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水の格子  作者: ペトアリ
第一章「変わらないもの」
7/33

1-5

 ニ


 白い車が音もなく走る。後方車窓にはスモークフィルムが張られ、さらに車窓カーテンが施されているため、中をうかがい知ることはできない。

 図書室から竟を連れ帰ってからの道中、車内は無言だった。竟の表情は暗く、顔をうつむけている。手のひらを、ブレザーの上からかばうように腕に乗せている。先ほど斎がつかんでいた部分だ。

「竟、腕を見せろ」

 斎が声をかければ竟は素直に腕をさしだした。上着を脱がせてワイシャツのそでをまくる。細く骨ばった白い腕に、くっきりと赤い跡が残っている。斎の手形だった。斎はそれを見て眉を寄せた。片手で竟の腕を支え、もう片方の手で、慎重に跡をなぞる。

「痛むか?」

 聞けば竟は首を振る。

「大丈夫」

 目を閉じて、竟は斎の肩に頭をすりつけた。甘えたい時に竟がよくするしぐさのひとつだった。

「今日の仕事は、何時に終わるのかな」

 眠気を含んだ問いかけに斎は口もとの緊張を解く。

「なるべく早く終わらせる。だからおとなしく待っていろ」

 車は水藤家の門に到着し、なめらかに停車する。客人はすでに着いているらしい。数日後の仕事関連のために海外からはるばる足を運んできたようで、どうしても今日中に「宣告」をお願いしたいとのことだった。求める者がいれば、いつでも、どこでも、その手を拒まない。それが斎の役割であるからだ。

「お召し物はどうなさいますか、斎様。必要ならすぐにご用意いたします」

 運転手がすぐに後ろに回り、車のドアを開ける。帰りを迎えた給仕が尋ねるが首をふった。

「このままで構わない。客人は今日中に帰国しなければいけないんだろう。時間がもったいない」

 斎は眠そうに目をこする竟の手を取って降車する。決して言葉にはしなくともやはり不安があるのかもしれない。まだ自分には見えているか。しっかりと見ることができるのだろうか。彼に触れることでその不安を払う、まじないの一種だ。握り返される手のぬくもりを感じることで確信ができる。

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