第2話「目覚める能力」
弥夢と柚瑠は並んで夜道を歩いた。
「そういえば、ご両親は海外出張してるってことでしたけど、何をしてらっしゃるんですか?」
「その、喋り方面倒くさくないか?普通でいいぞ」
「え?そうですか。特に私はそんなこと思ってなかったんですけど」
「そうか、なら良いんだけど。えっとな、俺も詳しくは知らないんだけど魔術考古学の学者だっけかな?」
「そうなんですか」
「お前っ、じゃなくて、柚瑠の両親は?」
「私の両親も魔術考古学の……って一緒ってすごいですね」
「だなぁ」
そんな他愛もない話をしている時だった。
唐突に後ろから声がした。
それは、とても奇妙な、どこか不思議な声だった。
「ねぇ~。そこのお二人さん…」
弥夢と柚瑠は、何かと思い後ろを振り返ると、そこには黒と白が半分半分のスーツを着た男が立っていた。
「どちら様ですか?」
弥夢は聞く。
「う~ん。天の使い。かな?」
ケラケラと笑いながら男は答える。
「ねえ、弥夢くん。行こう?」
「待ちたまえ、君たちを天に導いてあげようと思ったのに、釣れないね~」
「あの、俺たちそういうのいいんで」
弥夢は柚瑠の手を引いてその場から離れようとする。
「そうか、ならもう要はないよ。散りたまえ」
男は右手をこちら側に出すと、言う。
「私のこと聞いたことないかな?最近、このあたりでお世話になってるんだけどなぁ」
「このあたりで…最近?」
弥夢の脳内で、そのキーワードで引っかかる結果は一つしか無かった。
――魔術犯罪者。
「お前、まさか魔術犯罪の……」
「その言い方は好きじゃないな。言うなればこうだな『天の使い』だ」
「何を……」
危機的状況故に、柚瑠にまで意識がまわっていなかったが、弥夢はここで柚瑠の方へ視線を放る。
柚瑠は何かを握るような手の形を作っている。
周囲には、空気の渦と若干の電気が発生している。
「ゆ、柚瑠…お前っ」
「弥夢くん、少し離れていてください」
柚瑠の手には、何やら剣のような形状のものが現れていた。
「そ、それは……」
「見つけました。魔術犯罪者。ランス・ヒュア・アルダート」
「おや?私の本名を知っているとは」
「あなたを倒させていただきます」
言うと、電気で形成されたような剣を片手に持ち、男に向かっていく。
弥夢は目の前で起きていることが全く分からず、ただ立ち尽くすだけだった。
「な、なにか……一体?」
「ふん、甘い構えだ。それでは私には勝てません」
「黙ってください」
ブンブンと剣を振っていく。
男はスーツの胸ポケットからハンカチを取り出し、それを柚瑠に向かって投げつける。
ハンカチは投げ出された最初の瞬間こそ、布状だったが、やがて矢のような形状に変換され、柚瑠めがけてものすごい速度で進んでいく。
「そんなものでは無駄です」
柚瑠は剣で矢を切り落とす。
「ククク…、たかだか一本落としたくらいで図に乗ってもらっては困るよぉ」
男はポケットから無数のハンカチを出し、投げてやる。
それは、無数の矢になり降ってくる。
柚瑠は打ち落とすが、さすがに全てを落としきれず、腕や足に切り傷をつけていた。
「おやぁ?まだいたのか君は?」
言うと、男は弥夢の方に目をやりハンカチを投げる。
当然、魔術を持たない弥夢がその攻撃を避けられる訳が無く、
「ぐわぁ……」
弥夢の心臓を一突きし、貫通した。
「弥夢くん!」
柚瑠の叫び声が聞こえる。が、弥夢の意識は徐々に薄らいで行く。
「ははは、傍観者には用は無いんでね」
「くっ……」
柚瑠はものすごい形相になり、電気で構築された剣を男に向かって突き出す。
すると、その剣は刃渡りが伸び、一気に男に向かって進んでいく。
が、男はそれを容易く飛び避け、街灯の上にポンと着地した。
「今日はひとまず退散するかな。君とはまたすぐに出会えると思うよ。それまでにもう少し腕を上げていたまえ」
「あっ……」
男が去っていってしまったことに、柚瑠は悔しさを残した。
だが、今はそれどころではない。実際のところ、男が退散してくれて助かった。
なにせ、弥夢が男のせいで心臓を貫かれているのだから。
「弥夢くんっ……!」
慌てて駆け寄る。
が、柚瑠が目にしたのはとてつもない光景だった。
「なん……で?」
確かに心臓を貫かれたはずで、そのため弥夢の周囲には夥しい量の血液が飛び散っていた。
にも関わらず、当の弥夢には傷がないのだ。
もちろん、心臓もしっかりとふさがっているように見える。
「これは…一体…」
こんにちは水崎綾人です。
実は今回の連載の作品は短編でだそうと思ってたんですけど、長く書きすぎてしまって連載にしました。
ですが、連載だと短すぎるんですよね笑
次話もお楽しみに!