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シグナル・オブ・ジョーカー  作者: 水崎綾人
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第4話「夕暮れの戦い」

「お前、どこ行ってたんだよ?」

 奥仲が弥夢の首にしがみつき、言ってくる。

「あ…ちょっとな」

「なんだよ元気ないな」

「まあな」

 弥夢は自分の席につき、さっき薫から言われたことを思い出していた。

「俺が…統べる(シグナル)に…?」

 小さく呟くその言葉は誰の耳にも届くことは無かった。

 ――俺が『ジョーカー』…。


 放課後になり、生徒は一斉に下校する時間になった。

 弥夢は特に部活動に所属している訳ではないので、下校するという選択肢しか無く、席から立つと、

「あ、弥夢くん帰るんですか?」

「ああ」

 鞄を肩に掛け、帰る準備を整える。

「では、私も」

 言うと、柚瑠も鞄を肩に掛け、帰る準備を始めた。

 弥夢は「じゃあな」とだけ言うと教室を後にする。

「ちょっと、待ってください」

「ん?」

「一緒に帰ろうと思ったんですけど」

「はい?」

(こいつは何言ってんだ?)

「ですから、霊力的な用件でちょっとお時間が欲しいので、今からうちに来てください」

「うちって…柚瑠の家にか?」

「もちろん」

「なんてこった」

 弥夢がそういうのも無理は無い。なにせ、柚瑠の家に昨晩行ったとき、魔術のテストだとかで電気の剣で襲われたのだから。あまり気が進まないのも仕方が無い。

 しかし、自分の身体に起こっていることをもっと知りたいという気持ちは確かにあった。




       ◇

「ここ…か?」

「はい」

 弥夢の前には『桜井探偵事務所』と書かれた看板がかかった大な家がある。

 昨晩ここに来た時は、意識が無かったので外装までは見れなかったが、今初めて見ると、これは何とも言えない感覚に陥った。

「お前、探偵やってるのか?」

「ええ、まあ」

「マジかよ」

 取り敢えず、中に入り昨日目覚めた時にいた部屋へと向かった。

 柚瑠は適当な場所に鞄を置くと、

「コーヒーでいいですか?」

「え、ああ、お構いなく」

「いえいえ」

 と、コーヒーを作り始める。

「ところで、弥夢くん」

「なんだ?」

 コーヒーを作りながら柚瑠が弥夢へと聞く。

「霊力を使うとに何か身体に異常が起こったり、変化が起こったりしますか?」

「え?何でだ?」

「今、地球上にいる(シグナル)べる者の6人は元々が魔術師でした。それも強大な。ですので、彼らは魔術に適した身体に霊力を宿しているのですが、弥夢くんは昨日まで一般の人でしたので、魔術に適していない身体に霊力が宿っているので、何か身体に異常があるのではないかと思いまして」

「なるほどな。でも、これと行った異常は…」

 弥夢は顎に手を当て、少しだけ考える。

 ――異常、あったな

「そういえば、初めて柚瑠の剣を破壊するときに何か、こう胸の奥が熱くなって、頭の中に戦い方が流れてきたような気がするんだけど、これって異常のうちに入るのか?」

「身体的異常では無いと思いますが…でも、熱くなるというのは少々気になりますね」

 コーヒーを入れ終えた柚瑠が「どうぞ」と弥夢に差し出す。

「それでは、これから弥夢くんはどうするんですか?」

 弥夢は首をかしげて聞く。

「どうするって言うのは?」

「そうですね。このまま何事も無かったように今までの生活を送っていくかということです。もし、神に近い力を得るために、他の統べる(シグナル)に戦いを挑もうとするのなら、それはそれで止めはしません。選ぶのは弥夢くんですから」

 弥夢は俯き、柚瑠が言ったことの意味を考えた。

 神に近い力を手に入れるために他の統べる(シグナル)と戦う。それは、今までの生活全てを捨て去り、一人孤独に戦いに行くということだ。休戦協定を結んでいない七人目の統べる(シグナル)が現れたとなれば、他の六人の統べる(シグナル)は一斉にそれを排除しようとするはずだ。いくら能力が『破壊』に長けているからと言っても限度があるのだ。

 魔術師が魔術を発動する際に、頭の中で演算し、シュミレートしているように、弥夢自身が霊力を使用するときにも細かい設定が必要なのだ。

 弥夢が今まで霊力を使ってきたのは極限状況だったり、一度破壊したものをもう一度同じように破壊したりなど、比較的本能的なことだったが、実践となればわけが違う。

 強大な相手にどこまで通じるか分からないし、第一、自分自身でこの生活を失うのは怖いからだ。

「いや、俺は少なくても、自分からは戦いに行かないと思う」

 すると、柚瑠は優しく微笑み

「分かりました。信じます」

 とだけ言って自分のために用意したコーヒーを一口だけ飲んだ。




         ◇

 柚瑠との話も終え、弥夢が帰ろうと椅子から腰を上げた時だった。

 ピンポーンとインターホンがなる音が家に響いた。

 柚瑠は「はーい」と慣れた手つきで軽く返事をし、扉を開ける。

 開けた先には、五十歳位の女性が立っていた。

 女性は言う。

「それで、調査の方は?」

「犯人であるランス・ヒュア・アルダートは見つけました。ですが、取り逃がしてしまいました。すみません。ですが、次は必ず捕まえて法の裁きを受けさせます」

「お願いします……」

 女性は力なく頭を下げ、柚瑠の家を後にした。

「今のはなんだったんだ?」

 弥夢はゆっくりと柚瑠に聞く。

 すると、柚瑠は不思議そうな顔でこちらに振り返ってきた。

「あれ?言ってませんでしたっけ」

「いや、話してもらってないけど」

 柚瑠が、コホンと小さく咳払いをして続けた。

「そうですか、言ってませんでしたか。いいでしょう。私は、探偵をしているんです。それも魔術事件専門の」

「え?」

 弥夢は初耳だった。まさか同級生の女子が魔術関連の事件専門の探偵をしているだなんて。

「さっきの女性は、連続魔術殺人事件により息子さんをなくしています。彼女は泣きながら私に依頼してきました。『犯人を捕まえてください』と。だから、私はなんとしてもランス・ヒュア・アルダートを取り捕まえ、法の裁きを受けさせます」

