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その後の更に後の話※アリシアとパトリック※1

 


「アディさん、行きましょう!」


 とアリシアに腕をとられ、アディがおやと首を傾げた。

 お嬢ではなく、俺と……?と、だが現にアリシアはメアリではなくアディの腕をとり、それどころか「早く行きましょう!」と急かしてくる。仮にこれが「メアリ様、アディさん、行きましょう!」ならいつものことなのだが、今のアリシアにメアリの名を呼ぶ様子はない。


「アリシアちゃん、行くってどこに?」

「招待状を渡しに行くんです!」

「招待状……あぁ、アリシアちゃんとパトリック様の結婚パーティーの」

「メアリ様が『友達には直接手渡しするべき』って仰ってました」


 だから、と話しながら引っ張ってくるアリシアに、アディが引かれるまま歩きながらなるほどと頷いた。

「大切な友達ならば手渡しで」とは、他でもなく自分たちの結婚パーティーの準備中にメアリが言われた言葉。つまりメアリがそれをアリシアに話し、そして動き出した……と。

 なるほど、それは分かる。なんとも彼女らしい話ではないか。……だけど


「なんだって俺と行くんだ?」


 そう、疑問なのはそこだ。

 友人に招待状を渡しにいくのであれば、メアリか、それこそパトリックがいるであろうに。そうアディが問えば、アリシアがわずかに眉尻を下げて「それが……」と口を開いた。


「それが……パトリック様もメアリ様も忙しいそうで……」

「アリシアちゃん!? 俺も一応仕事があるからね! 公私問わずお嬢にくっついてるけど、あれでも公の部分はちゃんと仕事としてやってるからね!?」


 流石にそこはアルバート家に代々仕える一族としてきちんと訂正しておきたいところである。

 ――仮にここにメアリがいれば「結局、公の部分をクビにしそこねた」とでも言いそうなものだが、ここだけの話、あの態度も含めてアルバート家に仕える一族なのだ――

 だがそんなアディの必死な訴えにアリシアが僅かに目を丸くしたのち、話を理解したのか「大丈夫です!」と頷いて返した。


「大丈夫です、アディさんが働き者なのは分かってます! それに元々はメアリ様をお誘いしたんです。そうしたら……」

「そうしたら?」


「メアリ様、『アディを貸してあげるから、そのとても美味しそうな香りのするバスケットを置いてとっとと行ってらっしゃい!』って仰って……」


「売られた、これ完璧に売られた」

「そう言うわけですから、行きましょうアディさん!」

「はいはい……」


 意気込むアリシアに腕を引っ張られ「もうどこにでも着いていくよ……」とアディが情けなく呟きつつアルバート家の屋敷をあとにした。



「ふむ」

 とメアリが呟いたのは、窓から見えるアディとアリシアの姿を見送って直後。

 首尾良く二人を屋敷から去らせ、おまけにコロッケも手に入った。なんて策士なのかしら……と自画自賛で思わず頬が緩む。

 そうしてあらかたの資料を用意して待てば、コンコンと部屋の扉がノックされ、顔を覗かせたメイドが来客を告げた。




 アディとアリシアを乗せた馬車が――途中何度も休憩を挟み――向かったのは隣国にあるマーキス家。

 貴族の中でもさして高い地位にあるわけでもないその家は突然の王女訪問に当然だが騒然とし、まさに上を下への状態だった。それはもう、アディもアリシアも唖然としてしまうほどに……。

 ――アリシアはアルバート家訪問と同じ感覚で「パルフェットさんの家に遊びに来た」程度だったのだ。そしてアディはと言えば、改めて「そうか、アリシアちゃんって王女様か……」と再認識していた――

 とにかく、突然のアリシア王女訪問にマーキス家が大騒ぎの中、目当ての人物がパタパタと駆け寄って二人の名前を呼んだ。


「アリシア様、アディ様!」


 と。もちろんパルフェットである。

 彼女の登場にようやく我に返ったアディとアリシアがそれぞれ挨拶を交わす。

「パルフェットさん、ごきげんよう」とスカートの裾をつまんで挨拶をするアリシアの姿のなんと優雅なことか。これには思わずアディが脳内で「ちゃんと出来るなら私にも普通に挨拶しなさいよ!」と妻の声を聞いた。


