表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

疑心暗鬼と鉄屑三号

作者: 竜宮 景

コメディー?ものの短編です

ロボットとは、かくも邪悪な代物なのか。


私はこの一年間でそれをまざまざと思い知らされてきた。もちろん一般的には『掃除』『洗濯』『料理』の出来る主婦の友であり、『情報管理』『運転』さらには『お茶汲み』まで出来る一企業に一台は必要不可欠な人材(・ ・)だ。

私もそれは否定しない。それどころか、私の生活の半分以上はロボット無しでは成り立たないだろう。いや、もしかしたら幼いころからの洗脳が私にそう思わせているだけなのかもしれないが。

思えば私も幼いころは無邪気にロボットと遊んだもので、これまで生きてきた16年という歳月は彼ら抜きにして到底語れないものでもある。だが、その実、私は騙されていたことを知ってしまった。彼らの内に秘められた毒牙はいつの間にか幼心を蝕み、私が彼らに依存(・ ・)しなければ生きられないようにしてしまった。

それだけでも恐ろしい事だと言うのに、それだけでは終わらないのだ。ここまでなら、『プログラムした人間が悪い』というエゴイズムのお話にでもなるのだろうが、ロボット達はプログラム――私の生活を支えるという重大な――を超えて私のプライベートな空間を侵略し始めたのだ。ここまできて私はようやく気づくことが出来た。ロボットは人類の、少なくとも私の敵なのではないかと。だが、気づくのが遅すぎたかもしれない。強大な敵の前に私は抵抗を試みるも、それは一度として勝利に終わった事はなかったのだ。なぜならロボット達は既に私からデータを取れるだけ取り、すっかり研究を済ませてしまっていたのだから。勝てるはずも無かったのだ。


しかし、しかしだ……だからといって、私は決してロボットには屈しない。屈せられるわけがない。人類の尊厳を守り、人間が人間らしく生きる事の出来る社会をロボット風情に冒されてはいけないからだ。生命の輝きを知っている人類にしか出来ない事がきっとある。


私はたとえ誰にも知られることがなくとも戦い続けるだろう……この凶悪な鉄の人形たちと!!



「お嬢様。朝食のお時間を二時間も過ぎております」


「シーツも洗濯しますので、布団からどいてくださいませ」


「今日はいい天気ですので、お外の散歩にお出かけになられてはいかがでしょうか?」


「や、やだぁぁぁぁ!!やだぁぁぁぁああああ!!無理無理寒いもん!!家から出たら二秒で死んじゃう!!この人殺しぃ!!あ、あぁ!布団返してよぉぉぉぉおおお!!寒いよぉぉお!!やぁだぁぁぁぁあああ!」


しかし私の願いは彼女たちには一切届くことは無い。三匹の悪魔は無言で私から布団と寝巻を剥ぎ取り、あっという間に暖房一つ付いていない部屋の真ん中に放り出したのだ……一匹が気を利かせてすぐにヒーターを起動させたようだが。


「お召し物をご用意いたしました。こちらへどうぞ」


これはよくある彼女たちの洗脳プログラムの一つだ。部屋の中とはいえ、この真冬に半裸で堪え切れる筈が無い。そう、服を着替えに行く他ないのだ。あたかも自分の意志で彼女たちに従っている様に思わせ、私の抵抗心を削ぎ落す。これが彼女たちの目的に違いなかった。


「ぱ、パジャマじゃなきゃ嫌……」


「はい?パジャマとはご就寝なされる時以外必要のないものです。現時刻は午前9時11分。まだお休みになられるのは早いかと。それに外は天気が良いとはいえ、気温は低くなっております。薄着では風邪を引いてしまわれるかもしれません」


「う、うぅぅ……外なんか出ないよぅ……」


問答無用だった。聞いていてわかると思うが、私には既にイエス、ノーを言う権利すら与えられていない。彼女たちは私から生皮を剥ぎ取るように布団とパジャマを奪ったように、今度は弄ぶように私に外行きの服を着せた。その間、実に屈辱的な気持ちにさせられた事は言うまでもない。これではまるで着せ替え人形ではないか。人形がその主たる人間を玩具にして遊んでいるという事実に、私は人類の存亡を危惧せずにはいられなかった。


