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短編6

 

「アディ様はどんなことをされたら嫌ですか?」


 そうパルフェットに問われ、アディが頭上に疑問符を浮かべた。

 この小動物のような令嬢がどういうわけか「嫌なこと」を聞いてくるのだ。例えばこれがメアリの好きな食べ物やメアリの好きな本やメアリが普段どんなことをしているのか等ならば聞かれる理由も分かるし間髪入れずに答えることも出来るのだが、いかんせんこの質問には悩んでしまう。

 そもそも理由が分からない。いったいどうして……と、そう疑問を視線に込めてパルフェットを眺めれば、彼女は言い難そうに視線を泳がせた後、


「ガ、ガイナス様に酷いことをしたいんです!」


 まるで子供が決意したと言いたげな表情で訴えてきた。




 ガイナス・エルドランドは一度はリリアンヌの手に落ちパルフェットとの婚約を破棄したが、それでも彼女の温情で再構築のチャンスを与えられた。

『一年間、毎日エルドランド家の花と愛の言葉を』

 と。その条件を聞いた時こそ何ともこっぱずかしいものだと思いもしたが、メアリがニマニマと笑いながら話していたあたり年頃の令嬢達にとっては甘く魅力的なのだろう。マーガレットとカリーナが一年間通してうんざりとした表情を浮かべていたところを見るに例外もいるようだが。

 もっとも、それすらももう終わったこと。色々と面倒事はあったもののガイナスは一年間を乗り切り、二人は再び婚約関係に戻ることが出来たのだ。

 だからこそ突然のパルフェットのこの質問にアディは首を傾げてしまう。

 二人は順調に進んでいると聞いた。それどころか一年間を終えた今でもガイナスは毎日彼女に花と愛の言葉を捧げるという熱の入れよう。対してパルフェットはいまだ意地悪に姿を晦ましたりもするらしいが、それでも最後にはちゃんと自分を探す彼の目の前に現れるのだという……。

「昨日もまたパルフェットがどこかへ行ってしまって探し回ったけど、夕刻過ぎには俺の元へと戻ってくれた」

 そう語るガイナスの嬉しそうな表情といったらない。つまるところパルフェットの意地っ張りもまた愛でしかなく、彼女達もまたバカップルなのだ。

 そこまで考えて、はたと気付いてアディが頷いた。

 なるほど、つまりパルフェットはガイナスに彼女なりの『酷いこと』をしたいのだ。はたから見れば砂糖まみれで、ガイナスもにやけてしまいそうな『酷いこと』を……。


「それで、どうして俺に聞くんですか?」

「他の方にも聞いてみたんです。でもメアリ様は冷やかしてくるし、マーガレット様は大胆すぎて……カ、カリーナ様は……カリーナ様は……!」


 カリーナの言葉を思い出したのか、パルフェットがフルフルと小刻みに震えだす。それどころか「ひとのできる所業とは思えません……!」と涙目になるのだからこれにはアディも慌ててしまう。

 いったい何を提案したんですか、と脳裏に浮かぶカリーナに問うも彼女は冷酷な笑みを浮かべるだけなのだ。その美しい笑みが末恐ろしく、彼女の発言を想像するだけでも――そしてそんな想像すらも彼女からしてみれば甘いのだろうと考えれば――寒気が伝い、アディまでもが震えてしまう。


「そ、それで俺の所に来たんですね! 分かりました!」

「カリーナ様が……カリーナ様が、ヒァアア」

「分かりましたから! 記憶のカリーナ様にはお帰り頂いて、俺と話をしましょう!」


 パルフェットを宥めて落ち着かせ、まだ小刻みに震えながらも「よろしくお願いします」と頭を下げる彼女にアディが一息つく。

 曰く、カリーナの提案に対して真っ青になって震えて否定したところ――いったいどれだけ恐ろしいことを提案されたのか――カリーナが「それなら」とアディの名を挙げたのだという。従者として勤めるアディなら、『我儘な令嬢』のする『酷いこと』を知っているかもしれない……と。

