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シグナル・オブ・ジョーカー  作者: 水崎綾人
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第7話「訪れた決戦の夜」

 ランス・ヒュア・アルダートとあったあの夕方の日から早一週間。あの男が弥夢や柚瑠の前に現れることはなかった。

 弥夢もこの一週間で『霊力』も大分自由に使えるようになっていた。

 ただ気がかりなのが、あの脳裏に浮かんだワンピースの少女のビジョンだ。そればっかりは全く進展がなく、弥夢にも謎のままだった。

 今日は学校の帰りに柚瑠の家に寄り、特訓をしなくてはいけない。

 これはほぼ日課とかしていた。

 今は、柚瑠の家に向かっている途中だ。

「あいつ、一向に現れないな」

「かといって油断はできません」

 そんな会話をしながら柚瑠は家の鍵を開ける。

 部屋にはいると、柚瑠が依頼人と接する時に使う机の上に一通の手紙が置いてあった。

 慌てて、柚瑠は机に駆け寄り、それを手に取る。

「こ、これ……」

 真っ白い封筒に入ったその手紙には『招待状』と書かれていた。

 その字を見るだけで、誰が差出人なのかは容易に想像がついた。

「柚瑠……それって……」

「ええ、その通りです」

 裏にはランス・ヒュア・アルダートと書かれていた。

「時刻は二十五時。呼び出し場所は、前回弥夢くんと戦った場所。とのことです」

 重い口調で言われたその言葉は、今夜が決戦であることを物語っていた。

 初めてあった場所。

 それは、あの公園。『緑園公園』だ。




        ◇

 時刻は二十五時。殆どの人は寝静まり、あたりは街灯の明かりだけで灯されている。

 弥夢と柚瑠は『緑園公園』にやってきた。

「待ちくたびれたよ」

 その声の方向に立っていたのは、黒と白の二色のスーツを着た男。

 ランス・ヒュア・アルダート本人だった。

「ランス・ヒュア・アルダート……」

 柚瑠の声に力がはいる。

「おお、怖いな」

「まず質問させてください」

「何かな?」

 両手を上げて男はおどけてみせる。

「どうやって私の家に手紙を置いたんですか?」

 男はクスっと笑い続ける。

「そんなことか。簡単なことだ。私が直接入ったんだ」

「そんな……まさか…」

 柚瑠の声からは驚きが入っていることが分かる。

「なぁに簡単なことだ。君の家の対魔術装備は簡単に破壊できる。それほど強力なものじゃないからな。恐らく、そこの弥夢くんが無意識のうちに少しずつ破壊していたからじゃないのかい?」

「まさか……」

 弥夢は自分の左手をみる。無意識のうちに破壊なんて出来るのかと思いながら。

「で、では、もう一つの質問です。あなたはなぜ人を殺すのです?」

 男は再び笑いながら答える。

「私が殺してきたのは魔術因子も持つものだけだ」

「も、目的は……?」

「他人の魔術因子を吸収することで、魔術師はより強力になることが出来る。私の最終目的は統べる(シグナル)の全討伐だ。『霊力』に魔術が上回れば、私にも世界を意のままに操る力が与えられる」

「そんな事のために、今まで何人もの魔術師を……」

 心なしか、柚瑠の声は震えている。

「そんなこと…か。私にとってはそんなことではない。このような腐った世界を意のままの操る。そんな権利が統べる(シグナル)だけにあるのは間違っている。私が神の力を得る。これは、とてもそんなことで片付けられることではない」

 男は言い終えると、以上だ、と話を終えた。

「なるほど。やはりあなたは間違っています」

 柚瑠は両手に剣を出現させた。

「今度は二刀流か」

 弥夢も咄嗟に戦闘態勢に入る。

「君もか。七番目(ジョーカー)

「――っ」

 柚瑠が走り出し、剣を振るう。

 男はそれをヒラリと交わし続ける。

「言っただろう。君では私に勝てない。私の今の目的・興味は弥夢くんのジョーカーの力を貰うことだ。そうすれば、ちまちま魔術因子を吸収しなくても一気に神の力の権利を獲れる」

