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更新が遅くなってしまい申し訳ありません!
前回までのあらすじ
『メアリとアディの娘ロクサーヌ、愛らしい彼女に会いに兄達の一人がやってきたが…誰が来たのか……!?』
メアリの心の中で再び豪快なドラムロールが鳴り響く。
否、メアリの中だけではない。この場にいる誰しもの心の中でドラムロールが奏でられているはずだ。
現に誰もが緊張と期待を胸に、人影にじっと視線を向けている。
ちょうど生垣が高くなっており影こそ見えるが姿は見えず、更には直前で一度立ち止まってしまったため、それがまた良い具合に焦らしてくるのだ。なんとももどかしく、無意識に拳に力が入る。
誰がくるか……!
賭けの勝者は誰になるのか……!!
そんな期待が最高潮に達した瞬間、その人物がゆっくりと姿を現した。
「あぁ、俺の……いや、アルバート家の、むしろ世界の天使……。普段はただ眩しいだけとしか思えない鬱陶しい晴天も、メアリとロクサーヌを照らしていると考えるとなんと輝かしいことか……」
ゆっくりと現れ陰鬱な空気を纏いながらも妹と姪を愛でるのはルシアン。
メアリ達のもとへと近付くと、ロクサーヌの銀の髪を掬うように撫で、頬を擽り、ぷくぷくの手を握り、もう一度頬を擽った。次いで片手に持っていた幼児用の帽子をロクサーヌに被せ、今度は帽子越しに頭を撫でる。
そうしてひとしきりロクサーヌを愛でると顔を上げた。
ここでようやくアリシア達が居る事に気付いて挨拶をするあたり、今の今までルシアンの視界にはメアリとロクサーヌ、辛うじてアディだけしか映っていなかった可能性は高い。
「今回の勝者はルシアンお兄様だったのね」
「あぁ、ようやく勝てた。昨日は一度も勝てずさっきもロベルトに出し抜かれて、伯父の威厳を失うかと思ってたんだ……。一人先に部屋を抜け出して、扉につっかえ棒を仕掛けてきたかいがあったな……」
「ルシアンお兄様って躊躇なく物理に出るタイプよね」
ロベルトは知略に長け、ラングは行動力に溢れている、そしてルシアンは物理……と、兄達は面白いようにタイプがわかれており、それゆえにこの賭け事が白熱するのだ。
しかも高頻度でメアリの両親も現れる。その際の二人の「おじいちゃまだよ」「おばあちゃまよ」という声は嬉しそうで、孫への愛がこれでもかと込められているのだ。
「でも一番盛り上がったのはお義父様とお義母様が現れた時ね」
『お義父様とお義母様』とはアディの両親である。従者の家系ゆえか何事においてもアルバート家を優先させてくれるが、たまにこちらの意表を突くタイミングで姿を現すのだ。
先日、メアリはアディとロクサーヌと共にお茶をしており、そこにアリシアとパトリックが加わりといつもの流れの中、今と同じように兄達の誰が来るかを賭けていた。
各々思う人物の名を挙げ、メアリは奇をてらって父が来ると予想し……、そこでまさかのアディの両親登場だったのだ。
「いつ誰が来るか分からないからこそ白熱するのよね。アディは毎回メモを取ってるって言ってたわね」
「えぇ、一応。なんとなくですが」
上着の胸元から手帳を取り出し、アディが今回の勝者を書き記す。
それをパトリックとガイナスが興味深そうに覗いた。果てには「統計を取れば勝利に近付けるかもしれないな」だの「まずはアルバート家ご夫妻とアディ様のご両親の頻度を計算してみては」だのと真剣に話し合い出す。
それを横目にメアリは膝に乗るロクサーヌを撫で、「こういうのは己の勘が大事よね」と愛娘に話しかけた。
大人達の会話がよくわかっていないのかロクサーヌは大きな目をよりパチクリと大きくさせ、母からの言葉にむにむにと唇を動かしている。
次いでぷくぷくの右手を顔の横でパタパタと振る。その際に漏らされる、きゃぁという笑い声の可愛さと言ったらない。
……ちなみに、
「アリシアさん、今回の勝者であるパルフェットさんに取り入ってお気に入りのケーキをラインナップに入れてもらおうとする不正は許さないわよ」
とピシャリとメアリが咎めれば、パルフェットににじり寄っていたアリシアが慌てて自らの定位置に戻った。両手を上げるのは不正を認めて自首しているつもりか。
それを見てパルフェットがコロコロと笑う。余裕を感じさせる勝者の笑みだ。
「ご安心ください。アリシア様のお体にも優しいメニューを考えます。そしてロクサーヌ様のような、もちもちぷっくりとしたスイーツを……!」
余裕の笑みから、今度は使命感を抱いた表情に変わる。これもまた勝者のあるべき姿か。