 それを聞いてアディが「なるほど」と頷く。確かに、そういう点では貴族の令嬢や子息のしそうな『酷いこと』は知識としてある。


「アルバート家は寛大な方ばかりですから酷い目になんて遭ってませんが、確かに他家で働く友人達からはよく話を聞きますね」

「それです! それをお聞きしたいんです!」

「そうですねぇ、例えば酷いのだと……殴る蹴るとか、物を投げつけられたり」

「マ、マーキス家だってそんなことしません……!」


 フルフルと涙目で震えだすパルフェットに慌ててアディが「ほんの一例です!」と訂正をする。

 どうやらパルフェットには刺激が強すぎたようだ。もう少しソフトな『酷いこと』を……と、友人達から聞いた愚痴話を脳裏に蘇らせる。

 貴族の家は多々あり、そのどれもがアルバート家のように寛大なわけではない。中には先程の暴力的な横暴さがまかり通る家もあり、金を払っているのだからと当然のように物扱いしてくる家だってある。中には不埒な当主や子息が権力を笠にメイドを……なんてことも有り得ない話ではないのだが、勿論こんな話をパルフェットに言えるわけがない。泣き出すどころか卒倒しそうだ。

 ……いや、この話を参考に彼女がガイナスを襲うのであれば問題無さそうだし、案外にガイナスも喜ぶかもしれないがそれはまた別の話として。

 とにかく、と改めてアディが記憶をひっくり返す。


「そうですね……例えば、やんちゃなご子息に木の棒で叩かれたり」

「そ、それぐらいなら私にも……でき、できません……」

「それならあとは、あとは……や、柔らかいものを投げられたり」

「……ふかふかのクッションなら大丈夫でしょうか。ぬいぐるみは?」


 恐る恐る尋ねてくるパルフェットにアディが瞳を細めた。彼女の中の『酷いこと』があまりにも酷くないからだ。

 いったいどこの世界にふかふかのクッションを投げる『酷いこと』があるというのか。ぬいぐるみに至っては「綿が詰まっていて固いですね」と断念する始末。

 元より彼女が優しく温厚で、横暴や暴力とは無縁の世界で育ってきたことがよく分かる。分かるからこそ難題なのだ。

 そもそも、このパルフェットの『酷いことをしたい』という言い分自体がガイナスに対して愛情の裏返しの――裏返ってない気がするが――意地悪なだけであって……と、そこまで考えてアディが「そうだ」と顔を上げた。




 エルドランド家の中庭には一脚の長椅子がある。

 背後に構えるように外灯を設けられたそこは夕刻でも適度な明るさがあり、それでいて赤く染まる中庭を眺められる絶景の場所である。

 夕食前の時間をここで過ごすのがガイナスの日課であった。一日を振り返り明日の予定を立て、まだ日が残っている内は本を読む。心落ち着く時間でもあり、そして己を見直す時間としても有意義に過ごしていた。

 もっとも、それも問題なくパルフェットに会えた日に限ってのことである。ふらとどこかへ行ってしまう彼女を追いかけて日課どころではない日もあるのだが、少なくとも今日は日課として中庭を眺める余裕があった。

 そうして今日一日を思い出し……赤面する。今日は日中パルフェットとお茶をしていたのだが、その際にエルドランド家の花を砂糖漬けにして彼女のケーキに乗せて出したのだ。原型を崩さず砂糖漬けにするのは元来細かい作業が苦手なガイナスにとって苦難でしかなかったが、それでもエルドランド家に仕えるパティシエ指導のもとなんとか彼女の口に運ぶことができた。

 その時のパルフェットの嬉しそうな表情と言ったらない。きらきらと瞳を輝かせ、何度も「素敵」「可愛らしい」と愛でていた。最後の一口に取って置き、それをゆっくりと愛でるように口に運ぶ仕草の愛らしさ。形良く柔らかな唇が砂糖漬けの花びらを食む光景に思わずガイナスが見入ってしまったほどである。