こうして悪魔の所業により、私はジャージというどこにでも行ける格好にさせられてしまったのだ。


「ユーコぉ……朝ごはんは?」


ユーコとは、悪魔の一人だ。その淡くも優しい顔立ちに私は何度謀られた事かわからない。


「はい。予定していたお時間は過ぎておりますが、すぐにでもご用意致します」


「お、お部屋で食べたいなぁ……なんて……」


「ご了承いたしかねます。食堂にお越しください」


「えぇぇぇ……寒いよぅ……廊下には暖房がついてないんだよ?」


「はい。承知いたしておりますが、特別お嬢様の生命を脅かすほどの気温ではありません。ご安心くださいませ」


私は心の中で悲鳴をあげた。この者たちには『寒さ』を感じる事は出来ない故、これから私が受けるであろう苦痛を理解する事も出来ないのであろう。たとえ足元が寒くない様にスリッパを用意してくれようとも、そんな程度じゃ気休めにしかならないのだという事も。


「も、もう一枚上に羽織るものちょうだい」


「申し訳ありません。昨晩ご主人様が洗濯に出すのをお忘れになられたため、どてらは只今洗濯中でございます。今しばらくお待ちください」


「も、モモコのばかぁ!!出すの忘れたんじゃなくて、出さなかったんだよぅ……」


「そう仰いますが、ご主人様のどてらは二週間洗濯を放置なされた状態でしたので、細菌の繁殖率が非常に高く、衛生上の観点から洗濯せざるをえませんでした。ご容赦下さいませ」


深々と頭を下げたのはモモコというロボットだ。このモモコは一番性能が良いため、どうもセンサーが過剰に反応するらしく、こうした事がままある。まるでロボットと人間の差を見せつけているのようだ。もしかしたら細菌の繁殖率が人間程度に分かるはずが無いと、彼女はその鉄仮面の裏で嘲笑っているのかもしれない。


「ゆ、許すけど……上着は欲しいよぉ」


「わかりました。それでしたら、私の服をお貸しいたします。私達には本来不必要なものですので」


「本当に?やったぁ!」


「はい」といってモモが自分の服を持ってきた。わかってはいたが使用人の服、すなわちメイド服だ。

彼女たちはメイド用ロボットなのだから当然だろうと思いつつも、私の回り過ぎる頭脳は、瞬時に一つの真実に辿り着こうとしていた。そう、これが『お前は主などでは無い。我々に付き従う存在なのだ』と私に思い込ませるための、モモコの陰謀だと。


「あったかいよぉ……ありがとうモモコ」


「いいえ。ご主人様に喜んで頂けてなによりです。ご主人様のお召し物は只今ハルコが急ぎ洗濯をしております。気温の遷移、湿度から終了予定時刻は15時45分から16時程度と予想されますので、今しばらく私の服でご辛抱くださいませ」


ジャージの上に着るメイド服はきつくて仕方なかったが、少しでも温かければ問題ない。モモコは何も言わないが、おそらくこれは先ほどまでモモコが着用していた服だろう。お腹のあたりがほんのり温かいのは、おそらくバッテリーの発する熱によるものだ。お腹が冷えないのは、良い事じゃないか。

しかし、『クックック、お前の着る者なんて私が着た後のもので充分だ』という事かも知れないから、油断は出来ない。無邪気に喜んでばかりはいられないのだ。


「お嬢様、それでは参りましょう」


ユーコに連れられるまま、私は離れにある自分の部屋を出た。食堂のある母屋に通じる廊下は吹きさらしになっているため、体の芯まで冷えそうになる。私は体を強張らせながら、一歩一歩ゆっくり歩いた。


「ところで……」


廊下の中程でユーコが不意に振り返った。ガチガチと歯を鳴らしていたのは、なにも寒いという理由だけではない。おそらくこれはユーコによる拷問が始まったのだと、戦々恐々としているのだ。


