04 再び
読み進めていって、ぞっとした。今まで人間の母だと思っていた、話に聞いていたフェンロン=シェンという女海賊は、海の魔物だと記されていた。魔術使いの民の住むアル=クメニ島という、西の王国のさらに西に位置する島で、彼女は魔物の力を消そうとしたらしい。アル=クメニ島なら、一度行ったことがある。スペイン海軍に拐われて、無理矢理連れて行かれたのだ。けれど、そこで少し生き方が変われた。あの島に、本当の両親が――。
過去に浸るのをやめ、ローランド卿は続きを読んだ。海賊の計画は失敗に終わり、魔力を消そうとしたフェンロンは、その島の民に殺され、父のウェン=ツェンはその島の民を殲滅すると、帰途に海軍に捕まったのだという。
ローランド卿はちょっと待て、と思わず声に出した。義父上は一番重要なことを書いていない。もしここに書いてあることが本当なら、俺は、まだ母が魔力を持つ内にこの世に生まれた。だとしたら俺は半分、魔物の力を持つのか?
老婆からもらった羊皮紙に目をやった。アル=クメニ島とその周辺地図が描いてあった。ざっと見ると、一番下に、小さく字が書いてあった。危うく見落とすところだった。
『いつか、魔物の血は抑えられなくなる。そうなれば、心を喰われ、ただの魔物になる』
俺のことか。ため息が出る。
だが、義父上からの手紙には、これを捨てるかどうするかは俺次第だとあった。俺がもし、これを捨てていたら、どうなっていたんだ。所詮、俺は復讐の道具に過ぎなかったっていうのか?こうやって手がかりを残してくれたことを、自分を大切に思っていたからだと思いたい。だがそもそも、あんな手紙の出し方じゃあ、俺が拾うとも限らない。もしかしたら、永遠に海を漂っていたかもしれないのに。本当に大切に思ってくれていたなら、必ず持っておけ、と手渡ししてくれるはずじゃないのか。
もう一度、丁寧に羊皮紙を読み返した。心を喰われる――体の感覚が無くなるのは、そういうことだったのか?このままではまずい。すぐにでもなんとかして、島に向かう必要がある。俺は、何としてでもここにいたい。この居場所を、失いたくはない。
机の引き出しから、ペンダントを取り出した。本当の父が自分に残した、たった一つのものだ。革紐に、飾り石もない古い指輪が一つ通っているだけだ。指輪も銀で出来ているようだが、腐食していてあまり綺麗なものではない。だが、海賊討伐の時以外は、守りとして首にかけていた。ローランド卿は、それを首にかけ、服の中に仕舞った。