 それを思い出せばパティシエとの苦難の道や失敗作としてメイド達のおやつとなった花達も浮かばれるというもの。そんなことを考えていると、静かな庭園にカサと葉を踏む音が響いた。顔を上げればそこには愛しい令嬢の姿。


「……パルフェット、どうした?」

「こんばんはガイナス様。おばさまに御夕飯に誘われましたの。お隣、座ってもよろしいでしょうか?」

「あぁ、もちろんだ」


 慌てて長椅子の横にずれ、彼女のワンピースが汚れないようにと手で払う。

 そうして招くように一度彼女を見れば、それを察してかパルフェットが椅子に腰を掛けた。


 ガイナスからしてみれば夕飯前の長閑なひと時、そしてパルフェットからしてみれば『とっておきの酷いこと』の開始である。




 そんな互いの認識の差はさておき、静けさが伝う。

 最初こそ他愛もない話をしていたがそもそも日中一度お茶をしているのだ、今更とりたてて話すこともなく沈黙に変わるのも当然と言えば当然。

 そのタイミングを見計らい、パルフェットがそっとガイナスに寄り添った。瞳を閉じて彼の肩に頭を預け、小さく開いた唇からゆっくりとした呼吸をもらすのも忘れない。


「……パルフェット?」


 と聞こえてくるガイナスの声に「寝たのか?」という確認の意味が含まれているのは言われなくても分かる。

 だからこそ目を閉じ、応えるでもなく彼に体重を預けた。所謂タヌキ寝入りである。

 リリアンヌが現れるまで平穏の中で生きてきたパルフェットにとって人生初のタヌキ寝入りではあるが、それでも夕刻過ぎの暗さがあってかガイナスは気付かなかったようだ。寝入ってしまった令嬢を愛でるような小さな笑みと、そして本を開く音が閉じた視界の中で聞こえてくる。

 それを確認しパルフェットが内心で安堵したのは、これこそまさにアディから教わった『酷いこと』の第一段階だからである。


『まずはガイナス様の肩にもたれかかって眠ったふりをするんです』

『それが酷いことになるんですか?』

『えぇ、話をしていた相手が眠ってしまうことほど辛いものはありません。起こすこともできない、立ち上がれない……あぁ、なんて恐ろしい!』

『そ、そうですね!分かりました!』


 と、そんな会話を思い出す。

 そうして第一段階完了と次の展開を予想すれば、身体を預けていたガイナスがもぞと動き出した。

 パルフェットが内心で「さっそく!」と声をあげる。「アディ様、さっそくガイナス様に動きが!第二段階です!」と、もちろん声には出さないがアディに報告する。

 そうしてもぞもぞとガイナスが動き、僅かにパルフェットの体が元の位置に戻された。押されるような、支えられるような、ゆっくりと動きを促す彼の腕に全身を預けて寝たふりを続ける。そうして再びガイナスの肩に戻されれば、パルフェットの肩にふわりと何かが掛けられた。ほのかな暖かさが肩を包む。馴染みのある落ち着く暖かさ。

 それを感じながら、パルフェットは閉じた瞳のままアディとの会話を思い出した。


『きっとガイナス様は上着をかけてくださると思いますが、これはパルフェット様を起こそうと企んでいるんです。騙されずに寝たふりを続けてくださいね』

『なるほど、高度な作戦ですね!』

『その際にちょっと頭を撫でたり髪を掬ったりするかもしれませんが、これも起きてはいけません』

『はい、アディ先生!』


 そんな会話を脳裏に蘇らせ、パルフェットが内心で頷いた。

 なるほど確かに全て彼の言う通りの流れ……と、そう思いつつも心のどこかで「頭を撫でてくれないんですか?髪を掬ってくれないんですか?」とションボリとしつつ次の行動の時を待つ。