「お嬢様はこの連休は暇を弄ばれるおつもりですか?」


それみたことか!何という事だろう。この凍えるような寒さの中、ただでさえ精神は追いつめられているというのに、このキラーマシンは私の体だけでなく心まで殺しにかかってきている。

震える体を抑えながら、私は彼女から視線を逸らすので精一杯だった。このままその兇器のような瞳に見つめられ続ければ、先に私の心が壊されてしまう。そんな気がしたのだ。


「ひ、暇じゃないよー……」


「ですが、お嬢様はここ3日家から一歩も出ていません。それに、お友達と連絡を取り合っているといった記録さえも残っていません。もし、お嬢様に対し『いじめ』のような事実があるようでしたら、私達はすぐにでも対応を取らねばならないのです」


「そんな事ないよぉ!よ、予定が合わないだけだもん」


「では今回は偶然で、予定が合う時なら大丈夫なのですね?」


「うん!ま、毎日楽しくおしゃべりしてるよぉ……」


壁と。


「今、何か最後に仰いましたか?」


「何でもない何でもない!それより早く行こうよ。寒いよぉ!」


ボソッと言っただけなのにこの感度だからロボットと言う奴は困るのだ。余計な詮索をしおってからに。これは持論だが、机と壁があれば学校は何とかなると思う……たぶん。


「承知いたしました」と言って歩き出したと思ったら、母屋まで後数歩のところで再びユーコは立ち止まった。


「お嬢様は何をお話になられるのですか?」


その時私は確信した。この女、さっき私が言った事が聞こえていたな。『お友達の壁にはどんな事を話しているのかなー?』とでもいったところだろう。しかし、この挑発にのっては相手の思うつぼだ。ここはあくまでも平静を保って対処しなければ。


「お、おおおはなし?え、え……っと……おおお話だよね?おはなしはねー……」


「どうかなさいましたか?何か周りに気になる物でも?」


気づけば目が泳いでいた。慌ててユーコに目を合わせてしまい。それこそがユーコの策略なのではないかと勘付いた。だが、答えなければこの状況から脱出できない。思い出せ。思い出すんだ。私が今まで壁と、机と、いったい何を話してきたのかを。


「ひょっとして……女子会と呼ばれるものですか?」


「え?あ、あぁ!うん!!そ……そう、それかも!」


敵に塩を送られた形になったが、思わず話に乗っかってしまった。


「……かも?」


「うん!それに違いない!」


そうだ。私は壁と机と女子会をしてきたのだ。


しかし、よくよく思い返してみるのだ私よ。そいつらメスじゃない。それとも擬人化すれば或いは……なのだろうか?とにかくユーコが納得したように頷いているようだし、これで万事解決したじゃないか。


「なるほど。それではお嬢様は女子会を制するために訓練なさらなければなりませんね」


「…………え?なに?」


聞き間違えだろうか?いや、私だっていくら世間に疎いとはいえ女子会という言葉くらいは知っている。実際にどのような事をするか、といった話になると未知数ではあるが。少なくとも『女子会』に不必要な言葉がいくつか混じっていたのではないか?


「今なんて言ったの?ユーコ?」


「はい。女子会を制圧するためにお嬢様は訓練しなければなりません」


「ん?だからそれは……何の話をしているの?」


「女子会です」


「女子会って訓練が必要なの?」


「そのようなものであると聞いています」


私が間違っているのだろうか。私の印象としては、女の子同士で集まって噂話に花を咲かせたり、ストレス発散で言いたい事を言い合ったり、楽しくわいわいやる会合なのだが。ユーコの情報に間違いがなければ、それは訓練が必要なものらしい。と、いう事は学校の皆はその訓練を既に終えているのか?ひょっとしたら私は訓練前だったから呼ばれなかったのかもしれない。そうだとしたら、全ての辻褄が合った。


「それでは早い方がいいでしょう。訓練のお相手は私と、それからモモコとハルコをお呼びします。時刻は夕飯後の20時から。場所は……離れのゲストルームが良いかと思われます」