そんなパルフェットとアリシアを眺め、メアリは再び膝の上のロクサーヌに視線をやった。「そのうち一緒にデザートを食べましょうね」と声を掛ければ、母に話しかけられた事が嬉しかったのか嬉しそうに錆色の目を細めた。
ロクサーヌが色々と食べられるようになる日が楽しみだ。あれも食べさせたい、これも食べさせたい。何を好きになってくれるだろうか……、と、そんなことをいつも考える。
今でこそ賭け事の報酬となっているお茶請け決定権だが、ロクサーヌがものを食べられるようになったら、きっと常に決定権はロクサーヌのものになるだろう。
同じ未来を予想してか、ロクサーヌも咀嚼するように唇をむにむにと動かしている。
その愛らしさをうっとりと眺め……、メアリははたと我に返り隣に立つ兄を見上げた。
「お兄様、ごめんなさい。せっかく一番に駆け付けたんだもの、ロクサーヌを抱っこしたいわよね」
賑やかさに忘れていた、と謝罪すればルシアンが笑った。
普段陰気な空気を纏ってはいるものの、元々の見目の良さと相まって穏やかに微笑むと陽だまりのような温かさがある。
「可愛いロクサーヌを抱っこしたいけれど、可愛いメアリが可愛いロクサーヌを抱っこしている姿も俺には眩しいほどに輝かしいよ……。いつまでも眺めていられる……。でもそろそろラングとロベルトが来るから、抱っこしてあいつらを牽制したくもあるな……」
「ルシアンお兄様って陰気な割にはあの二人に負けず劣らず好戦的な性格よね」
性格はそれぞれ違えど、三人揃って競い合っているのだ。
これはこれでバランスが良いのだろう。そうメアリは勝手に納得し、膝に乗るロクサーヌをゆっくりと抱き上げた。
「では、勝者のルシアンお兄様には可愛い天使を授けましょう」
ルシアンの元へとロクサーヌを近付ければ、なにをするのか察したのだろうロクサーヌも両腕を広げて構えた。
ぎゅっと抱き着く愛娘のなんと可愛いことか。それを受けるルシアンも嬉しそうで、珍しく輝かしい満面の笑みを浮かべている。
それとほぼ同時に、バタバタと忙しない足音が聞こえてきた。
なにか? これは敗者の足音だ。
「ルシアン! お前、閉じ込めるのは反則だろ!」
「……まさか扉につっかえを仕掛けるとは思いませんでした」
口々に文句を言いながら現れたのは、もちろんラングとロベルトだ。
物理で出し抜かれたことが悔しかったらしい。対してルシアンは得意げな笑みを浮かべ、それどころか見せつけるように腕の中のロクサーヌを軽く揺らした。
それを見てラングが悔しそうに唸り、ロベルトは表情にこそ出しはしないが冷ややかな空気を纏いだす。「次こそは」という二人の言葉を聞くに、また数時間後には勝負が始まるのだろう。
その光景をメアリが肩を竦めながら眺めていると、兄達の誰からともなく「さて」と話を切り替えた。
「そろそろ仕事に戻るか。というか真っ最中に放り出して来たな」
「むしろ会話の最中にルシアン様が部屋を出ていき我々も脱出に掛かりきりになったため、会話も途中でしたね」
「そういうわけで、俺達の可愛い天使ロクサーヌは俺達の可愛い妹メアリに返そう……」
ルシアンが抱きかかえていたロクサーヌをメアリに渡そうとする。
だがその直前、ロクサーヌがうねうねと身を捩り出した。まるで嫌々と訴えるように。相変わらず鮮魚のような活きのいいうねりだ。
次いでロクサーヌの錆色の瞳が向かうのは、話の最中にこちらに気付いたアディ。ロクサーヌと同じ錆色の瞳が、どうしたのかと我が子を見つめる。
更にロクサーヌは唇を尖らせ、そのうえ「んむぅー」と声をあげだした。まだ明確な言葉こそ発することは出来ないが、それでも小さな唇はあれこれと訴えてくる。
どうやら母の抱っこよりも父の抱っこをご所望らしい。
それを察し、兄達三人が顔を見合わせた。
「……背の高いアディに渡すのは不服だが、可愛いロクサーヌが望んでいるなら仕方ない」
「アディは背が高いからロクサーヌが怖がらないか心配だが、天使の訴えとなると聞かねばなるまい」
「たとえ相手が愚弟であっても致し方ありませんね」
と、三人が揃えたように文句を言いながらもロクサーヌをアディに渡す。
ーーちなみにその直前にアディが「椅子に座ってるので身長は関係ありませんが」と思わず言ってしまったため、ラングに頭を押さえつけられてからルシアンからロクサーヌを渡され、最後をロベルトの盛大な溜息で飾る、という一連の流れになったーー
そうして兄達が去っていくのを見届ける。
だがまだ茶会は続いており、気付けばアリシアとパトリックは次回の賭けの話を、パルフェットとガイナスはデザートについて話し合っているではないか。
また数時間すれば兄達もロクサーヌに会いに来るだろうし、もしかしたらアリシア達が来ていると知って賭けを引っ掻き回そうと両親が来るかもしれない。
