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竟が再び口を開いたのと同時に、鋭い声が二人の間に割って入った。
「竟!」
それほど大きな声ではなかった。だがその声の鋭さは心臓を突き刺されるようで、冷や汗をかいた。
二人が同時に振り返ると、本棚の一、二メートル先で一人の男子生徒が仁王立ちしていた。冷たい目でこちらを見すえている。柔道でもやっているのかと思うほどがっしりとした体格をしていて、いやに威圧感がある。宮崎は、この生徒を知っていた。
「斎!」
竟が笑顔を輝かせ、彼を呼んだ。そう、斎だ。水藤 斎。この学校で彼を知らない者はいないだろう。
「こんなところでなにをしてる」
駆け寄っていった竟に対して斎は固い表情を崩さない。厳しい口調でつめ寄った。竟はようやく斎の怒りを察したようで、途端に笑顔がしぼんでいく。
「トイレに行こうと思って……」
「それで、なんで図書室にいるのかって俺は聞いてるんだ」
すぐに言葉を絶たれて竟は言いよどむ。
「場所が、わからなくなって……だからだれかに聞こうと思った」
「だったらなんで教室に戻らなかった。俺に聞けばいいだろう」
「ご、ごめん」
状況がわからず見守っていただけの宮崎だったが、うなだれて「ごめん」とくり返す竟を見ていられなかった。声をかけようか迷っていると、斎の背後にいた生徒が動いた。背がやたらと高い。その生徒の顔も知っていた。いつも斎の後ろに控えている。たしか、伏見とかいう名前だった。
そこで宮崎は初めて気づいた。伏見を――正確にいえば斎と竟を中心にして、いつのまにか生徒がとり囲んでいた。斎はいつも周りに取り巻きがいるが、今日はやけに多い。だがやじ馬というわけでもないようだ。皆、能面のように無表情で二人のやりとりを見ている。
「斎さん」
伏見が斎を呼んだ。同い年のはずの斎を敬称をつけて呼ぶ。この学校のやつらはだれもかれもそうだと、宮崎は胸が悪くなる思いで三人を見つめた。
「車が着いたか。行くぞ、竟」
斎は伏見に目で指示をすると、竟の腕をつかんで乱暴にひっぱった。急な動きについていけず、足がもつれて転びそうになる竟を気にも留めない。そのままどんどんと歩いて宮崎の横を通り過ぎる……と思われたが、一瞬速度をゆるめた。そして、宮崎を見た。ギラギラと光る視線の攻撃だった。はっきりとわかる、敵意だ。宮崎はおじけづき、後ろ手に持っていたかばんを落とした。ゴトンと重い音がした。その音に反応して竟が宮崎を見る。