「え、え、え?本当にやるのぉ?」


「もちろんです。お嬢様も事前に準備しておいてください」


「うそ……でしょ?」


だがしかし、嘘でない事はユーコの瞳を見ればすぐにわかる。ロボットの瞳を見て何がわかるのか、と思う人がいるかもしれないが、そもそもロボットは嘘をつかない事に留意していただきたい。

私は軽はずみ過ぎたのだ。これではまんまと策に嵌ってしまったようなもの。この女子会の訓練で、彼女たちは私に対して何らかの謀略を巡らす筈だ。何を企んでいるかはサッパリわからないが、危険である事だけは確からしい。


いいだろう。私も舐められたものだ。受けて立ってやろうじゃないか!


私はそう決意すると急いで母屋に入り、暖炉の傍から1時間ほど全く動かなかった。

そして朝食か昼食かという時間に食事を取り、女子会について調べ回ったのち、気持ちよく昼寝をした。全てが隈なく抜かりのない完璧なコンディション。それゆえ訓練前、私は自分のモチベーションの高さに思わず驚いてしまった。今ならどんな女の子達が現れようとも一網打尽に出来る。そんな気さえした。




★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「じょ、女子会に参加を申し込んだものです。は、入りまふ!」


パチパチパチ、と3人が拍手で私を迎えた。扉の前で何度も練習をした言葉だったが、少し噛んでしまった。しかし、拍手の大きさからしてそれほどマイナスポイントではないのだろう。

それよりも入ってすぐ気になる事があった。ゲストルームに座っている3人が既に炬燵で待機しているのはまぁいい、その炬燵の上に何か食べ物が準備されている事も気にはならない。そのあたりは予想していたし、予想していたからこそ、私も自分用のおやつと飲み物を準備してきた。だから気になったのは、そういうことでは無い。


「ねぇ……なんで3人とも充電してるの?」


異様な光景だった。本来交代制で充電する彼女たちが、3人一度に充電する事などありえない。人間でいう尾てい骨の少し上あたりから出されたコードが、部屋の端にあるタコ足配線にそれぞれ繋がれている。


「女子会とは、通常何か食事をとりながら行われる物だという事はご存知ですね?」


そう言ったのはハルコだった。3人の中で一番小さいモデル。私より2、3センチ上と言った大きさのロボットだ。私が手に持っていた500mlのペットボトル飲料と、ポテトチップスの袋を見て、ハルコはニッコリと笑った。


「私達3人は食事を摂ることが出来ません。アルコールなんてもっての他です。しかしこれが女子会である以上、何かを摂取するという必要があるかと思われます。そして御方様なら当然準備なさっている筈。そう思い私たちの出した結論がコレです」


「な、なるほど……充電もご飯みたいなもの?だもん……ね」


彼女たちは彼女たちなりに女子会というものを研究してきたのだろう。私はとりあえず席に着くことにした。


「熱っつ!!あちゅい!!」


炬燵の熱ですっかり熱せられたロボットの足と自分の足が接触してしまった。何というトラップだろう。ロボット三原則なんてものは実は存在していなかったのか?それとも今のは、単に私のミスなのか。否、それを見逃す彼女達ではない筈だ。


