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シグナル・オブ・ジョーカー  作者: 水崎綾人
1/7

第1話「やってっきた転校生」

 どこかの草原。


少年は立ち尽くしていた。


ここはどこだ。そう思う思考すら無くす程の美しい草原だった。


 草はすべて緑で、均一の長さに整えられ、これはもう人工的に管理されているのではないかと言うほどだ。


 だが、この草原にいたのは少年一人だけでは無かった。


 少年の前には一人の少女がこちらを見て立っている。


 どこまでも綺麗な金髪に、白いワンピースと言うどこまでも幻想的な印象を漂わせる少女だ。


 年齢は少年と同じくらいか、それより少し上かというくらいだ。

「本当に……いいの……?」

 少女のか細い声が放たれる。

 少年はそれに呼応するかのように

「ああ」

 とだけ答える。


 すると、大地が揺らぎ始め、立っているのも困難なくらいの大な地震が彼らを襲った。

 少年は立っていられなくなり、その場に立ち膝でしゃがみこむ。

 再び少女に視線を放ると、少女は依然として立ったままだ。


 少年は少女に手を伸ばす。

 決して届くことの無いその距離にいるのに。


――あと少し、あと少しで……。



 次の瞬間、より一層大きな揺れが彼らを襲い、跡形もなく彼らのいたその空間は破壊(・・)された。


 この世界には人の理解を超えた力が存在する。

 人は互いにその力を認め合い、理想的共存をしている。

 この世界には、様々な現象、どんな不可解なことが起こっても不思議ではないのだ。



5年後。

 梅雨特有のジメジメした空気により、少年、城戸弥夢(きどひろむ)がベッドの上で這いつくばっている。

「う…うぅ…」

 どうもこの時期は寝るにはあまり適していない気がする。


 ただでさえ浅い眠りなのに、それを遮るようにリンリンリンと目覚まし時計が元気よく鳴り出す。

「あ……」

 喉から絞り出すような声を発しながら、目覚まし時計に手を伸ばす。


 あと少し、あとほんの少しで目覚まし時計に手が届くというところで、彼の部屋のドアが勢いよく開いた。


 弥夢は驚き、そちらに目を向けると

 そこには――

「お兄ちゃん、起きて。今日も学校でしょ?」

 エプロン姿の妹。(こよみ)がいた。

 暦は言うと、弥夢の部屋に入り、弥夢から布団を取り上げ、たたき起こした。


「な、何すんだよ……」

 無気力に放たれる弥夢の声は、暦の理由の無い笑顔によって吹き飛ばされた。

「ご飯だよ。早く来てね」

 そう言うと、暦はそそくさと弥夢の部屋から出て行った。

「飯か」

 そう呟き、弥夢も部屋から出た。



         ◇

 城戸弥夢と、城戸暦が住む城戸家の両親は仕事柄海外出張が多いのだ。今回はポルトガルに2年間の長期出張とのことで、家事全般は、妹の暦がほとんどをこなしている。


 申し訳程度ではあるが、料理は弥夢にも出来る。


 朝食を取り終えた弥夢は、制服に着替えたり、歯を磨いて顔を洗ったりなど、学校に向かう準備をしている。


 その間も暦は軽く食器を洗ったりしている。

 暦はいつも朝5時には起きて、学校に行く準備をしているので、この時間には既に準備が出来ているのだ。

「お兄ちゃーん。お弁当ここに置いてくよ」

 台所から洗面所に向かって暦の声が放たれた。

「うーい」




「じゃあ、行こっか」

 暦と同じく家を出る。

 これは、シスコンとか言う類のものでは無く、行き先が同じなのだ。


 弥夢は高校1年生で、暦は中学2年生。通常なら学校が違うはずなのだが、彼らの通っている学校は兄弟校で創設者が同じなため、比較的近くに学校が作られたのだ。


 歩きながら暦がそれとなく言う。

「最近、魔術関係の事件多いよね」

「そうだな」

「この辺りでもあったらしいよ」

「まじか」

「うん、それもまだ犯人捕まってないって」