 男は胸ポケットからナイフを取り出した。

「君にはこれで通じる」

 魔術でナイフの刃渡りを増加し、日本刀のような形状にまで進化させていた。

「あれは、魔術かっ!」

 弥夢は左手を構え握ろうとすると、男はハンカチを一枚こちらに投げる。

 それは、弥夢の右肩にざっくりと刺さり込み、矢のような勢いにより、木に刺さったまま動けなくなった。

 左手で握るが、破壊は起こらない。

 きっと痛みで感覚がマヒしているのだろう。

「くっそ……」

 右肩の痛みがひどい。なんとかして右肩に刺さっている矢状のハンカチを抜くために引っ張るが、激痛のため抜くことは出来ない。

 一刻も早く抜いて、柚瑠の戦いの手助けをしなければという思いがあるが、どうすることも出来ない。

「……っ」

 柚瑠は迫りくる剣を片方の剣で受けながら、もう片方の剣で攻撃するが、交わされる。

 それどころか、受け流しているはずである男の攻撃が、身体にあたり足や腕から血が流れる。

「柚瑠―――っ」

 弥夢の声が柚瑠の名前を懸命に叫ぶ。

 左手をダメ元で突き出し、握る。すると、男のナイフにかかっていた魔術はポリゴンの破片となって破壊された。

「な――っ」

 男は驚いたようだったが、再びナイフに魔術をかけた。

「少し静かにしていたまえ。後で君とはじっくり相手をする」

 何枚あるか数えるのも嫌になるくらいのハンカチを弥夢に向かって放る。

 そのハンカチは無数の矢となって弥夢の右の肩に刺さり、身体が体制を崩した。今まで固定されていて動けなかった身体が、急に自由になったのだ。

 そう思うと同時に弥夢の右肩に激痛が走った。

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 木には弥夢の右肩がまだ刺さったまま止まっている。

 そう、弥夢は右肩から切断されていたのだ。

「弥夢くん!」

 今にも泣きそうな柚瑠の声が響く。

 が、弥夢にはその声は届かない。あまりの激痛のゆえ、意識が飛んでいるのだ。切断された右肩のあった部分からは鮮血が流れ出して止まらない。

「君の相手は私じゃなかったのかい?」

 男のナイフは止まることなく柚瑠を切りつける。

 時折、奇妙な笑い声を浮かべる。

 男のナイフが柚瑠の左手の剣を砕いた。

「なっ――」

「君も終わりだな」

 声には笑いを含めたものが入っていた。




       ◇

 ここはどこだ?

 綺麗な草原が目の前に広がっていた。

 前にもどこかで見たことがあるような景色だ。

 どこか懐かしいような気がする。

 声が耳からではなく、脳に直接聞こえてくる。

 ――本当にいいの?

 ――このままで

 ――あの子、戦っているわよ

「誰…だ?」

 ゆっくりと声に出して聞く。

 ――全ての事象を曲げる力を持っているのに、痛みだけで逃げるの?