 柚瑠の目には恐ろしいくらいの殺気がこもっているように弥夢には見えた。

 確かに、弥夢自身もランス・ヒュア・アルダートのような最低な人間がのうのうと生活していることは許せない。

 だが、柚瑠に勝算があるかどうかは分からない。実際、前回戦った時には若干ではあるが押されて見えたのも事実である。

「お前…、勝てるのか?」

「分かりません。でも、勝ちます。必ず」

 弥夢にはそれ以上柚瑠に何も聞くことが出来なかった。

 その後、弥夢は柚瑠の家をあとにし、自分宅を目指して帰路に着いた。




        ◇

 夕日が沈みそうだった。もうそろそろで夜が来る。思えば、結構柚瑠の家に長居してしまったのだろう。

 ちょうど公園に通りかかった時だった。

「はぁ。ランス・ヒュア・アルダートか…」

 弥夢は無気力にそう呟いた。

『呼んだかい?』

 どこからか、あの奇妙な声が聞こえて来た。

 弥夢は警戒態勢に入り、前後左右を瞬時に確認する。

 だが、彼の姿は見当たらない。

「くっ……、どこだ?」

『残念だね。見つけられないか』

 弥夢は歯を食いしばって聞く。

「どこにいる。用があるなら姿を見せろ」

『それが人にものを頼む時の言い方かい?仕方ないね。君の()()だ』

「なっ――」

 弥夢は慌てて真上、上空を見上げる。

 そこには、何も無い空間にランス・ヒュア・アルダート。奴だけが浮いて存在していたのだ。

「あ、あれは……」

「なに、驚くことはない。単に、魔力障壁を空中に出現させてその上に立っているだけだからね」

 クククとランス・ヒュア・アルダートは奇妙に笑ってみせ、それよりと続けた。

「私が興味があるのはむしろ君の方だよ。少年。なぜ、あの攻撃を受けて生きていられる。ただの人間である君が?興味をそそられるよぉ」

「ふざけんな。人を簡単に殺しておいて、興味も糞もねえ」

 ランス・ヒュア・アルダートはやれやれと首を左右に振り、呟く。

「終わりだ。少年。君は私の興味を引き出せたことを誇りながら逝きたまえ」

 手をかざした。ランス・ヒュア・アルダートの手には、手の平を中心に黒い玉のようなものが発生し始めていた。

 弥夢は咄嗟に左手を構え、それを握る。

 だが、ランス・ヒュア・アルダートの魔術は破壊されることなく、展開を続けている。

「何でだ……」

 ――何で破壊できないんだ……。

「何を握っているのかは知らないが、ここで君は終わりだ。安心しろ、きっと痛みは無い」

 くっと歯を食いしばり、考える。

(どうする。どうすれば良い?)

 その時、弥夢の脳内にある言葉が響く。

――魔術を発生させる際、頭の中で演算し、高速シュミレートをする

――他六人の統べる(シグナル)は全員元魔術でした

「……っもしかして、霊力も頭を使って……」

(集中しろ、集中しろ……あいつの力を破壊する力を導き出すために……)

 弥夢は目を閉じ、それだけを集中して考えた。

 そして、ランス・ヒュア・アルダートめがけて思いっきり左手を突き出し、それを握った。

 すると、ランス・ヒュア・アルダートが展開途中だった魔術は完全に空中で破壊され、魔力障壁も空中に無数のポリゴンの破片となって消滅した。

「こ、これは……っ」

 魔力障壁を砕かれ、足場がなくなったランス・ヒュア・アルダートが呟く。

 が、すかさず新しい魔力障壁が展開され、状態を取り戻した。

「これは一体…?まさか、あの噂は…」

 言うと、ランス・ヒュア・アルダートは地上に降りて、弥夢に一歩一歩近づいてくる。

 弥夢は身構え、戦闘態勢へと移行する。

 ゆっくりとランス・ヒュア・アルダートは言葉を紡ぎ始める。

「もしかして…君は七番目(ジョーカー)か?」

 弥夢の背中に冷たいものが流れた気がした。

(な、なに?なぜやつが俺のことを……)

「そ、それは――」

 弥夢が言いかけていると、ランス・ヒュア・アルダートは手を上げ、言葉を遮って続けた。

「いや、言わなくていい。これは本当に面白くなりそうだ」

「え?」

 弥夢には、その言葉の意味がまるで理解出来なかった。

「それじゃあ、今日のことろは引き上げるとするよ。さらばだ。きっとそう遠く無い未来にまた合うことだろう。電撃刃の少女と一緒にね。城戸弥夢くん」

「なっ…」

 最後の、自分の名前を知っていることが弥夢の心の中にざわめきとして残った。


 こんにちは水崎綾人です。

 ちょこちょこバトルも突っ込んでいきます。私自身、ラブコメのほうが書きやすいのですが、バトルものも書きたいんです!出来ればこれを連載してみたいです。

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