「やばいなそれ。早く捕まるといいな」

「ってお兄ちゃん?さっきから話しスルーしてない?」

「え?いや、してないって。ただ眠いだけ」

「それってスルーしてるって言うんじゃないのー!」

 言うと、暦は弥夢の腕をポカポカと叩いてくる。


「分かった、分かったから」

 弥夢は暦の打撃を制し、なだめる。

 すると、後ろから弥夢に向けられた声が聞こえた。

「お、朝からシスコンやってんな」

「やってねぇよ!」

 声の主は奥仲遥斗(おくなかはると)。弥夢のクラスメイトだ。茶に染めた髪は今日もノリがよく、常日頃から髪の毛を気にしている。


 奥仲は弥夢の首に腕を掛け

「じゃあ、とっとと学校行こうぜ。つーことで弥夢は借りてくわ、暦ちゃん」

 右手を上げ、暦にそう言うと奥仲はとっとと弥夢を連れて行ってしまった。


「痛えっ」

「あー悪い悪い」

 顔の前で、片手だけ上げて軽く頭を下げる。

「いや~、それにしてもいつ見ても暦ちゃんは可愛いな。弥夢の妹だとは思えないな」

「うるせ」

 どこまでも失礼なやつだと思いながら、校門をくぐる。

「ああ、ちょっと待てよ」

「なんだよ?」

「置いてくなっての」

「はい、はい」

 弥夢は渋々奥仲と一緒にクラスまで歩いて行った。


 クラスに着くと、そこはどうも騒がしかった。

 一体何があったのだろうと奥仲と目を見合わせていると、幼馴染みの桐谷奏(きりたにかえで)が弥夢たちの方に来て、告げた。

「ねえ、知ってる?転校生が来るんだって」

「まじか!?」

「まじで?」

 奥仲と弥夢が交互に反応すると、奏は自慢気に腰まである茶髪の綺麗な髪を、右手の人差し指でクルクルと巻いてさらに言う。

「そうよ、まじよ。私が職員室に行った時に先生たちが喋ってんの聞いたんだから」

 どこまでも自慢気な奏は、心なしか頬が赤く染まって見えた。


 しばらくすると、クラスに担任の花見静夏(はなみしずか)が入ってきた。

 静夏は、魔術の道にも長けているため、魔術犯罪などにも警察に協力している。

 そのため、綺麗な外見の奥に殺気のような者を感じる時がある。


 静夏は、黒板の前に立つとハキハキとした声で言った。

「では、何だかもう盛り上がってますが、転校生がきました。どうぞ」

 そう言うと、静夏は扉の方に手を指し、転校生が入ってくるのを待った。

 待った。そう待った。

 クラス中に「あれっ?」と言う声が木霊した。


 いよいよ心配になった静夏が扉に向かった。

 静夏が扉を開くと、そこには一生懸命に何やら紙を読んで練習する転校生の姿があった。

「ど、どうしたの?」

 静夏が聞く。

 すると、転校生は我に帰ったように静夏の存在に気づき、驚いたように反応する。

「――っ、せ、先生。えっと…その、自己紹介の練習を……」

「あー、そうなの?じゃあ、中に入って練習の成果を出して」

「は、はい」

 やや申し訳なさそうに教室に入ってくるその少女は、とても美しい容姿をしていた。

 腰のあたりまである長い黒髪。それを強調する白い肌。どこまでも整った顔立ち。恐らく、クラス中の男子のアイドル的存在になるだろう。


 それに、女子は女子であまりの美しさに可愛いという声があちらこちらで聞こえる。

「えっと、じゃあ気を取り直して自己紹介よろしく」

「はい」

 元気よく返事をし、転校生の少女はポケットから紙を出して、それを見ながら喋りだした。


 そう、その紙とはカンペだったのだ。

(あいつ自己紹介でカンペ使うのか。それも堂々と……)

 と、心の中で弥夢は思った。

「は、初めまして。さ、さく、桜井柚瑠(さくらいゆずる)です。は、はひゃく、早く皆さんと仲良くなりたいので、よろ、よろしくお願いします」

 ペコリと頭を下げた。


 柚瑠は緊張のあまり、とてつもなく短い文章のはずなのに噛みまくってしまった。

「えっと、じゃあ桜井は……あっ、城戸の隣が空いてるな。そこに座ってくれ」

「はい」

(はぁ~。失敗しちゃった……)

