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「こんなところでなにしてるんだ?」
相手がまた口を開いた。宮崎はかばんを一瞬だけ見た後、背後に隠した。
「本を探してたんだよ。図書室ですることっていったらそれしかないだろ」
声がうわずらないように答える。男子生徒は隠した弁当箱を見ていなかったようで、そっか、と相づちを打った。
「ここは本がたくさんあるな。一度来てみたかったんだ」
そう言って男子生徒は笑った。まばゆいばかりの子供のような笑顔だが、少しひっかかるところがあった。まるで図書室というものを知らなかったかのような口ぶりだ。
「お前、よくここに来るのか? どの本がおもしろいと思う?」
初対面の相手に「お前」呼ばわりされて面食らった。もし宮崎が上級生だったらどうするかなどとは考えないのだろうか。しかし悪意は決してないようで、相手は無邪気な笑顔を振りまいている。
「まず、そっちの名前は? 何年生?」
質問に質問で返したが、男子生徒は気を悪くしたふうもなく素直に答えた。
「俺は竟。二年生」
同い年だ。だが宮崎は彼を見たことがない。
「俺は宮崎直弘。二年だよ」
相手の態度が砕けすぎているからか、宮崎も肩の力を抜いて話すことができていた。この学校に転入してから初めてのことかもしれない。気になったことを思わず口にしてしまう。
「竟はハーフかなにかなのか? 珍しい髪と目の色だよな」
「ハーフって?」
竟は宮崎の隣に腰を下ろすと不思議そうな顔をした。
「えっと……親のどっちかが日本人じゃないっていうか、外国の血が混ざってるってことだよ」
竟の反応に戸惑いつつも宮崎は答えた。すると竟は目線を上げて少し考えるしぐさをすると、「そうなんだ」と言った。
「その、ハーフっていうのはわからない。俺は親を見たことがないから」
「えっ」
もしかしなくとも踏み入ったことを聞いてしまったのかと宮崎は後悔した。
「ごめん、考えなしに聞いて」
「なにが?」
あわてて謝ったが、竟は首をかしげた。謝られた理由を理解していないようだった。宮崎の中での疑問が次第に大きくなる。この会話の「ずれ」が気になってしかたなくなる。竟という人物は一体なんなのだろうか。
「そうだ。俺、聞きたいことがあったんだ。あのさ、トイレって……」