「ふざけんな。どんだけ痛いと思ってる。普通に生きてたら右肩切断されるなんてこと無いだろう」

 ――……

「大体、ある日いきなり霊力なんてものに目覚めて…」

 ――いきなりじゃないわ

「……え?」

 ――あなた自身がそうなることを望んだのよ

「どういうことだ?」

 ――どういうこともない。それが真実。これはあなたが望んで手に入れた力。今まで忘れていただけ。

「まさか……」

 ――今、あなたがしなければいけないことは、あなた自身が一番わかっているはずよ

「今、やるべきこと……」

 弥夢の脳内には、ランス・ヒュア・アルダートが今まで殺してきた魔術師たちのことがよぎった。そして、柚瑠の依頼人の顔も。

 あの男のせいで当たり前の生活を奪われた人、生きることを奪われた人がいるのだ。

 このままあいつを放置していたら、ますます被害者が出るかもしれない。

 それを止めれるのだとしたら…今やるべきことは…

 そのまま、弥夢の意識は身体に戻っていった。



「くあっ……」

 力なく柚瑠が地面に倒れこむ。身体は傷だらけで、出血もしている。

「終わりだな」

 男は柚瑠の首筋にナイフを向けた。

 柚瑠は自分の無力さを恨みながらも歯を食いしばった。

「いい顔だ。最期にふさわしいな」

 男がナイフで柚瑠の首を切断しようとしたときだった。

 地面から何かが立ち上がる音がした。

 柚瑠とランス・ヒュア・アルダートはそちらに目をやった。

 視線の先には右肩から先を失った弥夢が立っていた。

「もう、起きたのか。弥夢くん」

「……」

 弥夢からの反応はない。

「待っていたまえ。この女を始末してから君の相手をしてあげよう」

 弥夢は何も言わずに左手を真上に突き上げた。そして、それを握る。

 すると、ランス・ヒュア・アルダートのナイフにかかっていた魔術はたちどころにポリゴンの破片となって破壊された。

「なっ…。なるほど、君から先にやってくれということか」

 ランス・ヒュア・アルダートは、ナイフを弥夢に向け、ゆっくりと歩み寄って行く。

 弥夢はまた左手を真上に突き上げ、それを握る。

 すると、木に刺さったままの右肩が消え、切断されたはずの弥夢の右肩が胴体にくっついた。

「なるほど。切断されたと言う事実を破壊したのか」

「弥夢くん……」

 弥夢もゆっくりとランス・ヒュア・アルダートへと歩み寄っていく。

 弥夢は右手を真横に突き出した。

 すると、ゆっくりと空気の渦を巻き電気も発生してきた。

 それはやがて剣状の形になる。まるで柚瑠の剣のようなものを出現させた。

「弥夢くん…それ…」

 柚瑠の声が震える。

「ふんっ、破壊の左手に創造の右手か」

 ランス・ヒュア・アルダートは静かに呟く。

 二人の歩くスピードは徐々に加速し、互の剣をぶつけ合った。

「さすがはジョーカーだ。統べる(シグナル)の一人」

「……」

 剣とナイフが混じりあり、眩い剣舞が繰り広げられる。

 打ち合っている最中、弥夢は左手を握り、ナイフの魔術を破壊する。

 が、破壊された瞬間に再構築する。

「ただ破壊すれば良いというものじゃないんだよ」

「……」

 が、弥夢は破壊し続ける。

 剣を打ち合っているとき、弥夢は一瞬だけ自分の持っている剣を消した。

「自分の剣まで破壊したのか?」

 その間もランス・ヒュア・アルダートのナイフの魔術を破壊し続ける。

 その一瞬の隙を弥夢は見逃さなかった。

 ランス・ヒュア・アルダートの懐に潜り込み、右手で鳩尾(みぞおち)を突く。

 そして、ランス・ヒュア・アルダートが腹を抱えた瞬間に弥夢は右手に剣を出現させ、ランス・ヒュア・アルダートの両手を切断した。

 ランス・ヒュア・アルダートの両手はしばしの間宙を舞って地面に落ちる。

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 ランス・ヒュア・アルダートの悲鳴が聞こえる。

 その悲鳴とともに、弥夢は地面に倒れた。




       ◇

 翌日。弥夢と柚瑠は薫の部屋に呼び出された。

「昨日はよくもやってくれたな」

 薫がいつも通りやる気のない声でいう。

 弥夢としては右肩が切断されて以降の記憶がないため、状況が把握出来ていない。

「でも、弥夢くんが解決してくれました。私は…無力でした…」

「え?俺が解決したのか?」

「なんだ?覚えてないのか?」

 弥夢は頷く。

「右肩を切断されてからの記憶がないんすよ」

 薫はなるほど、と頷くと今度は柚瑠が口を開く。

「本当ですか?意識がないままあれほどの破壊を?それに私と同じ剣まで出現させて…」

「いや、本当に記憶がないんだって」

 頭の後ろを掻きながら答える。

「だとしたら、弥夢くんはよっぽど危険な存在です。無意識のうちにあれほどの戦闘を行うなんて」

 あれほどがどれほどなのか分からい弥夢は何も言い返せなかった。


 その後、薫の部屋から出た弥夢と柚瑠は大人しく教室へと戻っていった。

 弥夢は思った。

 例え無意識でも自分がこの街を救ったのだと。思い込みかもしれないが、ランス・ヒュア・アルダートに殺された人たちの少しは仇を打てたと思う。

 空いている窓から吹き込んでくる風が頬を伝う。

 これから自分がどんな風になっていくかは分からない。けど、目の前にある平和を守っていけたら良いなって思う。

 もし、それを脅かすものが出てくるのだとしたら、俺はこの手できっと破壊(・・)するだろう。

「弥夢くん、何外見てるんですか?行きますよー!」

「ああ、悪い。ぼーっとしてた。今行く」

 そして、今日も弥夢たちの一日は始まっていくのだった。


 こんにちは水崎綾人です。

 試験連載分はこれが最終話です。最後はちょっと駆け足気味でしたけど、無事に第一章はこれにて幕を閉じます。

 評価、感想等を頂けると連載の時の参考になりますので、よろしければお願いします!


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