 そうしてしばらくは風が葉を揺らす音と、時折ガイナスが本のページを捲る音だけが聞こえてくる。

 どれだけ経ったかは目を瞑っているパルフェットには分からないが、それでも心のなかでゆっくりとした時間の経過とガイナスの暖かさを感じ「そろそろかしら」と内心で呟いた。彼に体を預け、肩には上着をかけてもらい、まるで包まれているような感覚にタヌキ寝入りではなく本当に微睡みはじめてしまったのだ。

 それに元々夕飯に誘われていたのは事実で、そう長いこと時間をかけてもいられない。

 だからこそパルフェットは意を決して「んっ……」と小さく声をあげると彼に擦り寄った。内心は恥ずかしさが募るが、それでも胸に抱くのは彼に包まれているような安らぎと、それに日中に貰った砂糖漬けの花の甘さ。それに比べればこれぐらい……!と、彼の肩から沿うようにして胸元に額を寄せる。


「パルフェット、起きたのか……?」


 確認するかのような彼の声には返事をしない

 そうして脳内でアディとの会話を思い出す。確か彼は次に……

『ガイナス様の胸元に擦り寄ったら、少しだけ上を向くんです。彼の方を向くように……もちろん、目を瞑ったままですよ』

 と、確かそう言っていた。いったいどうしてそれが『酷いこと』なのか理由が分からずに問えば、彼はどういうわけか明後日を向きながらそれでも、

『……男だからです』

 とだけ答えてくれた。今一つよく分からないが先生(アディ)の言う通りにしようと、胸元に擦り寄ったまま自然な流れを取り繕ってそっと彼を見上げる。

 ガイナスとの付き合いは長く幼い頃から彼だけを見ていたパルフェットにとって、目を瞑っていても彼の顔がどこにあるか分かる。何度かこうやって彼に体を預けて転寝してしまうこともあったし、その逆だってあったのだ。

 だからこそ以前のように体を預け、閉じた視界の中に思い浮かべたガイナスを見上げる。彼の自分を呼ぶ声に僅かな戸惑いの色が浮かび上がるが、これもまたアディの言う通りである。


「……パルフェット」


 再び彼が自分を呼んでくる。そうしてゆっくりと頬に触れるのは彼の手だ。

 そっと撫でられるとパルフェットの胸が暖かく灯り、唇に振れる指が砂糖漬けの花の甘さを思い出させる。

 それと同時に彼の体が動くのを感じ、パルフェットの心臓がキュウと締め付けられた。震えないようにと拳を握りたくなるが、それをグッと堪える。

 そうして緊張と高鳴りのなか、それでも脳内でアディとの会話を思いだした。


『次はなんでしょうか、アディ師匠!』

『次がいよいよ最後です。良いですか、きっとガイナス様は……』


 その言葉を聞いた瞬間、パルフェットは思わず顔を真っ赤にしてしまった。まさかそんな!と。

 ――もちろん話しているアディも流石に赤面していたのだが、それでも『間違いなくそうなります』と告げるのは彼が常習犯だからである――

 とにかく、この後の展開を心の中で想定し、パルフェットがその時を待った。


 きっとガイナスは寝ているパルフェットに口づけをしてくるだろうから、その直前で起きてやる。それがアディの提案だった。

 彼曰く『これをやられたらしばらく立ち直れない』とのことで、赤面しながらもパルフェットはコクコクと頷いて返した。

 口付けされる直前、彼が顔を寄せてきたところで目を開けて、そして彼をガッカリさせてやるのだ……。



 でも、心の中では『このままで』なんて思いも浮かぶ。



 そんな両極端な考えにどうしたものかと悩んでいると、頬を撫でていた手がピクリと揺れ、まるで促すように顎に指を沿わされ……。




「そんなことがあったのね」


 とは、それから数日後。アディの部屋のベッドでゴロゴロと転がるメアリの言葉である。

 彼が用意してくれたマイクッションを抱きしめながら話を聞いていたが、あまりの甘ったるさに耐えきれなくなって悶え転がって今に至る。

 言いだしたアディもまた顔を赤くさせハタハタと自分を扇ぎながら、それでも「上手くいくと思いますよ」と後押しをした。そもそもパルフェットがガイナスに意地悪をしようとしたのだって日中の砂糖漬けの花のお返しでしかないのだ。嬉しそうに花のことを語り、そうしてコホンと咳払いをしたのちに「それでガイナス様に酷いことをしようと思うのです」と語る彼女の真意など探るまでもない。