「賑やかで楽しいわね。ねぇロクサーヌ、みんな貴女のことが大好きで、貴女に会いに来てくれているのよ」
嬉しいわね、とメアリが隣に座るアディの膝でちょこんと抱えられるロクサーヌに話しかける。
錆色の瞳を嬉しそうに細めてきゃぁと笑えば、銀色のまだ短い髪の毛がふわりと揺れた。なんて可愛いのか。
「ここはどこ……? なんだか来たことがあるような、無いような……」
「お嬢、ここは後書きですよ」
「あらそうだったわね。更新が久しぶりすぎて忘れていたわ」
「しかし後書きがあるということは何か告知があるということでしょうか。ところで、ここにある肖像画のようなアクリルパネル的なものはなんでしょう?」
【☆*.+☆*.+】
「なにかしら、アクリルパネル的なもののように思えるけど。描かれているのは私とアディの美麗イラストね」
「そうですね。アクリルパネル的なものだとは思いますが……。パルフェット様を呼んでみましょう」
「そうね。パルフェットさん、パルフェットさん、このアクリルパネル的なものはなにか教えてちょうだい」
【☆*.+ω;`)☆*.+】
「おや、アクリルパネル的なものの画像が変わりましたね。俺とお嬢の絵から……」
「パルフェットさんだわ、アクリルパネル的なものにパルフェットさんが写りだしたわ!」
【(´;ω;)パネル越しにごきげんよう!】
「パルフェットさんごきげんよう。このアクリルパネル的なものは何かしら?」
【(´;ω;)アクリルパネル的なものではなくアクリルパネルです!】
「そうなのね。アクリルパネル的なものじゃなくてアクリルパネルだったのね」
「なるほど、アクリルパネルですか」
「ということはお知らせね。さぁパルフェットさん、どどんとお知らせしてちょうだい!」
【(´;ω;)はい!ではお知らせです!
このたびビーンズ文庫20週年記念グッズとして『アルバート家の令嬢は没落をご所望です』のアクリルパネルが発売されることとなりました!】
「まぁ、私とアディのイラストのアクリルパネルですって! 今はパルフェットさんが写ってるけど」
「しかしこれではアクリルパネルにパルフェットさんが写り混むグッズと勘違いされるかもしれませんね」
「そうね。商品は私とアディのイラストで、パルフェットさんは写りこまないんだけど……」
【(´;ω;)!!】
【(´;ω..:.;::..】
「あぁ!パネルのパルフェットさんにノイズが!」
「消えようとしてますね……」
「ごめんなさいパルフェットさん、気になさらないで。いいのよ、残っていってちょうだい」
【(´;..:.;::..】
「あぁ、どんどんパルフェット様が消えていく……」
【……..:.;::..!!!】
【(´;ω;)購入方法の説明を忘れていました!!私の最後の力で……このアクリルパネルに購入方法を……表示させます……!私の精神を……限界まで高めて念波を……!!】
「けっこう大変な作業だったのね」
「これ念波でやってたんですね」
【(`;ω;)ふぬぬぬぬぬ!】
【ふぬぬぬぬぬぬ】
「パルフェットさん、気合が!気合の言葉がパネルに表示されてるわ!」
【ふぬぬぬぬ ふぬぬぬぬぬぬ ふぬぬぬぬ】
「パルフェット様、俳句に!五七五になってますよ!」
「季語はふぬなの!?ぬぬなの!?」
【ふぬ!?】
【(`;ω;)セカンドふぬぬぬぬぬぬ!!】
【角川ビーンズ文庫創刊20周年記念グッズ
『アルバート家の令嬢は没落をご所望です』アクリルパネル
予約期間:~11月4日(木) 23:59
発売日:2022年1月下旬頃発売予定
予約はカドカワオン公式オンラインショップ カドカワストア他】
(発売日間違えていたため訂正しました)
「出たわ!パルフェットさん、ちゃんと告知が表示されたわ!」
【(´;ω;)告知が遅くなり予約期間があと僅かとなってしまい申し訳ありません。みなさまどうぞよろしくお願い…しま……】
【(´;ω;...:.;::.す…….】
【……...:.;::..】
【☆*.+☆*.+】
「アクリルパネルが本来の4巻の美麗画像に戻ったわ。力尽きたのね」
「パルフェット様、ありがとうございました」
(´;ω;)まぁ実際におそばに居るんですけどね。
「あらこんな近くにいたのね」
「ならパネル越しに会話する意味は……?」
角川ビーンズ文庫20周年記念グッズとして『アルバート家の令嬢は没落をご所望です』のアクリルパネルの発売が決定しました!
予約は11/4 23:59まで(一部通販サイトでは11/3まで……?)
告知が遅くなり、予約締め切りまで僅かとなってしまい申し訳ありません。
みなさまどうぞよろしくお願い致します!
お話の続きも近く更新しますー。