 柚瑠は軽くうなだれ、静夏が指定した席に向かった。

「よ、よろしくね」

「あ、うん。よろしく」

 柚瑠は軽く微笑み、というよりは苦笑いで弥夢に挨拶をした。弥夢は弥夢で返す言葉が見つからず、そっけない言葉でしか返事出来なかった。




        ◇

 朝のホームルームが終わると、弥夢の周りもとい柚瑠の周りは大盛況となった。

 それは、弥夢の居場所を侵略されるくらいに。


 弥夢は自分の席から追い出され、クラスの後ろのある微妙な空間に来ていた。

「ああ…落ち着く」

「どうしたんですか?」

 見るとそこには方まである黒髪で、メガネをかけた女子、内田香織(うちだかおり)が弥夢を見ていた。

「ああ、いや、転校生が人気でさ。人気が冷めるまでは席居づらくてな」

「そなんですか」

 言うと、弥夢の隣にそっと並ぶ。

「疲れているのなら回復魔術(ヒール)かけて上げますが」

 香織は魔術が使えるのだ。この学校というより、この世界の学校はどこの学校も基本的に魔術を使える人間と使えない人間の両方が在籍している。


 香織はその魔術が使える数多くの生徒の一人だ。

「いや、大丈夫だ。それじゃ、お前の方が疲れちゃうだろ?」

「そんな……」

 そっと、香織は弥夢から目を外す。

 とにかく今は転校生の人気は半端無く、弥夢の居場所がなくなってきていると言うことだ。これは、どうにかしないといけないと弥夢は心の中で僅かに思った。




         ◇

 放課後のなり、生徒の下校時刻になっても柚瑠の人気は熱を帯びたままだった。

「ねえ、ねえ柚瑠ちゃん。これからクレープ食べに行くんだけど来ない?」

「そうだ、一緒に洋服買いに行かない?」

 などと、主に女子からの人気が高く、男子は話に行きたくても行けない感じになりつつあった。

「大変だな~転校生も」

 弥夢は小さくそう呟いた。

「何、他人事みたいに言ってんだよ?」

「いや、他人事だろ」

「お前なぁ~」

 奥仲が何を言いたいのかが弥夢には分からなかった。

「で、今日はもう帰るか?弥夢」

「そうだな。疲れたし帰るか」

「そうか、じゃあな。俺は寄るところあっから」

「分かった。じゃあな」

 弥夢は右手を上げ、奥仲に別れの挨拶をし、帰路に付いた。




        ◇

「たでーまー」

 弥夢が発した言葉には誰の反応も無かった。

 それもその筈である。まだ、暦は帰ってきていないのだから。

 これで反応があったら逆に怖い。

 弥夢は台所に行き、コップいっぱいにオレンジジュースを注いだ。


 それを思いっきり飲み干すことで、活力を回復するのだ。

「あ~うまい」

 暦が帰って来る前に風呂掃除くらいやっておくかと思い、弥夢は風呂掃除に向かった。

 が、いつも暦が完璧にやってしまっているので、洗剤がどこに置いてあるか分からない。完璧な収納の故、今やろうと思った素人には、暦の収納場所がてんで分かんないのだ。

「ど、どこにあるんだ……」

 弥夢は妹の完璧さに絶望した。

 なんだかんだで、風呂は洗えず暦の帰りをただ待った。


 しばらくすると

「ただいま~」

 と、実に可愛らしい暦の声が家に響いた。

「おかえり」

 弥夢が言うと、

「今、晩ご飯作るから待っててね。お兄ちゃん」

 暦は制服から部屋着に着替え、すぐさま台所まで降りてきた。

 すると、直ぐにエプロンをつけ晩ご飯の準備をし始めた。

「なあ、暦。風呂洗うから洗剤の場所どこか教えてくんね?」

「え?大丈夫だよ。もう朝のうちに洗ってあるから」

「え……?」

 弥夢は心底驚いだ。なにせ、自分が手伝いをしようと思ったら、それがもうやってあったのだから。

「ああ、そうか……」

「ご飯できたら呼ぶから、お兄ちゃんは何か暇つぶししててよ!」

 暦に言われ、弥夢は渋々自室へ戻った。




        ◇

 晩御飯も食べ終え、弥夢と暦はリビングでゆったりとしていた。