「今日はいったいどうなさったんですか?」

「パルフェットさんにこれを渡しに来たんです!」


 嬉しそうに笑いながらアリシアが取り出したのは一枚の招待状。

 勿論それはアリシアとパトリックの結婚パーティーの招待状なのは言うまでもなく、それを見たパルフェットの瞳が一瞬にして輝きだした。


「美味しいケーキをたくさん用意して待ってますから、是非パルフェットさんも来てください!」

「はい、勿論です!」


 ケーキ仲間からの招待状にパルフェットが嬉しそうに微笑み、まるで宝物を授かったかのように大事そうに両手で招待状を持つ。――もっとも、実際に王女直々に招待状を渡されたのだからマーキス家からしてみれば家宝同然なのだが、この場合の「嬉しい」が貴族としての云々ではないのは言うまでもない――

 そんなパルフェットの表情の、そして「待ってますね」と返すアリシアの微笑みのなんと愛らしいことか。美しい女性二人の友情を前に、「これなら今日一日つきあってもいいか」とアディが苦笑をもらした。


 もっとも、次に訪れた家で早くもその考えを撤回するのだが。



「わざわざアリシア様自ら届けてくださるなんて光栄です。いつだって受け取りましたのに……ダイス家で」

「えへへ、サプライズで渡したかったんです」

「まぁアリシア様らしい。でも頻繁に会ってるのに、そんなことを考えてらっしゃるなんて少しも思いませんでしたわ。……頻繁に会ってるのに、ダイス家で」


 ホホ…と優雅に微笑むマーガレットに、アリシアが嬉しそうにニッコリと頷いて返す。

「いつもお会いするから、いつか気付かれてしまうんじゃないかとドキドキしてました」と無邪気なその返答は、それほどマーガレットがダイス家を訪れているということである。それを察してアディがヒクと頬をひきつらせた。

 だがそんなアディに対してもマーガレットは優雅な笑みを崩さず、ついで受け取った招待状に視線を落とすと小さく溜息をついた。


「パトリック様もこれで正式に結婚されるのね……」

「マーガレット様?」

「これでパトリック様をあきらめた方々がバーナードに目をつけたら……やっぱりここいらで仕留める必要があるわね」


 途端に瞳に狩人の炎を灯らすマーガレットに、すんでのところでそれを察したアディが慌ててアリシアの耳を塞いだ。


「我が国の王女の前でなんてことを仰るんですか」

「あらごめんなさい、つい本性が」

「なんて恐ろしい……そもそも、今回は王家主催のパーティーなんですから、仕留めるとか物騒な話はやめてください」

「心配なさらないで、ただ素敵なドレスでバーナードにエスコートしてもらうだけです」


 コロコロとご機嫌に笑うマーガレットに、アディが疑惑の視線を向ける。

 といっても別にマーガレットのことを嫌っているわけでも性格を疑っているわけでもない。ただ頭が回って猫かぶりな令嬢の優雅な微笑みほど信用出来ないものはないと知っているからだ。……誰とは言わないが、過去さんざん振り回された経験がそう訴えている。

 ――そんなことをアディが考えているとはつゆ知らず、アルバート家ではとある令嬢が小さくクシャミをし「あら失礼、話を続けてちょうだい」と鼻をすすりつつ目の前の男女に声をかけた――

 とにかく、そんな警戒の色を見せるアディに対してマーガレットはクスリと笑うと、念を押すように「大丈夫ですよ」と呟いた。

 その声色は先程の冗談めいたものとは違い、どこか落ち着きすら感じられる。


「大丈夫です。とても良いデザイナーを見つけたから、少し……そう、少しだけ嬉しくなってしまったの」

「デザイナー、ですか」


 先程までの狩人とは違うマーガレットの口調に、アディがオウム返しで問う。

 それと同時にアリシアの耳を塞いでいた手を離すのは、今のマーガレットならば物騒な発言をしないだろうと踏んだのだ。それほどまでに彼女は落ち着き、そしてどこか晴れ晴れとしているようにさえ見える。