「大丈夫ですか!?お嬢様!!モモコ、冷水を持ってきてください」


「だ、大丈夫だよぉ!ちょっと熱かっただけだから。冷たいのはやだ……」


私が頑として炬燵から出ないのを見て、部屋を出ようとしたモモコの足が止まった。幸いすぐに足を引っこ抜いたから、本当に火傷はしていない。


「本当に大丈夫なのですね。念のためスキャン致しますか?」


私が首をブンブンと横に振り、激しい拒絶の意を示すと、ユーコは渋々納得してくれたようだった。それでも3人とも元いた位置から少しだけ離れた。


「そ、それでは気を取り直して女子会を始めたいと思います」


「わかりました」「承知いたしました」「了解いたしました」


女子会とは本当にこのようなものなのだろうか。いや、ここはまだ迷うような場面では無い。


「それでは皆さん。お手元のグラスをお、お取りください」


ここは形式的なものでいい筈だ。私だってお酒は飲めないし、持ってきているのはペットボトルだが、それは彼女達もそのあたりは承知しているだろう。

私がペットボトルを手に持つと、彼女達も何かを持っている体で、空っぽの右手を挙げた。


「かんぱー……ぃ」


「わかりました」「承知いたしました」「了解いたしました」


「『かんぱーい』には『かんぱーい』って返すんじゃないの!!?」


彼女たちはしかし、何の反応も示さない。私の出方を窺っているようだ。

これは試されているのかもしれないと、私は思った。だとしたら、失敗は許されない。私は丁寧にポテチの袋を開きにかかった。はじめは両手で袋の端をつまみ、口の部分を開封する。しかし、ここで終わりはしない。さらに側面に切れ目を入れ大きく開いていく。つまりはパーティ開きと呼ばれる状態だ。

ポテチの袋の開封が終わると、3人は静かに拍手をした。余裕をだしたつもりだが、ひょっとしたら危ない所だったのかもしれない。


「み、みんなも食べていー……ですよぉ……」


「エー」「ウソー」「ホントニ」


「え、なにその不協和音!?やめて!!」


私の言葉に一番過敏に反応を示したのは、やはりモモコだった。


「ご主人様。女子会とは特定の言葉が進行の鍵となります。その多くは『肯定』『疑問』を抑揚によってどちらも表現することが出来、それを習得しない事には女子会を総べる事はできません」


「……う、うそぉ?」


「そう。その調子でございます」


何か腑に落ちない点がいくつかあるが、私のリサーチ不足も認めなければならない。飲み会という側面だけでなく、女子としての特性をもっと調べておくべきだったのだ。


「それでは、これからの進行には何か話題が必要ですね。主として恋愛事に重きをおくのが女子会の常であるようですが、それではお嬢様の負担も大きいでしょう。何か別の話題を探さなければなりませんね」


落ち着いたところで、ユーコが私の方を見て言った。それはとても有難いことだった。もしこの話題に触れられようものなら、私は裸足で逃げ出していたかもしれない。


「では『お方様の今後について』というのはどうでしょうか?」


「そっちのが重いよ!!」


それでは家族会議もいいとこじゃないか。だが自分の案が却下されたハルコは、心なしがガッカリしているようにも見える。しくじってしまった。今のは否定するにも「ヤダー」と返すのが正解だったのだ。


「ではこうしましょう。ご主人様の好きな事について、私達から話題をふる。それではいかがですか?」


「あ、うん……じゃなくって、スゴーイ!ホントニー?」


私は時計を見た。まだ開始から10分経つか経たないといったところだ。信じられない。世の女性たちはこんなにも苦しい環境を生き抜いているというのか。


「お嬢様の好きな事……」


ユーコが何か思いついたようだった。3人の視線がユーコに注がれる。


「では、お嬢様の好きな祝日はいつですか?」


「祝日!!??」


なんだろうこの心がざわつく質問は。ユーコはいったい何を狙っている?そもそもこの問いに正解があるというのか?いや、私が好きな祝日を聞かれているのだから、私が好きな祝日を答えればいいのだろう。私の好きな祝日!?祝日に優劣ってあったっけ!?

とにかく何か答えなければならない。祝日……しゅくじつ……


「き、きんろうかんしゃのひ」


「「「ウソー」」」


「ウソじゃねぇぇえよ!!!!!っていうか好きな祝日って何?わかんないよ!!祝日は全部好きだよ!大好きだよ!どれが好きかなんて選べっこないよ!!」


「お方様は海の日を選ばれるかと」


「海の日ではなく、文化の日では?そちらの方がご主人様らしいかと」


「それでしたら、秋分の日の方がよろしいかと思われます」


「「ワカル」」


「いや!!わかんないよ!?私のあずかり知らないところで話を進めないでお願いだから!!秋分の日ってそんなに私好きそうなの!?どういうこと!!?」


ダメだ。すっかり彼女達のペースに嵌ってしまっている。一旦落ち着かなければならない。おあつらえ向きに準備されていたのはチョコレートだった。甘いものを食べれば多少はマシになるだろう。


