表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/225

25


 交換留学終了から翌日、カレリア学園はいまだ賑わいを残していた。

 中には本格的にエレシアナ学園への留学を検討しだす者や、次こそ選ばれようと勉学に励む者も出ており、交換留学はまずまず成功と言えるだろう。

 ベルティナの件こそあったものの、メアリも今回の交換留学は有意義かつ楽しく過ごすことが出来た。


「次があるなら、私達がエレシアナ大学に行っても良いわね」

「きっとパルフェット様が泣いて喜びますよ。……今も泣いていると思いますけど」

「私は最近あの子が脱水症状を起こさないか不安でしょうがないの」


 そんなことを話しつつ、メアリが隣国で震える友人を思い描く。

 現在地はカレリア学園の一角。生徒の休息用に設置されたテーブルセットで、学業後のひと休憩である。心地好い風が吹き抜け、整備された木々が揺れる。

 さすが貴族の子息令嬢が通う施設だけあり景観は美しく、見れば他の生徒達も談笑に花を咲かせている。


 そんな中、ふと遠くを見たアディが「あれは……」と呟いた。

 メアリがつられて彼の視線を追えば、道の先に見覚えのある男女の姿。小柄な金糸の令嬢と、藍色の髪の青年。

 遠目ゆえに顔まではハッキリとは分からないが、アリシアとパトリックだろう。こちらに気付いていないのか、楽しそうに話しながら歩いている。


「あれはアリシアちゃんとパトリック様ですね。お嬢、どうしますか? 逃げますか?」

「何を言ってるの。アルバート家の令嬢である私の辞書に、玉砕・ギャフンはあっても敵前逃亡は無いのよ!」

「玉砕・ギャフンがある時点でどうなんでしょう」

「ちなみに解雇に関しては二十ページにわたって事細かに書かれているわ」

「あ、お嬢、アリシアちゃんたちがこっちに来ますよ!」


 しれっと話題を戻し、アディがわざとらしくアリシア達へと視線を向ける。

 これに関してメアリは解雇について詳しく説明してやろうとし……ひとまずアリシア達の方が先かと解雇については後回しにした。――「解雇の話はいつだって出来るわね」という考えの元だが、いつでも出来るからこそ今までしなかったという見方もある――

 だが今優先すべきはアリシア達だ。なにせ二人は今まさにこちらへと歩いてきている。あれならばすぐにでもメアリ達に気付くだろう。


 そうしたらどうなるか……。

 いつも通りだ。


 アリシアが「メアリ様!」と瞳を輝かせ、一国の王女とは思えない速さで駆けつけてくる。そしてメアリにタックルもとい抱擁をしてくるのだ。

 ……そして、パトリックが困ったように笑ってアリシアの後を追ってくる。

 胸の内に湧く嫉妬を押し隠しながら。


 あのパーティーで打ち明けてくれた彼の話を思い出し、メアリがスッと立ち上がった。それとほぼ同時にアリシアが足を止める。

 メアリ達に気付いたアリシアの「メアリ様!」という歓喜の高い声が聞こえ……、


「パトリック、その子を捕まえておきなさい!」


 メアリが声を上げた。

 走り出したアリシアが足を止めたのは、普段自分を叱咤するメアリが今日に限ってパトリックに対して声を上げたからか、それともパトリックに腕を取られたからか……。

 なんにせよきょとんと紫色の瞳を丸くさせて立ち止まるその姿に、メアリはまったくと言いたげにふんと一息ついた。


「お嬢、どうしました?」

「アディ、行くわよ」

「行くって、アリシアちゃん達のところにですか?」

「そうよ」


 あっさりと言い切り、メアリがじっとアディを見つめ……そして片手を差し出した。「エスコートなさい!」というメアリの命令に、意図を察したアディが苦笑を浮かべて立ち上がる。

 メアリがアディと共に歩き出せば、それを見たアリシアがそわそわと落ち着きを無くす。きっと今までにない展開にどうして良いのか分からないのだろう。

 駆け寄りたいけれど、来てもほしい。今のアリシアの胸中はこんなところか。


 そうしてアリシアの目の前まで立ち、メアリが肩に掛かった髪を払った。銀糸の髪がふわりと揺れる。その姿はまさに高飛車なご令嬢だ。

 次いでメアリの視線が向かうのは、アリシアの手元。

 普段はメアリに駆け寄るや苦しいほどに抱き着いてくるその腕は、今はパトリックに掴まれている。彼の手がそっとアリシアの肌を滑り手を繋ごうとしているのを見て、メアリはこれ以上は見ていられないと言いたげに視線を上げた。

 アリシアはいまだきょとんと眼を丸くさせ、対して彼女の隣にいるパトリックは照れ臭そうに笑っている。どちらも間抜け面だとメアリが呟き、ツンとそっぽをむいた。


「たまには私から近付いてあげない事も無いんだから、田舎娘は大人しくパトリックのそばで待っていなさい」


 そう告げればアリシアが紫色の瞳をパチンと瞬かせた。

 クツクツと笑うのはアディとパトリックだ。二人共なにも言ってこないが、訳知り顔はなんとも腹立たしい。

 らしくない事をするんじゃなかった、そうメアリが文句を言おうとし……、


「はい! メアリ様!」

「だから抱き着いてくるんじゃ……か、片腕でもなんて威力なの!」


 と、至近距離から抱き着いてくるアリシアの衝撃に悲鳴をあげた。




 …end…



4章これにて完結です。

最後までお付き合い頂きありがとうございました。

4章は終わりましたが、コミカライズも始まり、今後も短編等あげていきたいと思います。

引き続きお付き合い頂ければ幸いです。


ブクマ、ポイント、感想、ありがとうございます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