「社交界のルールも熟知していて、それでいて私達の(貴族的な)型にとらわれない、とても良いデザイナーなんです」


 ブラウニー家お抱えなのか、誇らしげに語るマーガレットにアディが感心したかのように頷いた。

 代々アルバート家に仕える従者の出だけあり、ドレス選びがいかに厄介なのかはよく分かっている。社交界では時期や立場に合わせる表だったルールの他にも、親や令嬢達の友好関係による暗黙のルールもあるのだ。それでいて流行を追わなければならないし、もちろん他の令嬢と同じドレスを着ることも露骨な後追いも許されない。

 令嬢達にとってドレスは自分をアピールするための手段であり、そして親にとって娘を着飾らせることは家の威厳を表すことになる。それほどまでに重要なのだ。

 例えば、頭には大きなリボン、胸元には花のコサージュ、腹部のリボンをギッチリと固く結んで夜会に日傘……等という素っ頓狂な格好をした日には最後、一族もろとも笑いものである。

 だからこそ社交界の堅苦しいルールを熟知し、それでいて型に当てはまらないデザイナーは貴重なのだ。

 とりわけ、ブラウニー家の名を背負い、そしてバーナード・ダイスを狙う彼女にとってドレス選びは重要、バーナードの視線を常に自分に向けさせるための戦闘服とさえ言える。本人もそれが分かっているのだろう「それも含めて」と笑った。


「なにより、私の目的も……腹の内も理解してくれているんです」

「腹の内っていうと、野心的なところですか?」


 腹の内だの野心的だのといった単語の部分だけサッとアリシアの耳を塞ぎつつアディが問えば、マーガレットがクスリと笑った。

 余談だが、耳を塞がれている間アリシアは頭上に疑問符を浮かべつつ、アディとマーガレットが楽しげに――アリシアにはそう見えている――話しているのだから邪魔はするまいとケーキを食べていた。


「彼は誰より私の野心を知っています。だからこそ、私は目的も野心も包み隠さず話し、彼もそれに見合ったドレスを作ってくれる」

「……彼?」


 珍しい、とアディが呟く。

 男のドレスデザイナーがいないわけではないが、やはり女性のドレスだけあって同性の方が感性が近く、貴族のお抱えデザイナーや有名デザイナーは女性が殆どである。

 なにより、似合うドレスを作るためには体のラインを知る必要がある。直接的に触れるわけではないが、そこに拘り女性デザイナーに固執する令嬢は多い。

 だがそんなことを考えるアディに対し、マーガレットが「あら」と小さく声をあげた。


殿方(バーナード)に見せるためのドレスなんですよ、女性がデザインするより男の方がデザインした方が、こう、グッとくるポイントを突いてくれるじゃありませんか」

「……そうですね」

「先日のドレスもね、私には少し大胆に見えたんですが、着てみたらバーナードがとても褒めてくれて。それどころか『他の方に誘われないように』ってずっと側にいてくれたんですよ。赤くなりながらチラチラと横目で見てくる彼のなんて可愛いこと!」

「……そうですね」


 もう何も言うまい、という言葉を飲み込みつつアディが棒読みで答える。

 そうしてさっさとこの場を後にすべく挨拶をすると、ケーキを食べ終えたアリシアもそれに続いた。


「マーガレットさん、また今度お話しましょうね」

「えぇ、いつでも誘ってください。……ダイス家で。ではアディ様、メアリ様にもよろしくお伝えください……どうせ直ぐにお会いしますでしょうけど……ダイス家で」


 という別れの挨拶を聞きつつ、アディが急かすようにアリシアを馬車に乗せ、ついで自分もと乗り込んだ。

 そうして馬車が走り出すと、それを見送ったマーガレットがポツリと


「彼、王子様にはなれなかったけど、本当に最高のデザイナーになってくれたんですよ」


 と呟いた。



 次いで訪れたアリシアの友人は……勿論、カリーナである。

 その行き先を聞いた時こそ防寒具を持ってくるべきだったと悔やんだアディだが、出迎えてくれたカリーナは見事と言わんばかりの令嬢ぶりで、アリシアから招待状を受け取ると物騒な言葉もなく純粋に嬉しそうに微笑んだ。

 あのアルバート家のパーティーでパトリックへの恋心を思い出にすると決めた彼女は、それ以降一人の令嬢としてアリシアと接し、そしてゲームも記憶も関係ない純粋な友人になったのだ。


