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水の格子  作者: ペトアリ
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人物紹介


水藤すいとう いつき 14歳

水藤家の「指導者」。真面目で頭が堅く、無愛想だが、親しい相手には冗談も言う

竟に対して異常な執着心を持っており、自分の所有物かのように扱う


水藤 (わたる) 14歳

斎の幼なじみ。純真無垢で他人を憎むことを知らない。人畜無害な雰囲気を持つため子供や動物に非常になつかれる


宮崎(みやざき) 直弘(なおひろ) 14歳

外部から受験をして入学してきたため、エスカレーター式に上がってきた他の生徒となじめずに孤立している


伏見(ふしみ) (あきら) 14歳

水藤家の信奉者で斎の右腕。穏やかな外見と裏腹に冷酷で残虐な一面を持つ。斎、竟とは同クラス


水藤 清華(きよか)

斎の母親

水藤 裕一郎(ゆういちろう)

斎の叔父。学者。


※このお話はあくまでフィクションであり、史実との相違点が多数ございます。また、実在の人物とはいっさい関係ありません

 あたりに血しぶきが舞う。男は目を押さえてうずくまる。恐怖と混乱でこわばる体を無理やりにひねって、元凶である、目の前の小さな対象物を視界に捉えようとする。しかし何も見えず、ぬるつく血の感触が妙に生々しくなるばかりだ。何も見えない。

 もう自身の目には何一つ映すことを許されない。妻の泣き叫ぶ声に耳を傾けながら、男は悟った。分かることはこれだけだ。ならばそれを受け入れなければならないのだと、男は静かにまぶたを伏せた。



  またたく光を初めて目にした時、いつきはひたすらに圧倒された。その光の暖かさとまぶしさに触れ、そしてその中央にいる存在にまみえたことに至高の喜びを感じたのだ。斎は今でも忘れることができない。いや、まるで昨日のことのように、一瞬一瞬を正確に思い出すことができる。延々と続くと思っていた暗闇が照らされ、一人の少年が斎を迎え入れた。

 目が見えるというのはこういうことなのかと、斎は涙を流した。母屋から少し離れた場所にある蔵の中だ。普段ならば絶対に立ち入りを許されない。だからこそ一度のぞいてみたかったのだ、たとえ何も見えない体だったとしても。そこには、斎の知らない何かが絶対にあると思っていた。彼がそうだった。光とともに斎の前に現れた少年こそ、斎が求めていた光だった。

 そこから七年たった今でも、斎は確信している。彼との出会いはすべての終わりであり、始まりであったと。

 名前を持たない彼に、斎は「わたる」という名を与えた。初めて名前を呼んだ時、竟は赤子のように笑ってみせた。名前を持たなかった彼は同様に、言葉も持っていなかった。竟は斎に視力の回復を、斎は代わりに名前と言葉を与えたのだ。だから竟は今日も斎にほほえんで、「おはよう」と口にすることができる。

 眠そうにまぶたをこする竟を見て斎も思わず笑みがこぼれる。頭の上に手を置いて、優しくなでる。

「あまり眠れなかったか」

「そんなことないよ」

  竟が首を振ると、指の隙間の髪が揺れる。根元の金色雀かなりあ色は毛先へ行くほど薄くなり、最終的には色素が完全に抜け落ちている。肌は白く、内側の血管が透けるようだ。紫色の瞳も非常に特殊だ。このような外見ならば、人知をこえた存在に見えてしまってもおかしくはなかったと斎は思っている。

「早く着替えてこい。そろそろ学校に行くぞ」

 そう言うと、竟は顔を輝かせた。勢いよくうなずくと、寝間着の浴衣が乱れるのもおかまいなしに自室へ駆けていく。その後ろ姿を眺めることが朝の日課であり、斎の幸福だった。その生活が一変するなどとはみじんも思っていなかった。

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