「あ、そうだ」

 そう言って弥夢は何かを思い立ったように立ち上がった。

「どしたの?」

「ん?コンビニ行こっかなって」

 暦はソファーに寝転びながら言う。

「じゃあさ、牛乳と何か適当にジュース買ってきて」

「お遣いか。オーケー分かった」

 言うと、弥夢は玄関を出て、コンビニに向かった。


 弥夢たちが住むこの街は神ケ谷市と言う。中でも、弥夢が住んでいるのは神ケ谷市でも郊外の住宅街だ。

 住宅街であるため、家の周りには家しかないのだ。

 そのため、少し歩いたところにコンビニがある。


 梅雨の時期のこのジメジメした空気の中で夜に歩くのは少々キツいものがある。

 コンビニまでの夜道を歩きながら、弥夢は呟く。

「えっと…、牛乳と適当にジュースっと」

 住宅街であるため、民家の電気のお陰で、割と道が明るい。そのため、道を照らしているのが街灯なのか家の電気なのかが分からない程だ。


 コンビニにつき、弥夢は暦に頼まれたものを探し出す。

 牛乳を探していると、そこには弥夢が知る顔があった。

「えっと……」

「あ、こ、こんばんは」

「あ、どうも」

 それは、今日転校してきたばかりの転校生。

 ――桜井柚瑠(さくらいゆずる)だ。

 適当に挨拶すると、弥夢は牛乳を手に取り買い物かごに入れてやる。

「お遣いですか?」

「え?ああ、妹から頼まれたんだ」

「そうなんですか。って、え?妹さんいらしたんですか?」

「ああ、中学2年生だ」

「そうなんですか」

 柚瑠は大きく頷き、柚瑠もまた牛乳をカゴに入れる。

「お前は?」

「私は足りないものを買いに来たんです」

「そうなんだ。お前って、もしかして一人暮らし?」

「お前じゃなくて、私には桜井柚瑠って言う名前があるんですよ。ちゃんと名前で呼んでください」

「ほぇ?えっと、名前でっつったって…」

「なんですか?私は名前で呼ばせていただきますよ。弥夢(・・)くん」

「くっ……分かった、分かったよ」

 弥夢は頭を落としながら答える。

「お前が名前で呼ぶなら…俺も名前で呼ぶか。えっと、ゆ、柚瑠…」

 恥ずかしさ故に弥夢は柚瑠から視線を話して答えた。

「はい、それでオーケーです」

 柚瑠はにこやかな笑顔で答えた。

 本当何を考えてるか分からないと心の中で思いつつ、話は続く。

「そうですね、私は一人暮らしですよ。両親は、その……海外出張で」

「ふーん。うちと同じか」

「へ?」

「いやな、うちの両親も海外出張で2年間くらい帰って来ないんだよ」

「そうなんですか」

「ああ」

「今日は、牛乳だけ買いに来たんですか?」

「あ、そうだった」

 弥夢は、慌てて適当なジュースを取り、自分の買い物をするために衛生商品のコーナーに向かった。

「よし…っと」

 洗顔剤を手に取り、一息つく。

 レジに向かい、会計を済ませる。

「お会計終わりました?」

「ああ」

 財布をポケットにしまいつつ柚瑠の問いに答えた。

「じゃあ、私家こっちなんで」

「ああ分かった」

 柚瑠と別れようとしたとき、弥夢の頭の中に今朝、暦が言った言葉がフラッシュバックした。

――最近、魔術関係の犯罪多いよね

――しかも、まだ犯人捕まってないって

「あ、ちょっと待って」

 弥夢は気付いた時にはもう、声をかけていた。

「なんですか?」

 柚瑠は振り向き、答える。

「最近、このあたりでも魔術犯罪が多いって言うから、その…送ってくよ」

「え、いいんですか?」

「まあな、一人じゃ危ないから」

「ありがとうございます」


 こんにちは水崎綾人です。

 今回は前々から試してみたかったバトルものです。

 ですが、試験的な連載なので本連載ではありません。本連載のため、評価や感想を頂けると参考になります。

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