「わざわざ来ていただいてありがとうございます。とても楽しみです」


 気高さすら感じられる美しい笑みでカリーナが礼を言えば、太陽のような明るさの笑顔でアリシアが頷いて返す。

 そんな二人の光景に、防寒具云々は要らぬ心配だったかとアディが心の中でカリーナに非礼を詫びる。そうして自分も穏やかな会話に加わろうとし……コンコンと部屋に響いたノックの音に振り返った。

 カリーナの返答を受け、一人のメイドが恐る恐るといった様子で顔を覗かせている。


「カリーナ様、あの……お話の最中に申し訳ございません」

「どうしたの?」

「あの……エルドランド家に向かった者達がそろそろ……」


 もごもごと言い難そうに告げるメイドの言葉に、アディとアリシアが揃って首を傾げた。……が、次の瞬間アディがブルリと体を震わせたのは、メイドの報告を聞いたカリーナがとても嬉しそうに、美しく、そして冷ややかに笑みを浮かべたからだ。

 彼女の本性を――本人はいまだ否定しているらしいが――知っている者からしてみれば、この微笑みのなんと恐ろしいことか……。

 やっぱり防寒着を持ってくれば良かった!とアディが心の中で悲鳴をあげつつ「そろそろ……」と話の仕舞いをにおわせた。

 早くこの場を去らなければ……捕縛されたであろう誰かさんを見てしまう前に……。


「カリーナ様、まだ行く場所があるのでここで失礼します。ほらアリシアちゃん、カリーナ様も忙しそうだし、そろそろ行こう」

「はい、そうですね。ではカリーナさん、失礼します!」


 元気よく別れの挨拶をするアリシアに、カリーナもまた優雅に頭を下げて返す。もっとも、その優雅さがいっそう寒気を感じさせるのは言わずもがなである。

 そうしてアディがアリシアの背を押しながら馬車へと乗り込めば、まるで入れ代わるように一台の馬車が停まり、紐で縛られ猿轡をかまされた哀れな男がカリーナの前に転がされた。

 その無惨な姿と言ったらなく、そしてそんな男を見下ろすカリーナの嬉しそうな表情……運悪く窓からその光景を見てしまったアディは最後に一度ブルリと大きく震え、心の中で「帰ったらお嬢を抱きしめて暖をとろう」と決意した。




 そうして「最後に一カ所……」とアリシアが告げたのは市街地にある孤児院である。

 聞けば以前世話になっていた孤児院の職員がここで働いているらしく、アリシアが扉をくぐると待ちかまえていた女性が嬉しそうに顔を綻ばせた。愛しそうにその名を呼ぶ表情、王女であるアリシアに対して頭を下げるでもなくそれどころか愛しそうに抱擁する姿はまるで親子のようである。


「わざわざ招待状を持ってきてくれたのね、ありがとう」


 穏やかな声色で礼を言われ、アリシアが子供のように頬を緩める。

 その光景をアディは微笑ましく見守り、グイと服を引っ張られて視線をそちらへと向けた。見れば、小さな子供が数人キラキラとした瞳でこちらを見ている。代表するかのようにアディの服を掴む少年の手には、ボールが一つ。

 まるで遊び相手を見つけたようなその表情に、アディはアリシアと職員が親しげに談笑しているのをチラと一瞥し、しばらくは二人きりにしてあげようと苦笑を浮かべて差し出されたボールを受け取った。


 そうしてしばらく。


「アディさん、お待たせしました」


 そうアリシアが声をかければ、施設内の一角に座って子供達を眺めていたアディが顔を上げた。


「子供達の遊び相手になっててくれたんですね」

「ん、まぁ慣れてるから」

「そうなんですか?」

「アルバート家は来客が多いだろ、親族や他家のお子様とか相手することが多いからさ」


 そう笑いながらアディが子供達に手を振る。

 その光景にアリシアが小さく笑い「アディさんらしい」と呟いた。


「アディさんって、世話好きですよね」

「そうかな?」

「今日だってずっと私に付き合ってくださってるし、いつも細かなところまで気を使ってくれる」


 クスクスと笑いながら日頃のことを話され、アディが気恥ずかしさで頭を掻いた。

 やれカップが空になると自然な流れで紅茶を注いだり、メアリは勿論アリシアやパルフェット達の荷物をもってやったり、ドレスや髪が綻びたら直したり……細かなことではあるがあれこれと改めて言われると恥ずかしさが勝るのだ。もっとも、今でこそアルバート家に入ったが元は従者なのだから当然と言えば当然なのだが、だからこそ自分の仕事を認められた嬉しさと気恥ずかしさもある。

