ。何が正解なのか全くわからん 」


僕は部屋の先にある扉に向かって歩く、この扉の先がダンジョンの最深部、ダンジョンコアがある部屋がある筈だ。

ダンジョンコアまで辿りつけば、この迷宮は僕の支配下に置かれる。

ダンジョンの稼働を止めるも、動かし続けるのも、僕の自由だ。


「行くか 」


僕がダンジョンの扉を潜り抜けると、想像していなかった景色が眼に飛び込んできたのだった。




誤字、脱字、その他。ご指摘お願いします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