 だからこそ教えてやったのだと告げれば、クッションに顔を埋めてジタバタしていたメアリが息を切らせながら「そうなのね」と顔をあげた。その表情が僅かに惚けているあたり、彼女もまたこの甘ったるさを好む令嬢の一人なのだ。


「それで今日会ったあの子の頭上に花が咲いていたのね」

「えぇ、でも俺は寸前で目を開けてガッカリさせるよう案内したんです。男にとってお預けほど辛いものはありませんから。でも多分あの調子だと……」

「そうね、多分……」


 ふぅと息を吐いてメアリがやんわりと笑う。

 本日アルバート家に遊びに来たパルフェットはそれはそれは浮かれた様子で、頭上にホワホワと砂糖漬けの花が咲いていたのだ。

 直前で目を開けてガッカリさせてやったのならこうはなるまいと察したアディは特に何も言わずにいたが、流石にそれを不審に思ったメアリには話をした。これこれこういうわけで……と、そうして今に至る。

 それを思い出しつつやんわりと微笑むメアリを眺め、紅茶を一杯注ぐ。内心で「上手くいった」と小さく呟いたのはアディなりに初志貫徹できたからである。


 パルフェットはガイナスに『酷いことをしたい』と言っていた。

 だからこそこうなるようにと教えてやったのだ。

 寸前のところでパルフェットが目を開ければ、ガイナスにとっては『直前でお預け』という辛いことになる。

 もしもパルフェットが目を開けなければ、きっとガイナスはそのまま彼女に口づけをするに違いない。そして……。


「アディ、明日は遠出しましょう」

「どこに行かれるんですか?」

「ちょっとエルドランド家にお邪魔しようかと思って。少しだけ話を聞かせてもらうだけよ。朝一に出るから馬車を用意してちょうだい」


 ホホホ……と上品に笑いながら紅茶を飲むメアリに、アディがわざとらしく頭を下げて「かしこまりました」と答えた。

 そうして顔を上げる時に小さく舌を出すのは、これこそまさに『酷いこと』だからである。そのしてやったりと言わんばかりの表情に生憎とメアリは気付かず、エルドランド家ではガイナスがクシャミと同時にフルリと体を震わせ、隣に座るパルフェットに心配そうに顔を覗かれていた。




おまけ



「というわけで、男にとって『お預け』はそれはもう筆舌に尽くし難いほど辛いものなんです」


 そう真顔で語るアディに、彼に布団に押し倒されたメアリが「ふむ、なるほど」と頷いて返した。

 どうやら相当辛いものらしい。その真剣な訴えように思わずこちらまで真顔で返してしまう。場所はベッドの上で、布団に押し倒されるという格好ではあるが互いに瞳は真剣そのものである。

 仮にここに第三者が居れば「なにやってるんだか」と呆れてしまうだろう。だがそもそも第三者が居ればもう少し二人もまともなやりとりをするし、元を返せばアディはメアリを押し倒したりしない。ゆえに二人きりの二人ならではの行動である。

――それをバカップルのイチャツきというのだが、勿論二人はそれを知って……いる。重々承知の上である――


「なるほどそうなのね」

「そういうものなんです。お分かりいただけたでしょうか」

「えぇ、理解できたわ」


 そう答えてメアリが笑う。そうして自分に覆い被さるアディの首に腕を回して抱きついた。


「アディ、明日の予定は変更よ」

「どうなさいました?」

「朝一の出発は取りやめて、お昼ぐらいに出発しましょう」


 クスクスと笑いながらメアリがすり寄れば、アディもまた笑いながら「かしこまりました」と返した。




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