 そうして次々と挙げてくるアリシアを恥ずかしさから制止し、別れの挨拶のため駆け寄ってきた子供達に囲まれながら「そういうのが好きなんだ」と苦笑を浮かべた。


「些細なことで良いから、誰かのためになることがしたいんだ」

「誰かのため……」

「もちろん、一番はお嬢のためになることだけど」


 そうハッキリとアディが告げれば、僅かに目を丸くさせたアリシアが次いでクスリと小さく笑う。

 そうして「帰りましょう」と告げ、孤児院を後にした。



「お嬢、ただいま戻りました」

「あらアディ、おかえりなさい。馬車に乗って疲れたでしょ、少し休んだら?」

「メアリ様、ただいま帰りましたー!」

「アリシアさんもおかえり……なんて言うと思った!? どうして貴女が当然のようにうちに帰ってくるのよ! 王宮に帰りなさい!」


 キィキィと喚くメアリに、アディとアリシアが肩を竦めあう。

 そうしてアディがメアリを宥めつつ、部屋の中にいる男女に視線を止めた。

 女はメアリやアリシアと同い年くらいだろうか、対して男はそれより一回り近く年上に見える。ちょうど帰るところだったのか二人は立ち上がったまま、メアリ達のやりとりに圧倒されたと言わんばかりに唖然とした表情で眺めていた。

 見覚えのない男女。アルバート家を訪れる者ならどの地位であれどんな関係であれ全員覚えているはずのアディが不思議に思いつつ丁寧に頭を下げれば、男の方は恭しく応え、対して女の方は僅かに驚いたように目を丸くさせた。

 その視線は明らかに自分たちに向けられており、知り合いだろうか?とアディが女性を見る。だがやはり覚えはない。


「お話の邪魔をしてしまい、申し訳ございません」

「いいのよ、もう話も終わったところだし」


 そう告げてメアリが指示を出せば、近くにいたメイドが「ご案内します」と二人を連れて部屋を出ていく。去り際の「それじゃ、よろしくね」というメアリの言葉から何かしらの関係があるのは明らかだが、やはり誰だか分からないとアディが首を傾げた。

 そうして去っていく二人を見送り、アディが改めてメアリに向き直った。


「お嬢、今の方々は?」

「知り合いよ」

「俺は知りません」

「そのうち分かるわ」


 クスクスと笑いながらメアリが誤魔化す。

 その笑みは明らかに何かを企んでいる時のもの、だがそれが分かっていても、いや分かっているからこそ聞き出せないだろうと判断し、アディが肩を竦めた。この表情を浮かべるメアリをどうにか出来るわけがない。

 なにより、アリシアが「なんだか美味しそうな匂いがします」と訴えるのだ。それを聞き、とりあえず紅茶とケーキを用意しようと手配に向かった。



今回ちょっと総まとめみたいな流れになってしまいました。



そんな日の夜


「お嬢、どうしたんですか?」

「これ」

「招待状? 俺へのですか?」

「そうよ。今日、あの子に『夜にあけてくださいね!もし昼間にあけたら……絶対に夜に開けてください!』って強引に封筒を渡されたのよ。それでさっき開けたら、これ(招待状)が入ってたの」

「昼にあけてたらどうなってたんだ……ん?なんか書いてある」


『至急! アディさんに渡してください!』


「……至急?」

「よく分からないのよね。夜に開けろって喚いて、それで開けたら急いで渡せって……あの子の頭の中はケーキでも詰まってるのかしら」

「アリシアちゃんの頭の中がケーキなら、お嬢の頭の中はコロッケでしょうね。だけどそうか、アリシアちゃんもしかして今日のお礼に……」

「ん? どうしたの?」

「いや、こっちの話です。ところでお嬢、わざわざ来て頂いたんですから何か暖かいものでも淹れますよ」

「あら、でもこんな時間よ?」

「えぇ、こんな時間ですけど……」


ね、とアディに誘われ、その意味を察したメアリがポッと頬を赤くさせ「そうね、こんな時間だけど」と部屋に招かれた。



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[一言] メアリのコロッケに対する執着が伺える(定期的に)
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