「あ、お嬢様それは……」


「え、なに?」


中々に美味しいチョコレートで、手が止まらず5つ目に到達したあたりだった。急に視界が霞んだ。


「う、うぅん?」


天地が逆さまになり、私は机に突っ伏した。身体の自由が全く効かない。意識が朦朧とする中、私は一つの言葉を思い出していた。


『女子会では皆毒を吐く』


私は毒を盛られたのか?だとしたら既に機械文明は人類を超越している。きっと私は人類初の犠牲者となって後世に語り継がれるのだろう。


死因……『女子会』として。




★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「それは……ボンボンですね。どうしてこれを?」


お嬢様を寝かせつけた後、モモコがそう尋ねました。これは私の独断でしたので、彼女が疑問に思うのも無理はありません。


「はい。形式的にアルコールが必要と判断し、書斎に隠してあったものを用意いたしました。お嬢様は未成年ですが、ウィスキーボンボンでしたら問題ないかと。ただ、このように注意する間もなく一度に頬張られるとは、シミュレーションには無かったパターンです」


本来は2個までなら、と考えていたのです。しかしお嬢様は相当気に入られたのか、一つ目以降一気にたくさん口の中に放り込んでしまわれたのでした。

そうして私とモモコがこれからのこの菓子の扱いについて話していると、片づけを依頼したハルコが仕事を終えて戻ってきました。


「とりあえず、計測していた時間を発表します。御方様の女子会耐久時間は17分22秒。とうてい長丁場の女子会を耐えきれるとは思いません」


「やはりそうですか」


シミュレートの結果に誤差はあっても、だいたいは30分に行くか行かないかのところでお嬢様はギブアップしていたことでしょう。


「お嬢様はきっと、このような事したくはなかったでしょうに」


「同意します」


「お方様の御父君の命……ですか?」


私はコクリと頷きました。それは、他の二人も同じでしょうから。


「もはやご主人様の方が優先順位が上の筈ですが、なぜ?」


モモコの問いももっともでしょう。とうにお亡くなりになられたお嬢様の父君の命は、既に新たな主人となったお嬢様にはとっては無いに等しいもの。それなのに、私達が従うのは理由があります。


「お嬢様はお気が弱いのか……いいえ、きっとお優しいのでしょう。私達にお願いばかりして、命令を一つもなさらないのです。それゆえ、未だ父君の命が有効に働いてしまうのでしょう」


だからこそ、お嬢様は『思い通りに動いてくれない』私達に不信感を抱いているのかもしれません。ここ1年のお嬢様の様子を観測すれば、それは明らかなように思います。


「命令さえしてくだされば、私達はお嬢様の命だけに従う事ができるのに」


ボソリといった言葉をモモコのセンサーは聞き逃しません。たとえ私には解析不可能な大きさの声でも、音声認識において私の型よりも遥かに優れているのですから。


「それならば、直接ご主人様に言えばいいのではないでしょうか?」


ハルコも頷いて、同意の意を示します。そうすることがきっと良いのでしょう。幸い、それが出来ない様にはプログラムされていません。ですが……


「二人はどのようなお嬢様が好きでいらっしゃいますか?」


突然の問いかけに、二人は顔を見合わせました。ひょっとしたら内部通信しているのかもしれません。

私はただ仮定の話をしただけなので、それほど思考回路をフルに活動させていただかなくてもいいのに。そもそも私達は『好き』という感覚は持ち合わせていないのですから。


だからこそ、本来お嬢様に優劣をつけることさえ出来ないのでしょう。それでも……


「私はこのようなお嬢様が好きなのです」


それに二人はたった一言、何やら要点をえない回答をしました。


『ワカル』と。






最後まで読んで頂きありがとうございました。


毎度の事ながらSF風味ってぐらいのSF要素ですみません。

人もロボットも言いたい事は言えない、ぐらいの話です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おもろい [気になる点] おもろくない。といってしまえば矛盾がでる。 なので、ありません。ええ。 [一言] 俺のもぜひ。 よろしく。 題名、マーラシア    俺は笑った
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